グランドセイコーの新作は文字盤がとにかく凄い!! その凝った作りをディープに解説/「エレガンスコレクション 24節気モデル」

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2021.04.28

2021年のグランドセイコーと言えば、9SA5を搭載した「ヘリテージコレクション SLGH005」である。強力無比な自動巻きを搭載したこのモデルは、日本の時計メーカーが至った、ひとつの頂だろう。正直、10年前の筆者は、日本のメーカーがこれほどのモデルを作るとは思ってもみなかった。余談になるが、スイスのある時計メーカーのお偉いさんはこのモデルを購入し、なぜか筆者に賛辞を送ってきた。SLGH005のインパクトは、日本以上に、海外で大きいのかもしれない。

グランドセイコー エレガンスコレクション 24節気モデル

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2021年4月28日掲載記事


グランドセイコー「エレガンスコレクション 24節気モデル」

 とはいえ、このモデル以外にも、グランドセイコーは面白い新作を加えてきた。それが、グランドセイコー エレガンスコレクション 24節気モデルである。日本人の自然観を色濃く表現する24節気にちなんで、この4モデルには「春分」「小暑」「寒露」「冬至」という名前が付けられた。正直、リリースを見たとき、また限定かよと思ったのは事実だ(本作は限定ではない)。しかし、実物を見たら、やっぱり出来が良いのである。それと、カラフルな文字盤というトレンドを考えると、このコレクションは見逃すわけにはいかない。

 文字盤に関して言うと、質と量を両立させつつ、これほど多彩な種類をリリースできるのは、現在、セイコー(とグランドセイコー)ぐらいだろう。単なる色違いなら他社もできる。微妙な中間色を与えるのはもちろん、地のニュアンスまで変えることができるのがセイコーの強みだ。もちろん、他社もやろうと思えばできる。しかし、今のセイコーは、ユニークな文字盤を作り、それが支持されるようになった点が大きく異なる。

 今年のグランドセイコー エレガンスコレクション 24節気モデルは、そんな文字盤作りのノウハウを見る好例と言えるかもしれない。ではどう凝っているのかを、以下マニアックに見ていくことにしよう。ここで挙げた見方で、自分のグランドセイコーを見直せば、新たな発見があるかもしれない。


「春分」

グランドセイコー エレガンスコレクション 24節気モデル,春分

グランドセイコー「エレガンスコレクション メカニカルハイビート GMT SBGJ251」
自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径39.5mm、厚さ14.1mm)。日常生活防水。81万4000円(税込み)。5月28日発売予定。

「春分は昼と夜の長さがほぼ等しくなる時期を指し、寒さを耐え抜いた木々が芽吹き、花を咲かせる季節です。人里離れた山奥でひっそりと色づきはじめた可憐な山桜をイメージした鮮やかなGMT針が、緑色のダイヤルの上で春の訪れを感じさせます」

 この文字盤はプレスで打ち抜いた下地にメッキをかけ、その上にラッカーを施している。スイスのメーカーならばプレスで幾何学的な模様を施したがるが、あえてランダムな模様を施すのが、今のセイコーらしい。表面には濃いラッカーを吹いており、遠目では平板に見えるが、下地の細かなニュアンスが微妙な立体感をもたらしている。人工光の下と、自然の光源下では、おそらく文字盤の見た感じは大きく変わるだろう。

 感心させられたのは、「GMT」の文字色である。ピンクゴールド色のGMT針に合わせて、普通はゴールドの印字を施す。しかし、ゴールドの印字は、粒子を細かくするとキレイに見えるが、細かくすると黄色に見えてしまう。一方で粒子を荒くするとゴールドであることは強調できるが、印字が荒くなってしまう。そこで本作は印字をクリームで施してしまった。あえてクリームにし、全体の統一感を優先させたのは見事だ。一方、インデックスなどの印字はシルバーである。粒子を粗くすることでシルバー感を強調しているが、印字のキレはかなり良い。普通、ゴールドやシルバーの印字はどうしても周囲がダレてしまうが、きちっと収めているのは、さすがにグランドセイコーである。