ほとんどのダイバーズウォッチや、タフなフィールドウォッチにねじ込み式リュウズが採用されている点から、この機構が防水性や堅牢性を高める工夫であることは容易に想像が付く。では実際、ねじ込み式リュウズにはどのような効果があるのか? 今回はねじ込み式リュウズのメリットを再考し、適切な運用方法を紹介しよう。
Text by Shinichi Sato
2021年4月1日掲載記事
画期的なねじ込み式リュウズの登場
防水性能を腕時計に与えた先駆者として、真っ先に名前が挙がるのがロレックスである。同社によると「ロレックスが1926年に発明したオイスターは、ベゼルと裏蓋、リュウズがミドルケースにねじ込まれた特許取得のシステムを備えた世界初の腕時計用防水ケース」とある。ここで今回注目すべきは、1926年の時点でねじ込み式リュウズが誕生していたことと、防水性能を高めるための機構として、スクリューバックと共にねじ込み式リュウズが重要視されていた点にある。
30年にはミドーがコルク・クラウンシーリングシステムの量産に成功するなど、リュウズ周りの防水性能を高める方策は多数提案されてきた。しかし、より早く実用化されたねじ込み式リュウズが現在においても採用されていることは、いかに画期的で合理的な構造であったかがうかがい知れる。
ねじ込み式リュウズの構造と防水性能を高める工夫
ねじ込み式リュウズは、リュウズ内側にめねじが、ケースから伸びたチューブにおねじが切られており、それらを嵌合させた状態で使用する。通常使用時はねじが締め込まれた状態であるので操作できず、巻き上げや時刻修正時には、ねじを緩めて嵌合を解放する必要がある。
ねじ込み式リュウズのねじ部の嵌合が、水分の浸入を防ぐ効果をもたらす。しかし、高い水圧がかかる条件下では不十分であると考えたブランドのひとつがセイコーで、同社のダイバーズウォッチではリュウズ内に非常に分厚いパッキンを備えることで防水性を大きく高めた。
国産初の飽和潜水対応モデル。ねじ込み式リュウズや機密性の高いワンピースケースを採用し、600m防水を実現した。セイコーのダイバーズウォッチの基準を定めた時計。自動巻き(Cal.6159)。25石。3万6000振動/時。Ti×セラミックコーティングチタン。600m防水。参考商品。
パッキン(Oリング)の防水性能を十分に発揮するためには、これを適切に圧縮しなければならず、ねじ込み式リュウズのねじの締め込みはOリングの圧縮のためにも必要なのだ。
ねじ込み蓋式の保温ボトルを手元にお持ちの方は蓋部分に注目してほしい。多くはOリングか、それに近いゴムパッキンが備わっている。そして、使用時に締め込むと「キュッ」とゴムが鳴る音がしてゴムの抵抗感を感じるはずだ。この時、蓋のねじ込みによってOリング(もしくはそれに準ずるパッキン)が潰されており、これによって防水性が確保されている。ねじ込み式リュウズと構造は異なるが原理は近い。
産業用のOリングのカタログを見れば、形状に適した配置方法と、どれだけ圧縮するかを示す"つぶし率"の適正値が示されている。Oリングの最適な使用には、いかに圧縮するかが重要なのであるのか分かるだろう。ねじ込み式リュウズでは、リュウズを締め込むことでリュウズが格納されてゆき、最終的にOリングを適切に圧縮して締め込みが完了する。この状態でOリングが最大限の防水性を発揮できるように設計されている。
ねじ込みを利用するメリットは他にもある。ねじ込み式ではないリュウズと巻き真の場合、巻き真に対して垂直方向の力をケース側で支えているのはOリングだ。よって、リュウズが力を受けるとOリングが押された方向に圧縮され、逆側の密着度が下がり、厳密に言えば防水性能が低下してしまう(リュウズチューブが有れば、ある程度押されると支えとなって、極端な性能低下は起きにくい)。
一方、ねじ込み式リュウズの場合は、ケースに組付けられたチューブを通じて、リュウズはケースとしっかりと結合されている。これにより、リュウズと巻き真に対して垂直方向に力が加わっても巻き真に力が加わらず、Oリングの変形を抑えて防水性の悪化も防ぐことができる。以上の事からねじ込み式でないリュウズに対して、堅牢性が大幅に向上しているのが分かる。
ねじ込み式リュウズを採用するモデルを使用する上での注意点
先に述べたように、ねじ込み式リュウズは締め込まれた状態で防水性が確保されるように設計されている。よって、手や時計が濡れた状態でリュウズを操作するとケース内に水が侵入する可能性があるため避けなければならない。また、リュウズのねじの嵌合を解放した状態のまま使用してはならない。防水性が確保できないだけでなく、このままの状態でリュウズに何らかの衝撃が加わると、巻き真が折れてしまう危険性が非常に高い。
Oリングが適正に潰されていれば防水性が確保されるため、しっかり締め込まれた状態が良い。とはいえ、どれだけねじ込めば十分なのかは判断が難しいところだ。締め込む力が足りないかと心配な人は、一度自分の力加減で締め込んでみて、購入店のスタッフに締め込み具合を確認してもらうのが良いだろう。その後は自分の力で緩めることができるか確認することも忘れてはいけない。十分な指の力を持つユーザーでも、長期間の運用によってリュウズが緩む(振動、手の甲との接触、あるいは締め込み忘れ)可能性もあるため、日常的に締め込み具合を確認すると良いだろう。
ねじ込み式リュウズで最も注意すべきは、ねじの噛み込みだ。おねじとめねじが、適切な位置関係でないところで無理に締め込もうとすることで、ねじ面が損傷して喰い込んでしまう。この状態だとねじが最後まで締まらず、ねじ部の隙間も大きいため防水性を確保することができない。また、ねじ面が損傷してしまっているため、最悪の場合はチューブとリュウズの交換が必要となり、修理にはそれなりの出費を覚悟する必要がある。
この状態を避けるためには、ねじ山の位置関係を確認してから締め込むことを推奨する。締め込み前にリュウズを真っ直ぐに押し込んで(強い力である必要はない)緩める方向にリュウズを回すと、ねじ面同士が当たって滑る感覚が指に伝わってくる。このまま回していると、ねじの嵌合が始まるポイントで"コクン"と奥に落ち込む感触が得られる。ここからゆっくりと締め込みを開始すれば、スムーズに嵌合させることが可能だ。なお、適切な締め込みの開始ポイントは個体によって決まっているので、リュウズ端面にマークが描かれているものは、それを目安に覚えておく手もある。
なお、今回取り上げているねじ込み式リュウズではないが、Oリングの圧縮で防水性を確保していると分かりやすいのがパネライの「ルミノール」だ。リュウズプロテクターと呼ばれるロック機構によってリュウズを押し付けてOリングを圧縮し、(モデルによって異なるが)300mの防水性能を確保している。
この方法ならば、上記で述べたようなねじ込み時の“失敗”も極力減らせられるだろう。
最後に
防水性確保のための重要な仕組みのひとつであるリュウズについて、ねじ込み式は防水性と堅牢性を高める合理的なソリューションである。その性能を確実に発揮させるために、仕組みを簡単に理解した上で、適切に使用していきたいものだ。
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