ロジェ・デュブイ、掟破りのフライングトゥールビヨン

2021.04.05

2021年4月7日から13日までの1週間開催される「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2021」。昨年に続き、今年もネットとオンラインによる100%デジタル・サロンでの新作発表が決まっている。そこで発表される新作のうち、ロジェ・デュブイのハイライトをいち早くお届けする。毎年、外連味溢れる審美性と高い技術力、そして素材への飽くなき探求を見せてくれるロジェ・デュブイ。今年注目の新作は、今やお家芸と言えるモダンスケルトンをさらに大胆に採り入れたシングルフライングトゥールビヨンだ。

エクスカリバー シングル フライング トゥールビヨン

エクスカリバー シングル フライング トゥールビヨン
ロジェ・デュブイのみに限定供給されるコバルト合金をケースに採用した新作。コバルト合金は経年変化しにくく、耐傷性も高い。研磨した際の輝きが美しく、仮に傷が入っても研磨された表面上では目立ちにくいという特性を持つ。Ref.RDDBEX838。手巻き(Cal.RD512SQ)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。コバルト( 直径37.1mm、厚さ6.9mm)。10気圧防水。世界限定88本。1650万円(税込み)。6月発売予定。
鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
クロノス日本版 2021年5月号 掲載記事


芸術と革新の相克を超えて

「スケルトンはそれ自体がコンプリケーションと見なすことができ、またそうすべきです」。こう断言するのは、ロジェ・デュブイのプロダクト・ストラテジー・ディレクターとしてムーブメントの設計を手掛けるグレゴリー・ブルタン氏だ。「ロジェ・デュブイがスケルトンの開発を開始してから15年以上が経過し、何年にもわたってスケルトン化のノウハウを蓄積してきました。故に、革新的なスケルトントゥールビヨンを発表できるのです」。

エクスカリバー シングル フライング トゥールビヨン

新作のトゥールビヨンキャリッジは、磁気帯びしない3種類の非磁性合金で構成される。軽量化のためのチタン合金はキャリッジの構造体に、研磨して審美性を持たせられるコバルト合金は表側から見えるキャリッジの構造体や秒針に、複雑な形状を高い加工精度で与えられるニッケル・リンは新規設計の脱進機に採用される。

 もはや芸術作品と言ってもいいくらい審美性高く、個性豊かに仕上げられた新作のスケルトントゥールビヨン。しかも、ロジェ・デュブイはすべてのトゥールビヨンムーブメントがジュネーブ・シールの基準を満たす。美観と実用性という一見相反する特性を併せ持つロジェ・デュブイの複雑時計。果たして、何が革新的なのだろうか?

「我々が成し遂げた革新は技術的、審美的な要素を追求するだけでなく、たとえ複雑時計であっても日常的に使用できるように製品を向上させるというひとつの目標を目指して行われました」

グレゴリー・ブルタン

ロジェ・デュブイのプロダクト・ストラテジー・ディレクターを務めるグレゴリー・ブルタン氏。ロジェ・デュブイが搭載するムーブメントの設計を手掛ける。輪列や機能部品をコンパクトにまとめ、巧妙にスケルトナイズする手腕に長ける。ケースやムーブメント部品の素材にも注力し、新作では粉末冶金で焼結されたコバルト合金をケースとキャリッジの一部部品に採用する。

 それをかなえるため、今回の新作フライングトゥールビヨンで注目すべきは、耐衝撃性、耐磁性、軽量化である。

「最初のポイントは耐衝撃性です。新作トゥールビヨンは偶発的な落下(2000〜5000G)を含め、スポーツウォッチの非常に厳しい基準に適合しています。そのため、トゥールビヨンキャリッジにコバルト合金とチタン合金を採用し、耐久性を持たせながらも軽量化しています」

エクスカリバー シングル フライング トゥールビヨン

裏側から見ると、主ゼンマイが収納された香箱からトゥールビヨンキャリッジまで輪列がほぼ一直線であることが分かる。輪列をコンパクトにまとめることでスケルトナイズできるスペースをより多く確保している。フライングトゥールビヨンはボールベアリングで支えられる。耐久性の高いセラミックス製のボールを使用している点にも注目。

 加えて、スケルトンウォッチは構造上、磁気に対する耐性が低い。耐磁板などのシールドを設けることができないからだ。そのため、ヒゲゼンマイの周りに磁場が集中するのを避けるため、非磁性材料で完全に再構築された。具体的には、キャリッジの軽量化にも寄与したチタン合金とコバルト合金に加え、今回、脱進機に採用されたニッケル・リンである。すなわち、トゥールビヨンキャリッジを非磁性の3つの合金で構成することで、シールドを持たないスケルトン化されたフライングトゥールビヨンであっても、磁気への十分な配慮がなされているのだ。ニッケル・リン製の脱進機に注目すると、複雑な形状と高い加工精度が可能なLIGAプロセスで成形されるため、新作では脱進機を構成するガンギ車とアンクルの形状が変更されている。加えて、歯車の形状を最適化してトルクロスを低減するため、輪列も全体的に再設計された。さらに、香箱に収められた主ゼンマイも完全に更新され、軽量化されたトゥールビヨンキャリッジと相まって、パワーリザーブを約72時間まで延ばすことができた。しかも、主ゼンマイが描くトルク変動曲線のフラットな部分だけを使用しているため、この72時間は最小のパワーリザーブを提示しているに過ぎない。

エクスカリバー シングル フライング トゥールビヨン

スズとパラジウムを加えることでゴールドの安定性を向上させ、退色しにくくしたピンクゴールドをケースに採用したモデル。Ref.RDDBEX836。手巻き(Cal.RD512SQ)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPG(直径37.1mm、厚さ6.9mm)。10気圧防水。世界限定88本。1782万円(税込み)。8月発売予定。
エクスカリバー シングル フライング トゥールビヨン

グレーDLC加工を施したチタンをケースに採用したモデル。Ref.RDDBEX889。手巻き(Cal.RD512SQ)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。グレーDLC加工Ti(直径37.1mm、厚さ6.9mm)。10気圧防水。世界限定88本。1650万円(税込み)。4月発売予定。

 星をかたどったスケルトン加工と巨大なフライングトゥールビヨンに目を奪われがちだが、その実、芸術性と実用性を兼ね備えた才色兼備な個性派。これこそが、ロジェ・デュブイが手掛ける掟破りの新作トゥールビヨンの本質なのだ。その詳細は、4月7日から開催されるデジタル版「ウォッチズ&ワンダーズ」でぜひ確かめてほしい。



Contact info: ロジェ・デュブイ Tel.03-4461-8040


【インタビュー】ロジェ・デュブイのプロダクト・ストラテジー・ディレクター「グレゴリー・ブルタン」

https://www.webchronos.net/features/58521/
【漫画】ジュネーブの伝統と革新の旗手、ロジェ・デュブイ

https://www.webchronos.net/comic/56347/
ロジェ・デュブイは眠らない

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