腕時計へのチタン採用のパイオニアであるシチズン時計は、宇宙ベンチャー企業である株式会社ispaceと提携した。そして2021年夏に、月面探査プログラムで用いられる独自素材を用いて宇宙探査の夢を膨らませるふたつのクロノグラフモデルを発表した。改めてその詳細を撮り下ろし画像とともに紹介する。
2021年11月17日掲載記事
⺠間月面探査プログラム「HAKUTO-R」とのコラボレーション2モデル
株式会社ispaceは、「Expand our planet. Expand our future. ―⼈類の⽣活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ―」をビジョンに掲げ、⽉⾯資源開発に取り組んでいる宇宙スタートアップ企業である。元はグーグル・ルナ・エックスプライズにおいて、ispaceが担当したチーム「HAKUTO」(日本の神話に登場する白兎に由来する名前)を起源とし、現在では世界初の商業月面探査プログラム「HAKUTO-R」を進めており、そこでispaceはふたつの月におけるミッションを設定している。
月面に着陸する最初のミッション(M1)は、2022年に月面へ軟着陸することを目指している。翌年の第2回ミッション(M2)では、月面探査とデータ収集のためのローバーを月に持ち込む必要がある。ミッション3以降では、ispaceは月面着陸とローバー探査の頻度を増やし、月への乗客の輸送を目指している。
株式会社ispace創業者・CEOの袴田武史はこう語る。「日本の高品質なものづくりと協調的なリーダーシップにより、ispaceは人類を支える宇宙規模の生命圏の構築に貢献します」。
シチズンは、月面着陸機の脚部にスーパーチタニウムを提供する。スーパーチタニウムは、シチズンが独自に開発したデュラテクトと呼ばれる表面処理を用いて開発されたもので、イオンプレーティング、コールドプラズマ、ガスによる硬化処理、二層コーティングなどの特殊な処理技術を用いて、チタンの軽さを維持しながら、ステンレスの6倍の硬度と優れた耐久性、耐摩耗性を持つチタン素材を実現している。今回の提携により、シチズンは純チタン素材を調達し、デュラテクト処理技術を用いて加工し、HAKUTO-Rの着陸船と探査機の部品として採用する。
「シチズンとispaceは、HAKUTO-Rの宇宙船の部品にスーパーチタニウムを使用することで、信頼性と環境に対する耐性を改善することを目指します」とシチズン時計は述べている。
人類が月に降り立った翌年の1970年、シチズンは世界初のチタン製量産時計「X-8クロノメーター」を発表した。
「月の淡い光」を表現した「CC4016-75E」
光発電エコ・ドライブ(Cal.F950)。月差±5秒(非受信時)。フル充電時約5年可動(パワーセーブ作動時)。スーパーチタニウム™️ケース(直径44.3mm、厚さ15.4mm)。10気圧防水。世界限定1200本。28万6000円(税込み)。
ラグジュアリーな雰囲気をまとった「CC4016-75E」はケースとブレスレットにゴールドのハイライトを採用し、素材表面を硬化させるためにデュラテクト MRK ゴールドを施している。一方、ベゼルとブレスレットに採用されているデュラテクト DLCはゴールドカラー部分との見事なコントラストを生み出している。
さらにデュラテクト DLCは、炭素と水素を主成分とするアモルファスカーボンの硬質膜を素材の表面にコーティングすることで、ビッカース硬度1000~1400HVを実現している。デュラテクト MRKとデュラテクト MRK ゴールドは、チタン素材の表面にガスを吹き付けて硬化させることで、1300~1500HHの硬度を実現している。
ハイテク素材とは対照的に、6時位置のサブダイアルにはマザー・オブ・パールが採用され、アプライドインデックス、針、9時と3時位置のサブダイアルはゴールドカラーが採用されている。また多層構造の文字盤上の4時半位置には日付表示窓が組み込まれている。蓄光塗料は時分針とアワーインデックスに施されている。
直径44.3mmのこのモデルには、シチズンのエコ・ドライブ GPS 衛星電波時計キャリバーF950が搭載されている。シチズンによるとこれはGPS衛星電波を世界最速レベルの最短3秒で受信する性能を持つということだ。また時分針は従来のモデルの2倍の速さで動き、現在の時刻を素早く表示する。さらにフル充電で約5年間の動作が可能だ(パワーセーブモード時)。
F950は多くの機能を備えており、27都市(40のタイムゾーン)ワールドタイム、クロノグラフ、デュアルタイムゾーン、サマータイム表示、パーペチュアルカレンダー、パワーリザーブ表示、ライトレベル表示などが含まれている。
「月の暗闇」を表現した「AT8185-71E」
やや小ぶりでオールブラックのAT8185-71E、そのデザインはおそらく月の裏側にインスパイアされたものだろう。直径42.0mmのケース内にはエコ・ドライブ電波時計キャリバーH800を搭載している。このムーブメントは、26都市のワールドタイム表示、クロノグラフ(1/20秒、60秒、合計60分)、デュアルタイムゾーン、UCT表示、パーペチュアルカレンダーのほか、サマータイム、パワーリザーブ、ライトレベル表示を備えている。このモデルは約10万年に1秒の誤差といわれる原子時計と同期しており、つまり現在ある時間の供給元としては最も精度の高いものと連動して、時間とカレンダーを自動補正している。パワーセーブモードのフル充電状態で、約10カ月の駆動が可能だ。
光発電エコ・ドライブ(Cal.H800/月差±15秒・非受信時)。フル充電時約10カ月駆動(パワーセーブ作動時)。スーパーチタニウム™️ケース(直径42.0mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。世界限定1600本(※現在、店頭在庫のみ)。16万5000円(税込み)。
月面探査機の部品にも使用されているスーパーチタニウムを採用したこのモデルは、月面のような立体感を表現するために何層にも重ねられた文字盤を備えている。
6時位置のサブダイアルにはマザー・オブ・パールのアクセントが施され、インナーベゼルには宇宙の星が描かれている。ケースバックにはHAKUTO-Rのロゴがレーザーで刻印されている。
まとめ
この⺠間月面探査プログラム「HAKUTO-R」とのコラボレーション2モデルは、どちらもチタン素材の先駆者たるシチズンの専門性を示す好例である。特にツートーンカラーのCC4016-75Eにおいてそれは顕著で、ダークカラーのチタンとゴールドカラーのアクセントという華やかな組み合わせを提供している。またAT8185-71Eの星や月面の細やかな仕上がりを見ていると、心はすぐに宇宙探査への夢に思いをはせることになるだろう。
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https://www.webchronos.net/features/63786/
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