個性だけではないトータルバランスの良さが魅力。コルム「アドミラル レジェンド 38」をインプレッション

2021.12.20

今回インプレッションを行ったのは、コルムの2020年新作の「アドミラル レジェンド 38」だ。本作は、近年はやや大型のモデルに偏っていたアドミラルコレクションに追加されたケース直径38mmのモデルで、アドミラルの魅力が凝縮されている。コンパクトなモデルを好む筆者にとって気になる1本であった。21年9月にブレスレットモデルも追加され、注目度が高まっているモデルである。

特徴的なガンブルーと、国際海洋信号旗をモチーフとしたインデックスに注目が集まることの多いアドミラルであるが、しばらく着用してみるとデザインのバランスに優れ、さまざまなスタイルにマッチする魅力がある、パッケージングの上手いモデルであると感じた。では、従来モデルのデザインコードを引き継ぎつつ、大きくアップデートされた外観に着目してレビューしていこう。

コルム

佐藤しんいち:文・写真
Text by Shinichi Sato
2021年12月20日掲載記事

コルム アドミラル レジェンド 38

 アドミラルコレクションは、1960年に初出の「アドミラルズカップ」をルーツとする。これは、イギリスのセーリングクラブによる同名のヨットレースを記念したもので、当時としては珍しい防水性能を持ったスクエアモデルであった。83年発表のモデルより、現在にも引き継がれる12角形ベゼルに国際海洋信号旗のインデックスを備え、ガンブルーのイメージカラーを採用するようになった。

 ガンブルーとは、銃器の耐食性を向上させるために薬剤で四酸化三鉄の被膜を生成させた(この加工をブルーイングと呼ぶ)際の色味に由来する。ブルーイングが日本の金属加工現場では黒染めと呼ばれているように、そのままでは被膜はかなり黒っぽい。この表面をガンオイルで手入れすることによって、本作に採用されるような光の反射に青味が際立つようになるそうだ。

 2021年3月時点でラインナップされている「アドミラル レジェンド42」および「レジェンド 42 クロノグラフ」は共にケース径42mmであった。ここに20年、よりコンパクトな38mm径の本作が追加された。両者を見比べると、デザインにかなり手を入れたことが分かる。

アドミラルズカップ38mm

コルム「アドミラル レジェンド 38」A082/04048
自動巻き(CO 082)。21石。2万8800振動/時。SS+ブルーPVD(直径38.0mm、厚さ 9.3mm)。ベゼル部に18KRG。50m防水。96万8000円(税込み)。

 本作は、ケースとベゼルはPVDでガンブルーに染めたステンレススティールで、文字盤およびストラップもガンブルーとしている。また、21年9月にはガンブルーを基調としてリンク部品にピンクゴールドカラーの挿し色の効いたブレスレットモデルも、日本限定モデルとしてラインナップされた。

 構成は、センターセコンドに3時位置のデイト表示である。42mm径の従来モデルのスモールセコンドが少し窮屈な印象のある配置であったので、センターセコンド化は好ましいと感じる。特徴である12角のベゼルを18Kローズゴールドで際立たせながら、風防を丸型に変更し、リュウズガードも控えめなものとしてエレガントな印象を与えることに成功している。

アドミラル レジェンド 42

コルム「アドミラル レジェンド 42」A395/03796
ケース径42mmの従来モデル。自動巻き(CO 395)。27石。2万8800振動/時。SS+ブルーPVD(直径42mm、厚さ9.5mm)。50m防水。70万4000円(税込み)。


文字盤およびインデックスの作り込み

 時分針は蓄光塗料を配さず、肉抜きのない、どっしりとした印象を与えるローズゴールドカラーに改めた。また、コルムの鍵のロゴをかたどった秒針が与えられている。

正面

従来モデルはケースやベゼル、リュウズガードの角を感じるデザインであったのに対し、本作はベゼルや風防、リュウズガードに丸みを印象付けるデザインが与えられた。それと同時に、太く、たくましい印象を与えるローズゴールドカラーの時分針としたことにより、エレガントな雰囲気に傾きすぎず、全体のバランスが取られていて好ましい。

 アドミラルのインデックスは、国際信号旗をモチーフとしている。通信機器が発達していなかった時代に、目視できる距離にいる船舶同士が意思疎通する世界共通の手段として、数字や文字に対応付けられているのが国際信号旗である。それぞれの旗は、くっきりとした細工によって描かれており、丁寧にゴールドで縁取りされている。また、どの色も発色が良くて鮮やかで、キレがある。 

 文字盤はレコード状の筋目模様、インデックスへつながる梨地の台状部分、中央部のフラットな面と変化に富む。この文字盤上の抑揚によって、インデックスの位置に視線が誘導されて視認性の良さにつながっている。また、中央部が12角となっている点も、12角のベゼルデザインと相似形を成しており、このモデルの個性を上手く取り込んでいる。デイトのディスクも文字盤色に合わせられており、全体の統一感を高めている。

ダイアル

インデックス、チャプターリング、三階層に分かれた文字盤など、立体感に富んでいる。それぞれの箇所に異なる処理が施されているために、光の反射がさまざまで奥行きを生んでいる。屋外で映えるのは、この文字盤の複雑な形状によるものだろう。


意外にも服装を選ばずに高評価

 着用してみると、時計全体を染めたガンブルーの色調が落ち着いた印象を醸し出しつつ、針とベゼル部のローズゴールドの色調がデザイン上のコントラストとして効いて、派手すぎない華やかさを添えているのを感じる。イエローゴールドでなく、落ち着いたローズゴールドとしたのが良い結果を生んでいる。

 また、筆者の予想に反してドレスシャツ、カジュアルなデニムシャツ、ニットなど様々なスタイルとの相性が良いのが面白いと感じた。コンパクトなサイズ感や、時計全体の色味を揃えて仕上げられている点が、デザインに引き締まった印象や一体感を与えており、種々のスタイルとの相性を良くしているのであろう。シーンを選ばない時計が注目される昨今では歓迎されるポイントである。

リストショット

海を意識して、フィッシャーマンニットを思わせるグレーのニットを合わせてみた。空の青色と日光にガンブルーが映える。秒針にあしらわれたコルムの鍵のマークによる影が、くっきりと文字盤に落ちている。ケース厚さ9.3mmの薄さと、薄手で柔らかなストラップによって装着感は非常に優れている。ドレッシーなシャツの袖元を彩り、着用例に挙げたカジュアルな装いともマッチングが良い。リュウズは円周方向にも溝が切られており、ここに爪を引っ掛けることができるので操作しやすかった。

 イメージカラーとなるガンブルーは、濃紺のデニムのような深い色合いで、普段は黒っぽいが光の反射に金属的な青味を感じる。青空や海、強い日差しに映える点が印象的である。「可能であれば屋外で確認して欲しい」と、難しい注文を付けたくなるほどその印象が良かった。ローズゴールドカラーの時分秒針は、文字盤とのコントラストが高くて光を反射する。わずかに光がある環境であれば、鏡面仕上げの針が反射して視認性は良い。

 アリゲーターのストラップは、やや薄手でフラットな仕立てであり、柔らかで装着感に優れる。ストラップは長さ違いで2種類用意されており、この個体はロングタイプが取り付けられていた。腕の太さが17.5cmの筆者が着用すると、締め込む方向に穴をひとつ残すのみで少し長いと感じた。オプションとなるショートタイプは約2cm短いとのことで、筆者の手首の太さを参考に選ぶと良いだろう。

 今回はチェックすることができなかったが、別モデル用の3連ブレスレットも、しなやかで着用感に優れるものが用意されている。腕の細い人にもマッチしやすいコンパクトなモデルで、イメージカラーに合わせて仕立てた着用感の良いストラップおよびブレスレットが用意されていることから考えて、本作は着用感に着目して企画されていると言えそうだ。


魅力ある外観だが性能面での物足りなさもある

 本作で残念に思うのは、防水性能が50mと控えめな点である。ネーミングはマリンスポーツに由来し、ルーツとなったモデルは(当時の水準に比べて)防水性能を高めたモデルであったことから、本作では100m防水程度にまで高めた方が、モデルの由来や歴史を上手く表現して魅力が増すと考えるためだ。せっかくの屋外で映えるガンブルーを身にまとっているのだから、この性能アップは訴求力の向上につながるはずだ。

 96万8000円(税込み)のプライスタグは、エッセンシャルな3針モデルであることを考えると割高に感じるところもある。しかし、文字盤とインデックスの作り込みには一定の説得力がある。ドレッシーな装いからカジュアルなスタイルまでマッチする、決して奇抜では無いエレガントさのある点は、購入に向けた加点要素のひとつだろう。

 しばらく着用してみて、本作は優れたパッケージングを持つことが分かった。さりげなくも個性のある出で立ちに、薄手でコンパクトな着用感は高評価だ。アドミラルコレクションの持つ魅力が凝縮されたモデルだと感じたため、今後コレクションの中で中核を為すモデルとして注目度が高まることを期待している。


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コルム【2021 新作】日本市場でのみ展開する、ブレスレットタイプの「アドミラル 38 オートマティック」

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