新しい「アクアレーサー」を見て、正直驚かされた。時計としての完成度がぐっと上がっているのだ。クリエイティブディレクターの名前を聞いて合点がいった。ギィ・ボヴェ。IWCやショパール、ブライトリングにいた彼ではないか。2018年にタグ・ホイヤーに入社したとは聞いていたが、こういうかたちで彼の存在を実感できるとは思ってもみなかった。
[クロノス日本版 2021年9月号掲載記事]
新アクアレーサーに見る、クリエイティブディレクターの熟練
タグ・ホイヤー クリエイティブディレクター。1971年、アメリカ生まれ。大学卒業後、医療業界に従事した後、IWCに入社。その後、ショパールとクロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーを経て、ブライトリングで製品のリニューアルを行う。2018年11月、タグ・ホイヤーに入社し、プロダクトディレクターに就任。19年に現職のクリエイティブディレクターとなり、タグ・ホイヤー全モデルのデザインを指揮する。
「私たちは、アクアレーサーシリーズを生み出したタグ・ホイヤーのダイビングウォッチの歴史をはっきりと新作に反映させたいと考えました。旧モデルと新モデルを比較すると、全体的なデザインは非常に見慣れたものであるにもかかわらず、文字盤やベゼルのマーキング、ケースの仕上げ、プロポーションや形状、文字盤のデザインやレイアウト、針など、ひとつとして同じディテールはありません」。確かに、新しいアクアレーサーは、ケースなどを含めて、まったく別物になった。
「デザインチームは、時計のあらゆる部分のディテールを再設計したのです。その中でも特に重要なのが、工学的にもデザイン的にもひと目で分かる12面体のベゼルですね。基本的な形状はそのままに、デザインと印象を進化させ、傷の付きにくいセラミックス製インサートを採用しました。12面体のファセットそれぞれに溝を設けることで、どのファセットを触ってもベゼルを握りやすく、回しやすいようにしつつ、ベゼルの歯の形を見直し、回転機構がよりスムーズに、静かに、簡単にセットできるようにしました」。
確かに、60ノッチで回る逆回転防止ベゼルは以前に比べて感触が良くなった。触って質感が良くなったことが分かるのは、ギィ・ボヴェの熟練を反映したものだろう。そんな彼の配慮を示すのが、6時位置の日付表示に取り付けられた拡大レンズだ。
「6時位置の日付の上に置かれた拡大鏡は、サファイアクリスタルの内側に組み込まれ、上側は滑らかな手触りになっています。より多くの角度から日付を読み取りやすくするものですね」。筆者は彼のデザインを、2005年のIWC「インヂュニア」から知っている。しかし、ここまで熟練するとは、正直想像もしていなかった。なぜ良くなったのか、率直に聞いてみた。
「私はデザイナーとして、常にブランドのレガシーを活かすことに努めています。タグ・ホイヤーには、幸運にも160年の歴史があり、そこからインスピレーションを得ることができます」
あくまで優等生的な回答に終始するギィ・ボヴェ。しかし、彼が試行錯誤の末にアクアレーサーを完成させたことは、よく出来た実物を見れば明らかだ。今後、タグ・ホイヤーはより面白くなるかもしれない。
時計としての魅力を大きく増した定番モデル。現行品では珍しい、グレード2チタン製の外装を持つ。逆回転防止ベゼルの上面も、筋目処理を施したセラミックス製になった。バックルは最大1.5cmの微調整ができるほか、薄いため装着感は良好だ。写真はグリーンベゼルとダイアルを持つRef.WBP208B.BF0631。自動巻き(Cal.5)。25または26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。Ti(直径43mm、厚さ12.20mm)。300m防水。49万5000円(税込み)。
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