【インタビュー】ゼニス プロダクト・ディベロップメント&ヘリテージ・ディレクター「ロマン・マリエッタ」

今年1月、発表されるやいなや、瞬く間に話題をさらったゼニスの新作「クロノマスター スポーツ」。その指揮を執ったロマン・マリエッタに開発秘話を聞いた。

ゼニスのDNAを継ぐ〝正統派クロノマスター〟開発秘話

ロマン・マリエッタ
1982年、スイス・ヌーシャテル生まれ。2006年10月、ゼニスのマーケティング部に入社。プロダクトマネージャーを経て、09年より製品開発責任者も兼任。11年から20年7月まで製品管理責任者を務め、ゼニスのコレクションの合理化に注力し、各コレクションの美的コードとゼニス全体のDNAとの一貫性を確保。20年7月、プロダクト・ディベロップメント&ヘリテージ・ディレクターに就任。かつて12もあったゼニスのコレクションを現在の4コレクションへと合理化した。

「クロノマスター スポーツは、10分の1秒を刻むので、より良く10分の1秒を見せる工夫を凝らしました。最も外輪部にあたるセラミックベゼルに10分の1秒を刻むインデックスを設け、レーザーでセラミックスにエングーレビングを施した後、ラッカー仕上げをしています」

　そもそも新しいエル・プリメロの開発はいつ始まったのだろうか？

「このムーブメントの開発が始まったのは2017年。100分の1秒を計測できるエル・プリメロ21が完成した直後に、このプロジェクトに着手しました。2019年の終わりにクロノマスター2というエル・プリメロ50周年を祝福する限定版を出した際に、このモデルのシリアルバッチが始まりました。したがって、2017年から丸2年かかっています」

　確かに2019年末、当時の〝新型エル・プリメロ〞を搭載したクロノマスター2が日本に入荷した際も取材したことを記憶しているが、そこからさらに進化した点はあるのだろうか？

「クロノマスター2と比べると、10分の1秒を表示する点と、それを一体的に表示するデザインが今回初めてのアイデアです。ですが、長年高振動に取り組んで来た我々にとっては、これは3年前からではなく、約50年の歴史の積み重ねなのです。今回、10分の1秒を表示＝表現することを最適化できたこと。さらに脱進機の特許を2020年に取得したことが大きな進化です。この10分の1秒の表示をするため、脱進機（ガンギ車）からエネルギーを得て、駆動させるための構造に特許を取得したのです」

　一般的なクロノグラフのように動力を4番車から取るのではなく、ガンギ車から取るというアイデアはいつからだろうか？

「ロジカルに考えれば、当然のことです。どこからエネルギーを取るのか？　そして、何を駆動するのかと考えれば、やはり10分の1秒を刻んでいる〝ハートビート〞と呼ばれる振動部から取ってくることになる。この意味でも脱進機から動力を取ってクロノグラフ針に伝えていくのが、ごく自然かつ論理的な流れでした」

　開発にあたり、エル・プリメロの50年に及ぶ歴史をひもといたり、クロノグラフのスポーティーデザインとは何ぞや、という観点からクロノグラフの歴史を振り返ったりもしたという。本来戻るべき場所へと戻った、ゼニスのDNAを継ぐ〝正統派クロノマスター〞は、こうして誕生したのだ。