今年「オクト ローマ カリヨン トゥールビヨン」を発表したブルガリ。これにより“鳴り物”への注力が達成された今、ブルガリは何を目指すのだろうか? 同グループCEOのジャン-クリストフ・ババンにオンラインインタビューを行った。
[クロノス日本版 2021年5月号 掲載記事]
複雑時計の未来を見据える、常にタイムレスなブルガリの視点
ブルガリ グループCEO。1959年、フランス生まれ。ビジネススクールでMBAを取得後、コンサルティング会社などを経て、タグ・ホイヤーのCEOに抜擢。卓越した手腕で同社を成長させる。2013年、現職に就任。外装とムーブメントの質を向上させ、常に明確なメッセージを発信することで、ウォッチメーカーとしてのブルガリに大きな注目を集め、その地位を高めた。薄型時計を“複雑時計”と位置付けた「オクト」の成功は、その象徴である。現在は社会貢献にも注力する。
「ブルガリはローマのハイジュエラーであると同時に時計産業において特別な存在です。我々はイタリアの芸術や宝飾品の美の伝統と、トゥールビヨンやカリヨンなどのグランドコンプリケーションに加え、ジュエリーウォッチやレディスウォッチまで手掛けるスイスの卓越したウォッチメイキング技術を併せ持っているからです」
とはいえ、2020年を通して世界を揺るがしたCOVID-19の影響がまったくないというわけではない。
「ただ、社会的に大きな責任を持つ企業としてのブルガリは変わりました。そして、時計作りに関してもいくつかの点で変化がありました。2020年、いくつかのプロジェクトを前倒しにしました。例えば、当初は2022年からスタートする予定だったブルガリ アルミニウムを20年に発表しました。結果、昨年のクリスマス商戦では、特に日本で好セールスを記録しました」
臨機応変な対応が奏功したかたちだ。複雑時計への対応も問うた。
「リピーターへのフォーカスという方針は数年前に宣言したものです。我々はグランドコンプリケーションのクラシカルなデザインから脱することを決めていました。多くの複雑時計が古典的な意匠の範疇にあったからです。複雑時計を現代的な“今を生きるデザイン”にするため、我々はオクト ローマのケースを活用し、すべての複雑時計のプラットフォームとしました。なぜなら、オクト ローマは非常に現代的で、とても独創的な存在だからです。加えて、グランドコンプリケーションというものが世紀を超えて受け継がれた卓越した技術力と経験の蓄積によって生み出された傑作であることをタイムレスに表現したかったからです。今年発表したカリヨンも、スイスの長い伝統と現代のマイクロメカニクスのテクノロジーの融合によって生まれたものです」
“タイムレス”とはブルガリにとって極めて重要な根幹となる哲学のひとつだ。
「同時にグランドコンプリケーションが古い時代の伝統を引き継いだ時計収集家たちだけのものではなく、現代的な超高層集合住宅に住み、モダンアートを好み、高級スポーツカーに乗る人々からも注目されることが、グランドコンプリケーションの未来の成功につながると考えます。彼らは父親世代とはまったく異なるのです」
コロナ禍にもかかわらず、ブルガリはすでに複雑時計の未来を確かに見据えている。
3つのハンマーを持つカリヨンを搭載した2021年の最新作。時間を「ド」の音、15分を「ミ・レ・ド」の連続音、分を「ミ」の音で知らせる。合計432個のコンポーネントで構成される直径35mmのムーブメントは、ミニッツリピーターとトゥールビヨンを併載しているにもかかわらず、厚さ8.35mmに抑えられた。手巻き(Cal.BVL428)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約75時間。Ti+DLC(直径44mm)。世界限定15本。3094万3000円(税込み)。
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