ランバンの元デザイナー、アルベール・エルバスが愛用していたロレックス

世界のセレブたちがどんな時計を着けているのか、ワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。ランバンのデザイナーとして一時代を築いた故アルベール・エルバスが生前好んで着用していたのは、ロレックスやカルティエだった。

沼本有佳子:文
Text by Yukaco Numamoto
2021年5月14日掲載記事

モロッコにルーツを持つ心優しきデザイナー、アルベール・エルバス

アルベール・エルバス

Photogprah by Michel Dufour / Getty Images
コスメティックブランド「ランコム」とコラボレーションした一夜限りのファッションショー。その際の会場、トリアノン宮でのスナップだ。

 大きな体に黒縁の眼鏡、目の奥から優しさがにじみ出るような風貌のアルベール・エルバスはモロッコ生まれだ。10歳のころイスラエルへ移住し、イスラエル人の父を幼いころに亡くし、スペイン人の母に育てられた。

 母はアーティストであることから、彼の鋭い感性や作品作りには幼少期の経験が生きている部分も多分にあるだろう。ファッションを学んだのはイスラエルのシェンカー・カレッジ・オブ・テキスタイル・テクノロジー&ファッションである。卒業後、わずか800ドルを手にニューヨークへ渡り、ギ・ラロッシュやイヴ・サンローランなどで働いた。

 エルバスのキャリアとして最も知られるのは、アースティックディレクターを14年間にわたり務めたランバン時代だろう。残されたファッションイベントスナップは多くは、どこか照れくさそうに笑う彼と、その周りに集う人たちの柔らかな表情が印象的だ。これらの写真から、エルバスが周囲から深く愛されていたことがよく伝わってくる。彼はたびたびインタビューで「僕は人が好き」「愛」という言葉を使っていた。

 エルバスが手掛けていたランバンは、敷居が高いイメージのオートクチュールブランドだ。しかし、アクネやH&Mとのコラボレーションを通じて若い世代へファッションの楽しさ、ドレスアップする情熱を伝えたことは記憶に新しい。まず、ランバン時代に彼が着用していたカルティエの「タンク アメリカン」を見ていこう。


カルティエ「タンク アメリカン」

 縦長のフェイスと流れるような曲線が特徴的なカルティエ「タンク アメリカン」はパーティーシーンでもビジネスシーンでも、エレガントな風味を損ない意匠から、男女問わずファンが多い。

タンク アメリカン

アルベール・エルバスが着用するのはカルティエの「タンク アメリカン」だろう。手首とのバランスから、LMサイズではないかと推測される。

 ローマンインデックスに深いブルーの針、文字盤部分は淡いベージュカラーがアンティークな雰囲気も醸し出す。1989年の発表以来、今も変わらず愛され続ける繊細で優雅なデザインと言えるだろう。

 アルベール・エルバスのデザインは「着心地が良く、美しく見える」ことに重点が置かれている。彼自身が身に着ける服においても、たとえばパンツの丈、裾幅、ボウタイの大きさや形を見ても、バランス感覚が絶妙であることが分かる。

 そして、そんなエルバスが着用するタンク アメリカンは象徴的な縦に並んだ平行線とのバランス、無駄のない洗練された存在感を兼ね備えている。