テクノロジーの分野で知らぬ人はいないほどのジャーナリストが、本田雅一氏だ。その本田氏が、ウェアラブルデバイスについて執筆する本連載。今回は2回にわたってApple Watch Series 7を紹介。後編は性能面ではSerise6からあまり進化をしなかったSeries 7が目指した進化の方向性について述べる。着用して見えてきたのは、より嗜好品として磨きがかかったということだ。
GPS+Cellularモデル。S7 SiP(64ビットデュアルコアプロセッサ搭載)。リチャージブルリチウムイオンバッテリー。パワーリザーブ約18時間。アルミニウム(ケース径45mm)。50m防水。
Text by Masakazu Honda
2021年11月1日公開記事
Apple Watch Series 7詳報
前回のコラムでApple Watchの最新シリーズ、Apple Watch series 7について触れた。
小さなコンピューターでもあるApple Watchだが、今回はコンピューターの主要部分には大きなメスは入らず、その代わりに構造設計の一新が行われてういる。
コンピューターとして機能させるためのSiP(システムインパッケージ)が第7世代となってコンパクトになり、コンパクトになったシステムにより生まれた空間を生かした再配置を行うことで、従来とは異なる構造に仕上げた。
一方で“コンピューターとしての部分は同等”と表現している(後述するがまったく同じというではない)ように、電子ウェアラブルデバイスとしての性能や機能性は、前世代モデルと変わらない。
従来の製品も最新のwatchOS 8にアップデートすることで、iOS 15とのハーモニーがもたらす利便性は享受できる。
スマートフォンが当たり前の社会生活の中で、より“便利にスマートフォン中心のライフスタイルを送る道具”としてのApple Watchという意味では、標準的な機能を網羅するApple Watch SEで十分とも言えるだろう。
では最新のseries 7は、Apple Watchの基本形とも言えるApple Watch SEに対してどのような付加価値があるのだろうか。それは毎年のように進化する電子デバイスに、嗜好品としての要素を加えることでもある。
iPhoneを引き立てるパートナー
Apple Watchと最も近しい位置付けのライバルと言えば、グーグルが開発するwear OSを搭載するスマートウォッチになる。wear OSはサムスンのTizenとの統合が進められる端境期にあたるが、それ以上にApple Watchと異なっているのは、Apple WatchはiPhoneの引き立て役であるということだ。
iPhone以外とのペアリングは考慮されないが、iPhone向けの最新OSがもたらす機能や操作性と並行して開発されるため、流れるような連携が当たり前のようにもたらされる。いつも通りにiPhoneを使っていれば、そのライフスタイルの質をApple Watchが少しずつ高めてくれる。
読者の中には「Apple Watchは売上げを伸ばすためにiPhone以外とのペアリングをサポートしないのか」と思っている人もいるだろう。しかし、iOSの改良が進められる中で、あらゆる機能やサービスとセットでwatchOSの機能や操作がデザインされる関係にある中にあって、その関係を断ち切ることは出来ない。
iPhoneでスケジュールを管理し、行動をしていれば、予定の場所に行くための出発準備を促すメッセージがApple Watchに届き、MacやiPhoneのロック画面を外す際にもApple Watchが手間を省くように助けてくれる。CarPlay対応の自動車で音楽を聴いていると、自動的に音楽再生のリモコンとなり、ナビゲーション機能を使っていれば振動と画面表示で経路案内をアシストする。
Apple Watchから得られたバイタル情報や睡眠、生活習慣は、iPhone上でその全体像を把握でき、アップルのHealth kit経由でさまざまなヘルスケアサービスやアプリケーションと連携することも可能だ。
メッセージ通知などは、ここ数年で少しずつ改良されてきた事もあり、ごく当たり前にスマートフォンに集まる情報がApple Watchを通じて頭の中に入ってくる様になった。今後もこうした改良、滑らかな情報の流れはより洗練度を高めていくだろうが、その多くは基本形である「SE」で充分に享受できる。
iPhoneにおいても、iPhone SEが基本モデルとして存在しているように、Apple Watchに関しても「アップルが考えるウェアラブルデバイス」の基本形としてSEが位置付けられている。
アップル自身がApple Watchという商品が成熟したことを感じ取り、製品を分化させようとしているのだ。