2020年、IWCは「ポルトギーゼ」ファミリーにいくつかの新しいモデルを追加した。そのひとつがコレクションを象徴するクロノグラフだ。古くからの友人とも呼べるこのモデルは、現在トレンドとなっているグリーンダイアルと自社製造ムーブメントを備える注目作である。2021年の新作が発表される直前であるこのタイミングで、一度20年モデルを振り返っていこう。
Text by Martina Richter
Edit by Yuzo Takeishi
2021年4月6日公開記事
これまでほぼ手が加えられてこなかった「ポルトギーゼ」の端正なダイアル
素晴らしい結果が、すべての疑念を払拭した。IWC「ポルトギーゼ・クロノグラフ」の魅力的な表情は、たとえテスト機のダイアルが流行のグリーンで彩られ、光の当たり具合によってニュアンスを変化させても、古くからの知り合いであるとひと目で認識できるものだ。そして別のラインナップでは、バーガンディーのダイアルや、ブルーダイアルとローズゴールドのケースを組み合わせたブティック限定もある。
非常にクリアで特徴的、しかも機能的なダイアルは直径38mm。6時位置と12時位置にはわずかにくぼみを持たせたインダイアルがあり、スリムなリーフ針とアラビア数字のインデックスを配している。こうした要素はポルトギーゼ・クロノグラフの大きな特徴となっているため、新たなバージョンを製作するにあたっても、一部がカットされた6時と12時のインデックスを、「よりシンプルな」インデックスに変更しようという声はデザイナーからも上がらなかったという。
10年前に実施されたアップデートと最新モデルを比べてみると、ダイアル中央に向かって正体にレイアウトされた外周の数字やその書体、細かな1/4秒目盛りなどはそのまま踏襲されていることが分かる。実にタイムレスなこの時計の最新モデルは、個性的であるとともに、ダイアル外周の秒カウンター目盛りを細かく刻んでいる点から見ても計測機器としてのルーツに忠実。そして、秒目盛りの間に配された3つの刻みは、IWCの69000系キャリバーのアップデートバージョンである2万8800振動/時の振動数に合わせたものだ。
ついに自社製造ムーブメントを搭載
キャリバー69355の搭載は、最新のポルトギーゼ・クロノグラフにおける最大の特徴だ。IWCのコレクションのなかでも最も人気のあるアイテムが、ついに自社製ムーブメントを搭載したのだから。「ポルトギーゼ・ヨットクラブ・クロノグラフ」が登場した10年前は、2007年発表の89000系キャリバーを搭載。69000系はその10年後に誕生したキャリバーで、4年の開発期間を経て2017年「インヂュニア・クロノグラフ」に初めて採用されたものだ。
自社製の89000系キャリバーよりもコストを抑えた、新設計の69000系キャリバーが誕生したことにより、IWCはクロノグラフのムーブメントをETA7750から徐々に置き替えていった。今回のテスト機には90万7500円のプライスタグが付いている。キャリバー89361を搭載した新しい「ポルトギーゼ・ヨットクラブ・クロノグラフ」の最もリーズナブルなモデルは142万4500円となっており、つまり、50万円もの予算を上乗せしなければばフライバック機能と約68時間のより長いパワーリザーブが得られないということになる。
このキャリバー69355、パワーリザーブは現在の標準からするとやや短い約46時間ではあるが、緩急針と偏心ネジで調整するスタイルへと変わったことにより、ポルトギーゼ・ヨットクラブ・クロノグラフに搭載されているキャリバー89361よりもシンプルな調整を可能にしている。
それ以外にも、クロノグラフキャリバー69355はコラムホイールを採用。動力伝達にはスイングピニオン、そして双方向巻き上げの自動巻き機構を採用している。ただし、この自動巻き機構は89000系キャリバーに搭載されている(元IWCのエンジニアにちなんで名付けられた)ペラトン式ではなく、リシュモングループによる最新の機構である。