大胆なデザインと軽量な着け心地、そしてこれまでにない価格での提供を実現したゼニスの「デファイ クラシック カーボン」。ゼニスCEOのジュリアン・トルナーレのコメントも合わせて紹介しながら、このモデルの魅力に迫る。
Text by Mark Bernardo
2021年5月26日掲載記事
軽快な着け心地と視認性の高さを両立
創業から155年の歴史を誇るゼニスは2019年、ブランドの代名詞ともいえる高振動の自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」の誕生50周年という、ここ数年で最も歴史的に重要な記念日を迎えた。この記念すべき年にインスパイアされたタイムピースの数々は、1969年に発売された初代「エル・プリメロ」を忠実に再現したものから、クロノグラフとふたつのトゥールビヨンを組み合わせたアバンギャルドなものまで多岐にわたった。2020年、パンデミックによってあらゆる業界に障害が発生したにもかかわらず、ゼニスはアクセルを緩めることなく新しい時計を発表し続けた。その中でも際立っていたもののひとつに、今回紹介する「デファイ クラシック カーボン」があった。これは2020年秋に発売されたモデルで、ゼニスが初めてケース、リュウズ、ブレスレットのすべてにカーボンを使用した「フルカーボン」仕様である。
カーボン素材の加工の難しさから、「フルカーボン」の時計はまだ珍しく、高い価格帯に設定されることが多い。他ブランドから既存モデルを挙げると、ロジェ・デュブイの「エクスカリバー スパイダー カーボン フライングトゥールビヨン」や、リシャール・ミルの「RM 07-01」、そしてブルガリの「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボン」などが挙げられる。ゼニスも2019年に限定モデルの「デファイ フュゼ トゥールビヨン」でカーボンケースを採用したことはあったが、ブレスレットまで適用したフルカーボン仕様は今作が初めてである。
ゼニスCEOのジュリアン・トルナーレは胸を張る。「この価格帯でフルカーボンの時計はまだ誰も実現していない。デファイ クラシック カーボンの製作コストは、既存のデファイ クラシックモデルの倍はかかっている。しかし我々は、手に取りやすい時計でありながら、高級感のある時計を作り上げた」。本作の税込み価格は236万5000円だ。
デファイ クラシック カーボンのムーブメントには、エル・プリメロではなく、キャリバーエリート 670 SKが選ばれた。複雑なクロノグラフではなく、3針・デイト付きというシンプルな仕様である。これによって視認性の高いシースルー文字盤の、リーズナブルな価格帯の魅力的なモデルをゼニスは生み出せたのである。
直径41mmのケースは、カーボンならではの質感ある縞模様が特徴的だ。ケースの側面は、より繊細な木目を思わせる細いラインが施されている。これは、滑らかな市松模様を持つカーボンファイバーとは趣の異なる外観だ。トルナーレの表現を借りると、これは「カモフラージュ調」ということになる。
フラットなサファイアクリスタル製風防の内側には、ケースに合わせてストライプ模様が施されたシースルー仕様の文字盤が配されている。5つのアームを持つモチーフは、ゼニスのスターロゴからインスピレーションを得たものである。そこに重なるインデックスや時分針にはスーパールミノバがしっかりと塗布されている。シースルー文字盤が数多く存在する中でも、デファイ クラシック カーボンの視認性は高いといえるだろう。6時位置の日付表示は、蓄光塗料の塗布された開口部に、ブラックの数字を切り抜いた日付ホイールを重ねている。
カーボン素材とムーブメントのシースルー加工は、時計に軽快な装着感をもたらす。多くのリンクで構成されるブレスレットの着け心地は非常になめらかだ。トルナーレはこの新しく革命的なブレスレットを、製品開発チームの努力の賜だと語る。「私は彼らにケースの開発を依頼したが、まさかブレスレットの開発まで成功させるとは思わなかった。試作品を装着した瞬間に、既存のモデルとは異なる快適さを感じた。ブレスレットだけでも50点もの異なるパーツによって構成されているが、これは既存のチタン製ブレスレットより40%も軽量で、わずか65gしかない。ゼニスがこのようなブレスレットを製造するのは初めてのことだ。非常にハイテクで、我々の理想型に到達している」。
キャリバーエリート 670 SKは毎時2万8800振動で、約50時間のパワーリザーブを保持する。アンクルとガンギ車には、高い耐磁性を誇るシリコンが採用されている。
デファイ クラシック カーボンは限定生産ではない。ここに、ゼニスがこの技術を着実に確立させたことと、今後さらに発展させていく意欲を見ることができるだろう。
トルナーレの指揮のもと、ゼニスは新しい素材の採用を積極的に行っている。これまでに「パイロット タイプ 20」でシルバーケースを導入し、「デファイ インベンター」には独自のアルミ合金"アエロナイト"製ベゼルを、またフィリップスのチャリティ・オークションのために特別に作られたプラチナ製「エル・プリメロ A386」ではラピスラズリの文字盤を採用してきた。「歴史を祝う復刻モデルなどは継続して手掛けていきたいが、同時に、革新的でダイナミックな要素を取り込み続けることも大切なことだ。同じ考えを、1960年代にエル・プリメロを作り上げたゼニスの職人たちは持っていた。我々はその意志を継いでいきたい」とトルナーレは語ってくれた。
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