日本のダイバーズウォッチといえば、セイコーの「プロスペックス」を挙げる人が多いだろう。堅牢な作りと高い視認性、多彩なバリエーションとアイコニックなデザインは、今や実用時計に留まらない人気をもたらした。もちろん、一方の雄であるシチズンも、良質で使い勝手の良いダイバーズウォッチを作ってきた。しかし、セイコーダイバーのような人気を集めてきたとは言いがたい。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2021年4月26日掲載記事
意外な伏兵、プロマスター メカニカル ダイバー200m
2021年の意外な驚きは、長年エコ・ドライブ推しを続けてきたシチズンが、なんと機械式時計の新作をリリースしたことだった。2019年の「ザ・シチズン キャリバー0100搭載モデル」で、同社がクォーツとエコ・ドライブの限界を極めただけに、機械式時計という打ち出しは予想外だった。加えて、好事家を意識するようになったのも、おおよそシチズンらしからぬ。長年、手堅い実用時計を作ってきたシチズンは、良い意味ではじけてしまったらしい。
それを象徴するのが、『クロノス日本版』やwebChronosで再三取り上げてきた「ザ・シチズン キャリバー0200」である。今時のスペックで武装したこのモデルは、久々の機械式モデルとは思えないほどの完成度を備えていた。しかし、さらに注目すべきは自動巻きのCal.9051を搭載した「プロマスター メカニカル ダイバー200m」だと思っている。このモデルは、シチズンらしい実用性に加えて、凝った造形と、筆者のようなオタクも喜ぶ要素を巧みに盛り込んだものだ。
耐磁性を強化した、新しい90系自動巻き
長年シチズンを支えてきたのが、82系という自動巻きムーブメントである。今の水準からすると、決して性能は高くない。しかし生産性に優れ、よく練られた設計を持つ82系は、シチズンのみならず、安価な機械式時計には欠かせないエボーシュとなった。このムーブメントの上級版にあたるのが、90系である。振動数を2万8800に向上させることで携帯精度は向上。加えて、仕上げも改善された。このムーブメントの美観に手を加えたのが、上位機種の、09という自動巻きである。これは、かつての「ザ・シチズン メカニカル」が搭載したムーブメントだ。
21年、シチズンはその90と09(非常に紛らわしい)に手を加えて、性能を大幅に向上させた。共通するのは、耐磁性能の向上。ヒゲゼンマイや脱進機などに磁気帯びしにくい素材を使うことで、JIS規格が定める第2種耐磁をクリアしている。シチズンによると、ヒゲゼンマイはエリンバー系、脱進機はニッケル系とのこと。新しい素材がもたらした1万6000A/mという耐磁性能は、普段使いには十分だろう。また、上位機種の09は、香箱を変更することで、長い主ゼンマイを採用。約50時間というパワーリザーブを実現した。振動数を落とせば、パワーリザーブはもっと長くなっただろう。しかし、あえて留めたのはシチズンらしい。
立体的な造形と、巧みなツール感
「プロマスター メカニカル ダイバー200m」が採用したのは、上位機種の09ではなく、パワーリザーブの短い90。09であればなお良かったが、税込み13万円~14万円台という定価を考えればやむなしか。その代わりに、本作は凝った外装を与えられた。今までのプロマスターは、立体的なミドルケースを持つ一方で、操作性を優先したためか、回転ベゼルの造形は平板だった。対して本作は、ケースサイドをシンプルにまとめる一方で、複雑な回転ベゼルを持っている。
回転ベゼルの表示部分は別部品。数字だけでなく、スタッズのようなピラミッドパターンもプレスで打ち抜いている。プレスとは思えないほどの「深さ」は、日本メーカーならではの特徴だ。切削と違って若干角は甘いが、むしろツールウォッチらしく見えるし、仮に切削で仕上げたら、この価格では収まらなかっただろう。限られたコストの中で造形を作りこませれば、シチズンは本当に上手い。
ベゼルに見られる立体感が、このモデルの大きな特徴である。文字盤にもやはり立体的なピラミッドパターンが施されるほか、CITIZENのロゴや6時位置の表記なども、すべて浮き上がっている。インデックスを含めて、文字盤はプレスで打ち抜いたもの。インデックスが外れないよう、一体で打ち抜くのはセイコーにも見られるが、ロゴまで一体成形した文字盤は、近年ではハミルトンの「カーキ アビエーション」がある程度だ。また、操作しやすいよう、リュウズは大きくなり、外周には刻み模様が施された。実用時計を作り慣れたシチズンらしい配慮だ。指を痛めないよう、角は丁寧に落とされている。