オメガのコーアクシャル脱進機を解説。選ぶメリットとデメリットとは?

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2023.04.28

高級時計メーカーの一角を担うオメガの腕時計は、ビジネスの現場や社交界などあらゆるシーンにマッチする品格を備えている。現在発表されているほとんどのモデルの心臓部となっている「コーアクシャル脱進機」の特徴や魅力をはじめ、搭載モデルを紹介しよう。

オメガ


オメガ独自の機構「コーアクシャル脱進機」とは?

オメガを語る上で「コーアクシャル脱進機」について触れないわけにはいかない。コーアクシャル脱進機は、革新性に満ちており、現代のオメガを象徴する機構と言ってよいだろう。その特徴や仕組みを探りながら、コーアクシャル脱進機の深淵に触れていこう。

コーアクシャル脱進機の特徴

「CO-AXIAL(コーアクシャル)」は「同軸」という意味を持つ。最大の特徴は、脱進機の摩擦を徹底的に軽減させている点にある。そのことにより、メンテナンスサイクルの長期化を実現することに成功した。

脱進機は、主ゼンマイの動力を、ガンギ車からアンクルを介してテンプに伝える機構だ。正確に時を刻むには、歯車を一定の速度で回転させる必要がある。主ゼンマイを内蔵した香箱から香箱車を経て、輪列へ供給される歯車の回転運動が伝達する動力をテンプの往復運動に変換するとともに、調速機であるテンプが生み出す規則性のある振動で輪列を制御する機構だ。

スイスレバー

上は通常のスイスレバー脱進機。輪列の回転運動をガンギ車とアンクルを用いて左右の往復運動に変換し、テンプへ伝えるという役割を持つ重要な部分だ。

ひとつのアンクルにある、ふたつの爪石が、円形の歯車であるガンギ車からの回転エネルギーをアンクルへ伝達し、回転運動を往復運動に変換する役割を担う。爪石がガンギ車の歯に触れる回数は1秒間に5~10回で、その際、激しい摩擦が生じる。

標準的な機械式時計では、4~5年ごとにオーバーホールが求められる。これに対して、コーアクシャル脱進機では8~10年という長いスパンにわたって、メンテナンスせずに使用し続けられるのである。

コーアクシャル脱進機の仕組み

8~10年というオーバーホールの間隔は、一般的な高級時計に比べてもはるかに長いスパンだ。ほとんどのタイムピースの約2倍の期間、安定した動作を続けるポテンシャルがある。

その秘密は、脱進機の摩擦を、極限まで軽減させたことによる。脱進機内の負荷を徹底的に抑えることで、メンテナンス間隔の長期化を達成しているのだ。

コーアクシャル脱進機

コーアクシャル脱進機は、赤い四角で囲った部分だ。3層の歯車で構成されるガンギ車の歯先と、アンクルの3つの爪石の接触面積を極小化することで、動力のロスが少なく高い伝達効率を実現した。

通常使用するガンギ車は1枚であるが、コーアクシャル脱進機では2枚使用している。それらを重ねて、同軸上に配置する。

ガンギ車の数が倍になることで、アンクルの爪も3カ所となる。その結果作られる二重共軸車と呼ばれる構造がエネルギーの分散を図り、摩擦の大幅な軽減に成功したのである。


コーアクシャル脱進機の上位規格

オメガの代名詞とも言えるコーアクシャル脱進機であるが、その上位規格も存在している。ここではふたつの脱進機について掘り下げていきたい。

耐磁性に優れるマスター コーアクシャル

1957年にデビューしたシーマスターは、水中作業のプロフェッショナル用としてデザインされ、高い評価を得た。シーマスターの2014年モデルに搭載されたのがマスター コーアクシャルだ。

マスターコーアクシャル

最大の特徴は、1万5000ガウスという圧倒的な耐磁性能だろう。無論、それ以前もムーブメントを軟鉄製のインナーケースに収めるなどして、耐磁性能の向上には取り組んでいた。しかし、多くのメーカーの限界は、1000ガウス程度であった。

マスター コーアクシャルでは、MRI(核磁気共鳴画像法)を通過させても、精度を落とすことはなかった。過酷なC.O.S.C.(スイス公式クロノメーター検定協会)のテストにも合格し、極めて高い信頼性を証明している。

耐衝撃性も兼ね備える マスター クロノメーター

コーアクシャル脱進機の誕生後、その精度の高さは広く世界に知れ渡ることとなった。搭載したタイムピースのクォリティを客観的に証明するための試験「METAS(スイス連邦計量・認定局)」が設けられたのは2015年のことである。

マスタークロノメーター

オメガとスイス連邦計量・認定局(METAS)が共同で制定した認定制度がマスター クロノメーターだ。2023年以降に発売された、すべての機械式モデルがこの認証を取得している。

同テストにおいては、C.O.S.C.の試験をクリアしたムーブメントを装備したタイムピースに対して、以下の8項目の厳格な検定基準が設定された。

  • 1万5000ガウスの磁場に触れた際のムーブメントの機能
  • 1万5000ガウスの磁場に触れた際の時計の機能
  • 1万5000ガウスの磁場に触れた際の1日平均の精度誤差
  • 時計の平均日差
  • パワーリザーブ
  • 6姿勢における精度誤差
  • パワーリザーブ残量が33%と100%の際の時計の精度誤差
  • 防水性能

C.O.S.C.とMETASの厳格なテストをクリアしたものだけが、マスター クロノメーターの名を冠することができる。

検定を受けるにあたっては、5000G相当の耐衝撃性テストも実施される。想像を絶する衝撃に耐える性能も併せて証明されているのだ。