2007年発表のロンジン レジェンドダイバーとハイドロコンクエストでダイバーズウォッチに復帰したロンジン。同社の歴史をひもといていくと、ダイバーズウォッチへの取り組みは必然であったことが分かる。ふたつのユニークなダイバーズウォッチから、ロンジンダイバーズの歩みを見ていこう。
キープコンセプトで進化を遂げるロンジン レジェンドダイバー。最新作はブルーとブラウンのグラデーション文字盤を採用。シリコン製ヒゲゼンマイとフリースプラングテンプが高い耐磁性と耐衝撃性を実現する。また保証期間も5年に延長された。自動巻き(Cal.L888.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径42mm、厚さ12.7mm)。300m防水。31万4600円。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
ロンジン ダイバーズの歴史
1832年の創業以来、さまざまな傑作をリリースしてきたロンジン。同社はクロノグラフや航空時計で知られるが、ダイバーズウォッチにも、やはり興味深いストーリーを持っている。
1930年代に腕時計クロノグラフを完成させたロンジンは、いち早くクロノグラフ用の防水ケースを完成させた。以降、同社はボレルなどの防水ケースを採用することで、ミリタリーウォッチの実用性を大きく高めた。そんなロンジンが一般向けダイバーズウォッチの開発に取り組んだのは当然だろう。
同社は、スイスのケースメーカーであるエルヴィン・ピケレと共に防水ケースを開発し、58年に初の本格的なダイバーズウォッチをリリースした。他社に比べて、ダイバーズウォッチへの取り組みは早いとは言えないが、時計業界への影響力は最も大きかったのではないか。
39年に再び時計の部品製造を行うようになったピケレは、50年代に入るとユニークな防水ケースの開発に取り組んだ。その初作が、55年に特許を取得した「コンプレッサーケース」だ。これは高い水圧を受けると、パッキンや金属製のガスケットが圧縮されて防水性を保つというもの。低コストでありながら、高い防水性能を持つコンプレッサーケースは、後に「コンプレッサー2」や「スーパーコンプレッサー」ケースに進化し、60年代にダイバーズウォッチブームをもたらすことになる。仮にピケレのコンプレッサーケースがなければ、IWC、ジャガー・ルクルト、ハミルトンなどのダイバーズウォッチは、まったく違った歴史をたどったに違いない。そして、このコンプレッサーケースに大きな影響を与えたのがロンジンだったのである。それを示すのが裏蓋の刻印だ。60〜70年代にかけて作られたコンプレッサーケースには、ほぼ例外なくピケレのロゴと特許番号が記されている。しかしロンジンのケースには特許番号があるのみ。ピケレにとってロンジンは「別格」だったわけだ。
他社のダイバーズウォッチの説明を読むと、しばしばピケレのケースを「採用」したという記述がある。対してロンジンの資料には「(ダイバーズウォッチのケースは)ピケレと開発した」とある。ピケレはコンプレッサーケースで特許を取ったものの、その量産と改良には、大メーカーであるロンジンが手を貸した、と考えるのが自然だろう。少なくとも、サンティミエの老舗がコンプレッサーケースを採用したという事実は、新興のケースメーカーであるピケレにとって、十分以上の「お墨付き」だったに違いない。
58年のロンジン製ダイバーズウォッチは、コンプレッサーケースを採用した最初期の試みであり、初であった可能性が高い。これはアウター式の回転ベゼルを持つベーシックなものだったが、翌59年には気密性を高めた、複雑なスーパーコンプレッサーケースに置き換わった。後にコンプレッサーの象徴となった、ふたつのリュウズとインナー式の回転ベゼルを持つ防水ケース。初めて採用したのは、59年のロンジン製ダイバーズウォッチだったのである。そう考えれば、仮にロンジンがダイバーズウォッチを作らなかったら、スイスの防水時計の歴史は大きく変わったのではないか。冒頭で「時計業界への影響力は最も大きかったのではないか」と記した理由である。
59年に発表されたRef.7042は、ロンジンのみならず、60年代のダイバーズウォッチの在り方を定めたモデルだった。その4年後に、後継機のRef.7494に進化。見た目こそほぼ同じだったが、ムーブメントの振動数と防水性能を高めることで実用性が改善された。
2007年発表の「ロンジン レジェンドダイバー」は、そのRef.7494などをベースに往年のダイバーズを再現したモデルである。ドーム状の風防も、裏蓋に刻まれたダイバーの姿も、大ぶりなふたつのリュウズもオリジナルに同じ。しかし、裏蓋は標準的なねじ込み式に、風防もプラスティックからサファイアクリスタルに変更されたほか、防水性能も200mから300mに向上した。