永遠の中に息づくエレガンス、パテック フィリップ「インライン永久カレンダー Ref.5236P」

FEATUREその他
2021.10.26

2021年、パテック フィリップは、曜日、日付、月を12時位置の大型表示窓に並べて表示する新しい永久カレンダーを発表し、カレンダー・ウォッチの豊かな現行コレクションをさらに充実させた。パテック フィリップ技術陣は、いかにしてこのムーブメントを作り上げたのであろうか?

Ref.5236P

「インライン永久カレンダー Ref.5236P」。自動巻き(Cal.31‑260 PS QL)。55石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。プラチナケース(直径41.3mm、厚さ11.07mm)。アリゲーターストラップ。3気圧防水。1494万9000円(税込み)。
Originally published on EUROPA STAR
Text by By Pierre Maillard
2021年10月26日掲載記事

自社のアーカイブより着想を得た新たな永久カレンダー

 永久カレンダーをデザインすること、それは時計作りにおける最高の理想のひとつだ。それはその名が示すように、時間の流れを妨げることのない偉大な天空の時計を機械的な形にすることが目的だからである。時計師にとって、一日の時間と週、月、年を狂いのない精度で表示することができる機構を作ること以上の達成感があるだろうか。フランスの哲学者であり理神論者であるヴォルテールがいうように、神は自身が「偉大な時計の作り手」ではなかっただろうか?

 現在、私たちの多くは、グレゴリオ暦で定められた1年の区分に従って生活している。これは1582年にローマ教皇グレゴリウス13世が日時計に近づけるために導入した暦である。教皇の発案に気の進まないプロテスタント系の国々は、「太陽と仲を違った」と呼ばれ、それまでの日時計に対し累積で約11日(大体1世紀に1日)の遅れがあったユリウス暦を選んだ。

 そのため、1582年にグレゴリオ暦を採用した国では、10月4日の直後に10月15日を加えて遅れを修正した。それ以来、グレゴリオ暦は太陽に近い精度になってきたが、正確さを保つためには、4年に1度2月に1日を加え、世紀末には例外とする閏年が必要となる(そして400年目も例外とする)。これにより、時計師たちには天文的な計算を機械式の中に実現させるという課題が投げられたのだった。

 18世紀末に完成した永久カレンダーの技術は、パテック フィリップが得意とするところである。それを雄弁に物語るのが、パテック フィリップ製の数々の懐中時計である。またパテック フィリップは、1925年には世界初の永久カレンダー腕時計を完成させている。

Ref.5236P

曜日、日付、月を並べて表示するインライン表示永久カレンダーを備えたRef.5236P。

驚くほどシンプルな外観と、恐ろしく複雑な機構

 永久カレンダーの時間とカレンダーの表示の明瞭さと読みやすさは、必要不可欠な要素である。そしてこれらの要素は、全体を完成させるものとして多くの場合ムーンフェイズを伴う。長年にわたり、パテック フィリップはさまざまな表示方法を提供してきた。例えば、サブダイアルにおける針での表示(キャリバー240 Qを搭載したモデル)や、曜日と月をふたつの開口部で表示するものなどである。

Ref.5236P

最高の視認性を保証するため、カレンダー表示はできるだけ大型化された。

 他にも、ごく一部の懐中時計にしか採用されず、腕時計に採用されたことのない表示方法も存在した。それが、12時位置に曜日、日付、月を1本の直線状で表示した1972年製の懐中時計Inv.P-72である。ジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されたこの時計は、パテック フィリップの技術者たちの目に留まり、新しいパーペチュアル・カレンダーRef.5236のインスピレーションとなった。

 この一列のレイアウトは時計学的な観点から見て、優れた永久カレンダーの本質を幾何学的、グラフィック的に表現しており、一瞥しただけで読み取れる整然とした情報を表示している。しかし、このようなカレンダー表示を腕時計に搭載するには、技術的に多くの課題があることが技術者たちには分かっていた。

Ref.5236P

10の位と、1の位の数字を表示する日付表示ディスクを含む合計4枚の回転ディスクは、すべてが完璧に同一平面上に配置されている。