フランク ミュラーを擁するウォッチランドが、自社製ムーブメント開発に着手したのは2001年頃のこと。まずはハイコンプリケーションから着手し、そこで磨かれた基礎技術をベースに基幹キャリバーが生まれた。名時計師ピエール-ミッシェル・ゴレイが設計を手掛けたその基幹ムーブメントは、時代を経てフランク ミュラーの血脈に組み込まれる。その最新進化形がヴァンガードに搭載された7デイズだ。
2017年に発表された7日巻きのスケルトンモデル。写真の41mmモデルは今年追加されたものだ。歴代のフランク ミュラーにも搭載されたCal.1700系をベースに、幾何学的なスケルトナイズが施されている。ヴァンガードでは、ダイアルやムーブメントデザインに、工業デザイン的なアプローチが試みられたため大きく印象を変えているが、ウォッチランドが研鑽を重ねてきた技術の集大成と呼ぶべき内容を誇る。手巻き(Cal.FM1740VS)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約7日間。18KPG(縦50.0×横41.00mm)。577万5000円(税込み)。
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2021年7月号 掲載記事]
FRANCK MULLER
VANGUARD 7DAYS SKELTON
フランク ミュラーを象徴する古典となったトノウ カーベックスの開発から約30年を経て、現代的なニューアイコンとして登場した「ヴァンガード」。アールデコの一様式であるストリームライン モダンに範を取っているが、そこに現代インダストリアルデザインの手法を織り交ぜたことで、古典とは一線を画する造形を得た。その試みは新しい顧客層の開拓に大きく貢献したものの、旧来のフランク ミュラーを愛する層からは、懐疑的な目が向けられていたことも事実。しかし造形のアプローチこそ違えど、ヴァンガードにもまた、メゾンの血脈を受け継ぐ正統性が宿っている。それを象徴するのが7デイズを誇るキャリバー1700系のムーブメントだ。
フランク ミュラーを擁するウォッチランドは、2001年頃から自社製ムーブメントの開発に着手。その先駆となったのは、エテルニタスなどに代表されるハイコンプリケーションだ。一方その裏では、時計師ピエール-ミッシェル・ゴレイの主導で基幹ムーブメントの開発も手掛けている。7デイズのロングパワーリザーブを持つ1700系は、12年にPMG銘で先行発表され、翌13年にはラウンドシェイプのFM1700へと発展する。さらに14年になると、トノウ/ラウンドのケース形状に合わせた専用機としてFM1740CS、またはRSへと進化。同時に精緻なスケルトナイズが施され、一気に審美性を高めていった。
2017年に発表された「ヴァンガード 7デイズ パワーリザーブ スケルトン」が搭載するFM1740VSは、その直系機にあたる。地板や受けの造形こそ直線的なアレンジに改められているが、基本コンポーネントは同一。それどころか、テンプの配置をダイアル側に改め、可視化させるという新機軸も盛り込まれている。直径約12㎜のチラネジ付きテンワは16㎎・㎠の慣性モーメントを誇り、緩急針もダイアル側に配置。スケルトナイズが施されたタンデム式のツインバレルには、620gN/mmのトルクを持つ主ゼンマイを2本、直列に配置。主ゼンマイを長く取ることで、ロングパワーリザーブを成し遂げている。同時に角穴車不要の設計としたため、巻き上げ状態が視覚的にも確認できる。7日巻きを全巻きにするためにはリュウズを約90回転させる必要があるが、キチ車と巻き上げ中間車の噛み合いを、往年の懐中時計からヒントを得た傘歯形状にすることで面接触に改め、スムーズかつ剛性感のある巻き上げとなった。また、電鋳で成形されたガンギ車/アンクルの自社製アソートメントは、トルクロスを最小に留める。
インダストリアルデザインの手法を導入したことで、工業製品然とした外観を持つが、これがハンドフィニッシュ、ハンドアッセンブリーの超高級機であることは、疑う余地もないのだ。
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