ここ5年、時計業界を席巻しているラグジュアリースポーツウォッチ。その定義は人によってさまざまだが、今や、スポーティーな外装とよく出来たブレスレット、そして高い防水性といった性能を持ついわゆる“ラグスポ”は、各社がこぞって取り組むものとなった。その筆頭に挙げられるのは、パテック フィリップの「ノーチラス」、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」、そしてヴァシュロン・コンスタンタンの「オーヴァーシーズ」だ。しかし、この3本はもはや入手が不可能だ。そこで、クロノス日本版では、次に来る“ラグスポ”を取り上げてみたい。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
2021年7月15日掲載記事
ショパール「アルパイン イーグル」
2019年にショパールが発表したスポーティーウォッチ。個人的におすすめしたいのは、プラチナのような光り方をするルーセントスティール A223素材のモデルだ。長年自社でケースを製造してきただけあって、ケースやブレスレットの磨きはかなり良い。また、複雑なリンクで固定されるブレスレットも、適度に角を落としてあるため腕なじみに優れる。ケースサイズは直径41mmと34mm。いずれも決して軽い時計ではないが、ヘッドとテールのバランスに優れるため、慣れれば装着感は良好である。
搭載するのは、44mmサイズのクロノグラフがCal.Chopard 03.05-C、41mmサイズの3針がCal.Chopard 01.01-C、34mmサイズがCal.Chopard 09.01-Cである。Cal.L.U.C 03.05-Cは「L.U.C クロノワン フライバック」が搭載するCal.L.U.C 03.03-Lを改良したもの、Cal.Chopard 01.01-Cはそこからクロノグラフ機構を省いたものである。Cal.L.U.C 03.03-Lとの違いは、仕上げと、緩急装置がフリースプラングテンプではなく、高級だが、一般的なトリオビス型緩急針に変更された程度だ。
自動巻き(Cal.Chopard 01.01-C)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ9.7mm)。100m防水。161万7000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス TEL 03-5524-8922
自動巻きは標準的なリバーサー式。しかし、遊星歯車を使ったショパールのリバーサー(筆者の知る限り、他では見たことがない)は、ローターが回っても巻き上げないという「不動作角」が小さく、長期間使用しても摩耗もしにくい。理論上はデスクワークでも十分巻き上がるだろう。
34mmサイズのCal.Chopard 09.01-Cは、傘下のフルリエ・エボーシュが新規開発した自動巻きムーブメント。直径20.4mm、厚さ3.65mmとかなり小径だが、自動巻きにあえて片方向巻き上げ式を採用することで、動きの小さな女性が使っても、デスクワークであっても巻き上がりやすい。ただしこちらの緩急針は、残念ながら標準的なエタクロン型である。デザインは41mmサイズとほぼ変わらないため、細腕の男性が使っても似合うだろう。
パルミジャーニ・フルリエ「トンダ GT」
長年、“ラグスポ”とは距離を置いてきたパルミジャーニ・フルリエ。かつて「パーシング」というモデルも存在していたが、これは控えめに言っても黒歴史だ。“ラグスポ”ブームに乗ったわけではないが、そんなパルミジャーニ・フルリエが、一般層に目を向けたのが、スポーティーな「トンダ GT」と、そのクロノグラフバージョンである「トンダグラフ GT」だ。レザーストラップのモデルもあるが、スポーティーに使うならブレスレット一択だろう。
ベゼルに施されたモルダージュ装飾は、いかにもパルミジャーニ・フルリエらしいもの。また、自社製のブレスレットも予想外に出来が良い。うねうねした装着感を持つわけではないが、高級機らしい適度な重みと遊びを感じさせるものだ。個人的におすすめするのは、ヘッドとテールのバランスに優れる3針モデル。あえてスモールセコンドにすることで、ケースの厚みを減らしたのも良いアイデアだ。
自動巻き(Cal.PF044)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径42mm、厚さ11.2mm)。100m防水。世界限定250本。183万7000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ TEL 03-5413-5745
3針モデルが搭載するのは、自動巻きのCal.PF044である。ベースはパルミジャーニ・フルリエが初めてリリースした自動巻き、Cal.PF331。正直約45時間というパワーリザーブは、今の基準からすると長くない。しかし、片方向巻き上げ式のためデスクワークでも巻き上げるし、フリースプラングテンプのため衝撃にもかなり強い。見た目はオーセンティックだが、この優れた自動巻きがトンダ GTとトンダグラフ GTに、スポーツモデルとしての魅力を添えている。
なお、クロノグラフのトンダグラフ GTは、一部のハイエンドなモデルを除いて、ムーブメントに年次カレンダークロノグラフを採用する。これはトンダ GTのCal.PF044に、デュボア・デプラ製の年次カレンダーとクロノグラフモジュールを重ねたもの。似たような構成のムーブメントは他にもあるが、これはその中で最も優れたものだろう。
モジュール部分は他と同じであっても、駆動するベースは何しろパルミジャーニ・フルリエ製なのである。もっとも「2階建て」のためこのクロノグラフにはひとつ弱点がある。リュウズを押し込んで時計を起動させても、秒針が動いてから分針が起動するまでに1分程度のタイムラグがあるのだ。時間を合わせる際は、この「置き回り」に注意すること。それさえ気をつければトンダグラフ GTは、トンダ GT同様、シチュエーションを問わず使えるモデルだ。
ブレゲ「マリーン」
意外な伏兵が、ブレゲの「マリーン」である。ヨルグ・イゼックがデザインした前作から一転して、現行モデルは極めてモダンなデザインを持つようになった。好みは分かれるが、筆者はこのシンプルなデザインが好みである。素材は基本的に18Kローズゴールド、18Kホワイトゴールド、そしてチタンの3種類。
個人的におすすめしたいのは、チタンモデルの、しかもブレスレット付きである。スイスの高級時計メーカーで、ブレスレットまで含めてチタン製の時計を作っているメーカーはいくつもない。しかし、今のチタン合金(グレード5チタン)は、ステンレススティールに遜色ない質感を持つだけでなく、錆びにくく、しかもアレルギーも出にくい。「色物」ではなく、レギュラーモデルに採用したブレゲはさすがに見識がある。
なお、マリーンのチタンブレスレットは、完全に分解できる構造に特徴がある。つまり、長期間使ってダメージを受けても、分解修理が可能だ。また、時計本体部分もブレスレット部分も軽いため、時計全体のバランスはかなり良好である。重い時計を好まない愛好家でも、チタンブレスレット付きのマリーンは試す価値がある。11.5mmというケース厚も、スポーティーウォッチとしては薄いと言える。
自動巻き(Cal.777A)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。Tiケース(直径40mm、厚さ11.5mm)。100m防水。237万6000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 TEL 03-6254-7211
3針モデルが搭載するのは、新世代の自動巻き、Cal.777Aである。前作のCal.517GGに比べて設計はシンプルだが、フレデリック・ピゲをベースにした後者に比べて前者は明らかに頑強で、理論上の精度も安定している。加えてシリコン製のヒゲゼンマイと、フリースプラングテンプを持ち、磁気と衝撃にもかなり強いため、スポーティウォッチにはうってつけの心臓だろう。
巻き上げは両方向。巻き上げ機構に使われるリバーサーはかなりコンパクトだが、スウォッチ グループ製自動巻きの常で、耐久性に優れ、巻き上げも大変に良い。なお、あえてローターの保持にセラミックス製のベアリングを使わなかったのは、おそらくローター音が大きくなることを嫌ったためだろう。設計自体はかなり保守的だが、筆者はこのムーブメントが好きである。