IWCといえば、ポルトギーゼやポートフィノなど、おしゃれなクロノグラフの印象が強い。しかし、インヂュニア・クロノグラフはレーシーな印象が強いため、無骨なデザインが好きなら相性が良いだろう。インヂュニア・クロノグラフの特徴や魅力を解説する。
IWC インヂュニアの特徴
インヂュニアは、IWCのスポーツラインとして高い支持を集めている人気コレクションである。まずは、歴史や機能、デザインについて理解を深めておこう。
インヂュニアの由来と歴史
インヂュニアとは、ドイツ語で「エンジニア」を意味する言葉である。耐磁時計として1955年に発表され、優れた機能性により多くの技術者に愛用されていた。
その後も、より高い耐磁性を備えたモデルを発表するも、売れ行き不調により2001年に製造を一時ストップしている。
しかし、スポーツモデルとして05年に新生インヂュニアを発表すると、13年にはレーサー用の機能を搭載したモデルを誕生させた。瞬く間に人気が復活し、現在はスポーツウォッチラインとしてさらなる発展を続けている。
圧倒的な耐磁性能
耐磁性時計の象徴とも言われるインヂュニアは、その圧倒的な耐磁性能を大きな魅力として持つ時計だ。
初期モデル誕生当時の技術者の職場は、強い磁力により時計が狂いやすい環境であった。そのような状況にも耐えうる時計を求められ、誕生したのがインヂュニアである。
さまざまな電子機器に囲まれた現代においても、時計には高い耐磁性が必須のスペックとなっている。現在のIWCは高耐磁性をアピールしない姿勢をとっているが、それでも十分な耐磁性を備えた時計が開発されている。
ジェラルド・ジェンタによるデザイン
1976年、IWCの命運を賭けて発表された「インヂュニア SL」は、数々の傑作を世に送り出した時計デザイナーであるジェラルド・ジェンタが手掛けたモデルだ。
薄型ムーブメントを好むジェンタにIWCが準備したのは、厚みを持つムーブメントであった。にもかかわらず、ジェンタは厚みを感じさせない時計を誕生させている。
インヂュニア SLは、結果として商業的には成功していない。しかし、インヂュニア SLのデザインは、その後のインヂュニアのアイコンとして定着することになる。
IWCは2013年にインヂュニアの全面リニューアルを図っているが、基本的なデザインはインヂュニア SLを踏襲したものだ。
現行インヂュニアはクロノグラフが人気
スポーツウォッチとして展開されている現行インヂュニアの多くは、クロノグラフ(ストップウォッチ)機構が搭載されている。耐磁時計からの転換の歴史や、現行モデルの特徴を解説する。
耐磁時計からスポーツウォッチへの転換
インヂュニアは優れた耐磁時計として1955年に誕生し、その後も耐磁性能を高めながら進化していった。89年ごろに発表された3代目インヂュニア SLは、初代インヂュニアの6倍以上もの耐磁性能を誇っている。
しかし、2005年ごろからインヂュニアは大型化し、モダンかつスポーティーな時計へと転換する方向に舵を切った。13年以降のモデルは、エンジニアリングを駆使したスポーツウォッチを目指して開発されている。
クロノグラフモデルや、メルセデス・ベンツとのコラボレーションモデルも発表され、耐磁時計のイメージは完全に一新された。現在は、IWCの中でもおしゃれなスポーツウォッチとして位置付けられている。
インヂュニア・クロノグラフ・レーサーの登場
2005年以降、IWCは自然とスポーツに関連したコラボモデルを数多く発表している。IWCに足りなかったスポーツラインの充実を図るための方針だと言われている。
13年に発表された「インヂュニア・クロノグラフ・レーサー」は、IWCがメルセデスAMGペトロナス フォーミュラ・ワンチームとの公式パートナーとなった際に発表したモデルだ。
フライバック付きのクロノグラフを搭載し、クロノグラフをストップさせることなく積算を再スタートできる機能が備わっている。耐磁モデルではないことも特徴である。
デザインが美しい “ルドルフ・カラツィオラ”
2016年には、現行モデルに通ずる新たなデザインコードを宿し、ドレッシーな外観を備える「インヂュニア・クロノグラフ “ルドルフ・カラツィオラ” IW380702」が発表された。
これは、メルセデス・ベンツのレーサーとして活躍したルドルフ・カラツィオラをたたえた限定モデルである。ジェラルド・ジェンタの系譜を離れたレトロデザインは、1955年のオリジナルからインスピレーションを得たものだ。
ルドルフ・カラツィオラには、当時、新開発のクロノグラフムーブメント、Cal.69730が初めて搭載された。高い精度を誇っているが、耐磁性能はない。