ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
これまで時計の流通状況に関して、一切、コメントを発してこなかったロレックスが、異例の“オフィシャルコメント”を、ある媒体のある記事に寄せた。それだけで世界がざわつくほど、神秘に包まれたロレックス。世界が驚いた、この“事件”の顛末をジャーナリストの渋谷ヤスヒト氏が報告する。
(2021年10月02日掲載記事)
世界を驚かせた異例のロレックス「公式コメント」
2021年9月、アメリカで時計愛好家や時計関係者たちの間で話題になった、ちょっとした“事件”があった。公式コメントをしないロレックスが、ポータルサイトの「Yahoo!ファイナンス」(USA版)で配信された「THE GREAT ROLEX MISTERY」というタイトルの、過熱するロレックス人気と品薄状態、アフターマーケットでの価格高騰について取り上げた約6分の時事解説ビデオに対して、後から公式のコメントを寄せたのだ。
四半世紀以上も時計ジャーナリストをしている筆者も、ロレックスが「ある媒体に公式コメントを寄せた」など、一度も聞いたことがない。このことを知ったときは「まさか!」と驚いた。
生産数を上回る圧倒的な人気
このwebChronos(ウェブクロノス)や『クロノス日本版』本誌をお読みの方なら、ロレックスの人気モデルが品薄状態なのは、何年も前から実感しているはず。中でも、エクスプローラーやサブマリーナーなどの「プロフェッショナル ウォッチ」と呼ばれるモデルは常に品薄で、「買いたくても買えない」状態が続いている。正規販売店で購入したくても、この種のモデルには在庫がなく、「いつ製品が供給されるか分かりません」と言われる。多くの人が、こんな経験をしているはずだ。
なぜこんなことが常態化してしまったのか? その理由は簡単。ニーズと生産量のギャップがあまりに大きいからだ。
ただ、需給のギャップが実際にどのくらいあるのかは、まったくわからない。法人格が財団法人のロレックスには、株式会社のような企業情報の公開義務はない。そのため、ロレックスが1年間に何本の時計を生産・出荷しているのかは分からない。ロレックスに興味がある人たちの間で知られているのは、年間70万〜80万本という数字。これはロレックスの機械式モデルのほとんどがスイス公式クロノメーター検査協会(COSC)の認定を取得しており、この「COSCの検定に合格した数」から推計した年間生産本数に過ぎない。