『WatchTime』グローバル編集チームによる時計懇談あれこれ

FEATUREWatchTime
2021.02.16

『Chronos』のアメリカ版『WatchTime』は、アメリカだけでなく、インド、メキシコ、中東、トルコ、他にも姉妹誌をヨーロッパとアジアで展開しているように、世界を網羅するネットワークを構築している。このたび国境を越えて5名の編集者が集まり、2020年のそれぞれのトピックスを共有した。メンバーは、アメリカからマーク・ベルナルドと、ロジャー・ルーガー、インド版からネハ S. バージペーイー、中東版からニッティン ナーヤル、メキシコ版からアレハンドロ エストラーダだ。

Originally published on watchtime.com
2021年2月16日掲載記事

WatchTime:2020年に取り組んだうち、最も楽しく印象に残った仕事は何でしょうか?

ネハ S. バージペーイー(以下NB/インド版):2020年1月号で、フランチェスカ=カルティエ・ブリケルに著書『The Cartiers』についてインタビューをしたことでしょうか。私は本の出版前に全体を拝読する機会を得ることのできた数人のうちのひとりで、フランチェエスカと一緒に仕事をすることは絶対的な喜びでした。19世紀を生きた富裕層や著名人の歴史的逸話やスパイスの効いた小話、そして前世紀におけるラグジュアリーの変遷の中でのカルティエの役割など、読んでいて心奪われるものでした。

WatchTime

ネハ S. バージペーイー(インド版)は在宅勤務で気が滅入ったことなどないと語る。

ニッティン ナーヤル(以下NN/中東版):楽しかった仕事はいくつかありますが、オークションでインデックスがアラビア語の数字仕様のモデルが人気を獲得しつつある話題を記事にしたものが、地域色が強く、動画化できたこともうれしかったですね。

バチスカーフ モカラン

2020年7月に発表されたブランパン「バチスカーフ モカラン 限定エディション」。

ロジャー・ルーガー(以下RR/アメリカ):実際には全部です。しかし、製品のレビューを書くとしたら、ブランパンの「バチスカーフ モカラン 限定エディション」と、そしてマーク・ハイエックの海洋保護活動について7・8月号でまとめたことが特に印象的でした。業界に焦点を当てた記事としては、コロナ禍が時計の小売店に与えた影響についてスイスの老舗店主ルネ・バイエルに行った9・10月号掲載のインタビューですね。1760年から続くバイエルのファミリービジネスを通した視点から、現在の問題を俯瞰することができました。また、11・12月号でセイコーの歴史とその挑戦について調査し記事を書き上げたことも心に残っています。

アレハンドロ エストラーダ(以下AE/メキシコ版):私の場合は1・2月号で、ユンハンスについての記事を書き上げたものですね。工房を訪問し、古いタイムピースを間近に見ることができた完璧で豊かな体験は忘れがたい。皆さんにもぜひこの体験をお勧めします。

マーク・ベルナルド(以下MB/アメリカ):ひとつだけを選ぶことは本当に難しいですが、12月号でヴァシュロン・コンスタンタンの「オーヴァーシーズ」コレクションを掘り下げたことを挙げたいです。同ブランドのスタイル・アンド・ヘリテージ・ディレクター、クリスチャン・セルモニの多大な協力のおかげで、読者とともにヴァシュロン・コンスタンタンの歴史について深く学ぶことができました。

WatchTime:2020年に刊行されたWatchTimeの中で、お気に入りの号はどれですか?

NB/インド版:タグ・ホイヤーの「カレラ スポーツ クロノグラフ」が表紙になった号がお気に入りです。白と青を基調とした配色で、背景にはスピードを出すレーシングカーが描かれており、カレラの精神が見事に表現されています。

NN/中東版:私はWatchTime中東版の春号で、グランドセイコーの60周年記念限定モデル、Ref.SLGH002 を表紙にしたものです。アラブ首長国連邦で外出禁止令が出される直前に発刊されたものでした。

RR/アメリカ:表紙のデザインでは、オメガの新しい「コンステレーション」が飾った9・10月号と、セイコー プロスペックスの通称"SUMO"ことRef.SPB179が飾った11・12月号の印象が強いです。

WatchTime

『WatchTime』の表紙デザインの数々。

AE/メキシコ版:私はブレゲ「トラディション レトログラード デイト 7597」が表紙を飾った号を挙げますね。この時計はオープンワーク仕様で12時位置にオフセットダイアル、6時位置にレトログラード表示を備えた驚愕のタイムピースで、ブレゲの決意と市場での確固たる地位を示すものでした。

NB/インド版:私はブランパンとWatchTimeのコラボレーションで「バチスカーフ モカラン 限定エディション」独占の独占取材が実現した7・8月号掲載を挙げます。このプロジェクトにかかった時間と努力がどれほどのものかを知っているだけに、ひとしおです。

WatchTime:2020年に発表された時計の中で最もお気に入りの1本は何ですか?

NB/インド版:私のお気に入りは、オメガの「スピードマスター “シルバー スヌーピー アワード” 50周年記念」 です。その「カッコよさ」には驚かされました。特にケースバックの気の利いたディテールが大好きで、他のスピードマスターと比較しても独特の個性が光るものです。

H.モーザー「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」の、ブルーのフュメダイヤルを採用したモデル。

NN/中東版:H.モーザーの「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」ですね。"一体型ブレスレットを備えたスポーツウォッチ"というカテゴリーには他にも多くの作品がありますが、H.モーザーはこのモデルでよくやってくれたと思います。

AE/メキシコ版:私も同じく「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」を挙げます。力強いブレスレット、特徴あるトノー型ケース、シンプルでクリーンな文字盤と、独特な自動巻きクロノグラフムーブメントの組み合わせはH.モーザーの中でも特出した1本でしょう。

RR/アメリカ:コロナ禍で街が閉鎖されたりしたにも関わらず、2020年に力強い新作が多く発表されたことは意外なことでした。中でも特筆すべきはグランドセイコー、セイコー プロスペックス、ゼニスを筆頭としたLVMH グループの各ブランドで、これらは通年で驚くような展開をしてきました。私が特に楽しんだふたつのモデルは、独創的なアイデアが組み込まれたゼニスの「パイロット タイプ20 ブループリント」と、オメガの「スピードマスター “シルバー スヌーピー アワード” 50周年記念」 です。

スピードマスター “シルバー スヌーピー アワード” 50周年記念

オメガ「スピードマスター “シルバー スヌーピー アワード” 50周年記念」 のケースバックを紹介した動画は、インスタグラムで最多の「いいね」を獲得したもののひとつ。

MB/アメリカ:私はブレゲより「クラシック ダブルトゥールビヨン5345〝ケ・ド・ロルロージュ〞」を挙げます。その外観と機構、そしてブレゲがシリコンなどモダンな素材ではなく、ステンレススティールやゴールドをこの超複雑なムーブメントの重要なパーツ素材として採用したことに完全に魅せられてしまいました。

WatchTime:2020年に最も恋しかったことは何ですか?

NB/インド版:旅ですね。時計に実際に触れることも少なかったです。

2020年1月に行われた「LVMH ウォッチ ウィーク ドバイ 2020」は、1年の最初に新作時計を実際に目にする機会となっただけでなく、通年で唯一の国際的な見本市となった。左からアメリカのロジャー・ルーガーと、インド版のネハ S. バージペーイー。

NN/中東版:スイス出張でしょうか。パレクスポの暑い会場やバーゼルワールドの法外に高いラーメンの値段を懐かしむことになるとは思ってもみなかったです。

AE/メキシコ版:人と触れ合うこと。人と移動なしに、時間を計測する意味はないと思いますから。

RR/アメリカ:ニューヨークのオフィスでのチームとの定例会議でしょうか。また土曜日にマディソン・アベニューとフィフス・アベニューで過ごして、時計ブランドのブティックをチェックすることですね。

MB/アメリカ:挙げればきりがありません。展示会からブティックイベント、ブランドの代表者や仲間のジャーナリストと直接会うことなど、この業界を取材してきた10年以上の間に慣れ親しんできたことのすべてです。国際的なビジネスでありながら、人と人とが非常に密接な関係にある業界なので、関係を維持するのが大変でしたが、最重要なことでした。

WatchTime:2020年一番の驚きは何でしたか?

NB/インド版:時計ブランドの各社が自らをデジタル展示会やEコマースに順応させていくスピードと適応力の高さです。

NN/中東版:小売店でもオークションでも、オンライン販売が発展していく様子。

AE/メキシコ版:デジタル化した環境にみんなが適応していく様子。宝石商、流通業者、ブランド、顧客、報道関係者など、この業界のすべての人が、厳しい時期を生き延び、再活性化させるために協力し合う必要性を学びました。

RR/アメリカ:8月の「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ2020」に参加し、4日間にわたって新作時計を手に取り、業界のメンバーとリアルに交流できたことです。スイスがコロナ禍の第2波に襲われ始めたのと同じ頃です。

「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2020」におけるノミネート作品の展示はラ・ショー・ド・フォンの国際時計博物館(MIH)で行われたが、その授賞式はオンラインで行われた。

MB/アメリカ:私たちは前例のない困難な環境下での時計業界の回復力を目の当たりにしました。多くのブランドにおける重要な製品の発表、記念日のお祝い、パートナーシップの開発と構築などは、2020年3月の時点では2021年に延期される可能性が高いと思われていました。しかし実際にはウォッチズ&ワンダーズに始まり、オンラインをプラットフォームとした展開をあっという間に確立しました。私たちWatchTimeアメリカ版も、動画中継イベントによって各地の消費者とブランドやインフルエンサーとの新たなつながり方の可能性を見いだしました。

WatchTime:2021年、時計業界に期待することは何ですか?

NB/インド版:プロダクトに真の意味での革新性を見る機会を得たいと思っています。ブルガリが2020年に見せたように、その他のブランドにも同じような期待をしたい。できればこれ以上"ヴィンテージ風"の時計が氾濫しないことを願っています。

「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2020」において、ブルガリの「ブルガリ アルミニウム クロノグラフ」はアイコニック ウォッチ部門賞を受賞した。

NN/中東版:もっと面白い価値提案を期待したい。業界、および時計愛好家がそれを得られることを神は知っています。

AE/メキシコ版:多岐にわたる独創性ですね。センスがよく、賢いプロダクトであってほしいです。愛好家たちは落ち着きのあるデザインを持ち、計算され、考え抜かれたプロダクトを求めています。平たく言うと、時計作りの基本的な考えに回帰するということではないかと思います。

RR/アメリカ:時計業界は、愛好家との関係性を再度構築する方法を模索する必要があるのではないかと思います。そこには時計を実際に見る機会、流通、提案、コミュニケーションが含まれています。

MB/アメリカ:皆さんに同意します。2021年にはより多くの人の介在が見られるウォッチコミュニティの拡大を願います。また今年多くのブランドが体験したオンラインによる直販が2021年にも継続してほしいと考えています。入手可能性と流通、提供とコミュニケーションの可能性が広がるからです。

WatchTime:2020年中に自分自身で時計を購入しましたか?

NB/アメリカ:購入はしていませんが、2020年に発表されたジャガー・ルクルトのワインレッド文字盤の「レベルソ・ワン」は21年中に手に入れる予定です。

AE/メキシコ版:新興ブランドBA1110Dの「チャプター 1.2」を入手しました。美しいブルー文字盤で、6時と8時位置に同期するふたつの脱進機を備えたものです。ブランドのコンセプトは壮大で、時計業界全体がいかに共依存の大きなネットワークを構築してきたかを示しています。

NN/中東版:6歳の娘用にフリック・フラックのHodinkee エディションを購入しました。この春に置き時計で時間の読み方を習ったばかりです。

RR/アメリカ:コレクションの入れ替えとして、1月にラドー「キャプテン クック オートマティック」のグリーンダイアルモデルを入手しました。

シーマスター ダイバー300M 007エディション

2021年10月に公開予定の映画「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のためにオメガが作った、「シーマスター ダイバー300M 007エディション」。

MB/アメリカ:オメガの「シーマスター ダイバー300M 007エディション」です。じきにレビューを掲載しますので、ご期待ください。


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