ティソ「ティソ PRX」にまつわる名前の秘密を探る

ティソ「PRX」オリジナルモデル
1978年に登場したティソ「PRX」。当時のトレンドであった、今で言う“ラグジュアリースポーツウォッチ”の意匠を生み出したデザイナー、ジェラルド・ジェンタの手法を採り入れたケースと一体化したブレスレット、多角形のベゼル、薄く仕立てられたケースが特徴的だ。なお、当時のモデルの防水性は、10気圧防水の現行モデルと同等の100m防水であった。

 新作の「ティソ PRX」は、その「PRX」の1970年代テイストを残しつつ、現代的にアップデイトしたのが特徴だ。具体的には、幅広で厚みのある12角形のベゼルを、細く薄いプレーンなベゼルに変更。ブレスレットを、H型を中央の四角のリンクでつないだ2コマ構成から、凸型を連ねた1コマ構成に変更。オリジナルがやや丸みを持ったシェイプであったのに対し、新作ではエッジを際立たせた直線的なフォルムとした。

 そして、そんな「ティソ PRX」のシャープなデザインが、いま再び時計界での一大潮流となっているラグジュアリースポーツウォッチのひとつとして、ひときわ新鮮で個性的な魅力を放つ存在となっている。それが「ティソ PRX」が、いま世界的に大人気となっている理由だ。

 また、クォーツ式ムーブメント搭載による重量の軽さや、リーズナブルなプライスも人気の理由の大きなひとつ。さらに先頃、ティソの誇る機械式ムーブメント「Powermatic 80」搭載の自動巻きモデルが新たに加えられたため、よりいっそうの人気拡大は必至だろう。

 さて、リリースによると「ティソ PRX」の「PR」は「Precise and Robust」=「高精度かつ堅牢」の意味。「X」はローマ数字の「10」で「10気圧防水性能」の意味だという。

 で、ここからが、若干ややこしい。というか、いつもの筆者のヘソ曲がりな話なのだが。おそらく、よくご存じの方も多いだろう。ティソには「PR 100」「PR 200」「PRC 200」「PRS 516」など、「PR」というモデルがたくさんある。

 その最初のモデルが1956年に発表された「PR 516」。自動巻き、耐磁、防水、カレンダーの4つの機能が付くことを特徴とした。

 そして、もっともよく知られているのが、1965年に発表された「PR 516」の第2世代。穴の開いた特徴的なブレスレットを見覚えのある方も多いはずだ。

 ティソの創業160周年であった2013年のプレスリリースによると、デザインしたのはルシアン・グーナー。穴の開いたブレスレットは「レーシングカーのステアリングホイールをイメージしてデザインしたもの」と書かれている。

 現在のホームページでは「レーシングカーのハンドルを模した穴を穿つという、ブレスレットに施された世界初のこのデザインは、他の多くのウォッチブランドに取り入れられました」とある。ステアリングホイール=ハンドルの中央が時計になったデザインのクロックもつくられている。

 ちなみに、同様の大きな穴を開けたパンチングレザーのストラップも、ティソが世界で初めて発表したものだという。

 新型「PR 516」は革新的な機構も備えていた。ムーブメントをケース内部で宙吊りにした、浮遊ムーブメント機構により、優れた耐震機能を実現。宙吊りの機構に弾力性に優れた合成物質を使用したため、水平と垂直の両方向のショックからムーブメントを保護可能とした。

 そして、そんな「PR 516」の名前の意味をホームページでは、優れた耐衝撃性を表す「Particularly Resistant」=「特別な耐久性」だと書いている。つまり「P」も「R」も意味が違っているのだ。

 ところが創業150周年を記念したティソの公式本『The Story of Watch Company』=『ある時計工房の物語』(エステル・ファレ著)には、当時の副社長の言葉として「『PR』というのは『Particularly Robust』(非常に堅牢な)という意味です」と書かれている。さらに「この“P”という文字には他にも、時計の『Precision(正確さ)』という意味があります」とも書かれている。

 ということで「ティソ PRX」の名前の由来は「Precise」「Particularly」「Precision」で「Robust」「Resistant」で、そして「10気圧防水性能」が正解。そういうことなのだろう。それが1956年の「PR 516」誕生から65年間受け継がれてきた名前に込められたすべての意味なのだからだ。

 なお、「PR 100」は1980年に発表されたモデルで、1984年にオーストリア、ドイツ、スイスのオリンピックチームの公式腕時計になったもの。「100」は「100m防水性能」の意味だが、では「X」との違いは何かというと、そこは不明。

「PR 200」は1996年の発表で、「200」は「200m防水性能」の意味。2005年には「PRC 200」が発表され、これは「Precision(高精度)」「Robust(堅牢)」「Classic(クラシック)」の意味。

 また、「PR 516」の「516」の意味はわからなかった。「PR 518」という角型のモデルもあり、この「518」の意味もわからず。

 と、わからないことも多い。まぁ、筆者の力不足なのだろうけど。でもとにかく、ティソはエポックメイキングなモデルや興味深いエピソードが多いので、これからもいろいろ調べていきたい。「ティソ PRX」の素晴らしい成功を見て、改めて、そう思ったのだ。

シースター クォーツ

ティソ「シースター クォーツ」
1970年代に登場したティソ「シースター クォーツ」(ティソのオフィシャルサイトより)。画像では判読しづらいが、文字盤を拡大すると6時上に「SEASTAR QUARTZ」と印字されているのが見て取れる。現在の「ティソ PRX」は、確かに1978年に登場した「PRX」の名称を受け継ぐが、こうして見ると、そのデザインは1970年代から80年代に存在したこの「SEASTAR QUARTZ」の造形を踏襲したものだと言える。ティソのモデル名とデザインを巡る謎は深まるばかりだ……。

 
 

福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。


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