「オデュッセウス」の人気で、従来の時計コレクター以外からも注目を集めるA.ランゲ&ゾーネ。しかし、同社は良い意味で、慎重なスタンスを崩さないようだ。CEOのヴィルヘルム・シュミットはこう語る。
[クロノス日本版 2021年11月号掲載記事]
慎重さを崩さないA.ランゲ&ゾーネのひそやかな進化
A.ランゲ&ゾーネCEO。1963年、ドイツ生まれ。アーヘン大学で経営学を学んだ後、BPカストロール、BMWを経て、2011年より現職。ブランドの長期的発展を見据えて、工場とブティックの拡充を図ったほか、基幹コレクションの整理を行う。曰く「私のビジネスへのスタンスは、リスクを抑え、手堅い地盤に手足を据えていくこと」。ブランドの維持に注力する姿勢は、時計関係者から高い評価を得ている。
「オデュッセウスがこれほど大きな成功を収めたことを大変うれしく思っています。しかし、人気は他のモデルにも言えることですね。ランゲが時計業界の中でも、時計作りにおける手作業の割合が最も高いという事実を考えると、常に需要と生産能力のバランスを保つ必要があるでしょう」。つまり、オデュッセウスの人気が高くとも安易に増産はしない、ということか。こういった慎重な姿勢は、同社がバリエーションを増やす「色」についても言える。
「私たちは使用する色の範囲を拡大しましたが、組み合わせ方は色の調和のルールに従っています。オデュッセウスのホワイトゴールドバージョンを開発したとき、文字盤にはステンレススティールモデルのようなブルーではなく、グレーを採用しました。それはエレガントに見え、私たちのカラーコードと一致していたからです。しかし、色違いなど、一見マイナーなバリエーションを追加した場合、そのために費やされた時間や検討事項は見過ごされがちですね。グレーにする場合、より効果的な質感を得るため、文字盤の表面に施す模様を変える必要がありました。また、私たちは時計の着用時とまったく同じようにすべての色やコーティングを確認する必要があります。風防に使う反射防止サファイアクリスタルの下に色を置くと、目に届く光の印象が変わる可能性があるからです」
新素材へのスタンスも同様である。「ムーブメントは30年経っても50年経っても修理可能でなければならないし、ヒゲゼンマイを含むすべての部品は、そのときにも生産できなければなりません。そのために、私たちはヒゲゼンマイを内製することを決めたのです」。とはいえ、A.ランゲ&ゾーネも変わりつつある。それが、eコマースと、二次流通への取り組みだ。
「顧客の観点からすると、より構造化された、そして透明性の高い二次流通市場を持つことは明らかに望ましいことです。そのため、リシュモン グループはオンラインショップのウォッチファインダーを買収して発展させ、グループ各社の作る、質の高い二次流通品を購入・販売するための最初の接点としました。 昨年からは、チューリヒのバーンホフシュトラーセにある私たちのブティックでも、パイロットプロジェクトとしてウォッチファインダーのサービスを提供しています。私たちは、このサービスを他の市場に拡大するかどうか、検討・評価している最中です」
CEOのヴィルヘルム・シュミット曰く「時計製造の芸術性の究極に至るよう努めている」。その象徴が、手作業を費やした本作だ。ホワイトゴールド製の文字盤中央部に施されたダイヤモンド模様はエングレーバーが手彫りしたもので、その上に半透明のエナメル層を重ね、メタリックグレーの彫金に深み与えている。手巻き(Cal.L042.1)。45+2石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約120時間。Pt(縦39.2×横29.5mm、厚さ10.3mm)。3気圧防水。世界限定30本。時価。
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