どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか? このコラムでは、時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
今回は、1978年に登場したティソの元祖“ラグスポ”と言えるモデル「PRX」の名を現在に受け継ぐ「ティソ PRX」の名前の由来をひもとく。
安堂ミキオ:イラスト Illustration by Mikio Ando
(2021年7月4日掲載記事)
ティソ「ティソ PRX」
2021年2月にティソが発表した「ティソ PRX」が人気だ。リリースでは、1970年代のオリジナルモデルをアップデイトした新コレクション、と紹介されている。
「ティソ PRX」にはブルーダイアル、ブラックダイアル、シルバーグレーダイアルの3モデルがランナップ。このシルバーグレーダイアルモデルのみ、ローズゴールドカラーのインデックスと時分秒針を備える。他の2モデルのインデックスと時分秒針はメタリックカラー。電池切れ警告機能付き。クォーツ(Cal.ETA F06.115)。SSケース(直径40mm、厚さ10.4mm)。10気圧防水。5万5000円(税込み)。
「PRX」のオリジナルモデルの誕生は1978年。大きな特徴は、ケースとブレスレットを一体にした、いわゆるラグジュアリースポーツウォッチとしてつくられたことだ。
ラグジュアリースポーツウォッチは、1972年に発表されたオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」がその始まり。それまで高級時計=貴金属ケースというのが常識であったのを、世界で初めてステンレススティールケースで高級時計をつくったことが革新的で、まったく新しい「ラグジュアリースポーツウォッチ」というジャンルを創造した。
さらにもうひとつ、ジェラルド・ジェンタのデザインした、ケースとブレスレットを一体にしたスタイルも革新的であった。そして、そうした革新性が注目され、ボーム&メルシエ「リビエラ」(1973年)、ジラール・ペルゴ「ロレアート」(1975年)、パテック フィリップ「ノーチラス」(1976年)、ヴァシュロン・コンスタンタン「222」(1977年)といったフォロワーが登場。ラグジュアリースポーツウォッチが1970年代の時計界の潮流となったのだ。
「PRX」のオリジナルモデルもそのひとつとしてつくられたのだろう。ケースを薄くエレガントにしつつ、幅広で厚みのあるベゼルで立体感を出す、というジェンタのデザイン手法を踏襲。12角形のベゼルもジェンタのデザインを思わせる。