突きつけられた「No」
しかしブルガリへの期待も含めて行った2021年のジュネーブ・ウォッチ・デイズでのポップアップイベントの成果、つまりジュネーブで時計関係者にアクセスしてバーゼルワールドへの参加を呼びかけた活動の結果は、残念ながら厳しいものだったのだろう。もはやバーゼルワールド事務局=MCHグループには、開催に必要な最低限の出展社=時計ブランドを集めることのできる信用はない。多くの時計関係者にとって、バーゼルワールドは「終わったコンテンツ」になってしまったのである。
メリコフ氏やMCHグループにとって、フェア開催のための唯一無二の希望は、2018年を最後にフェアを離脱したスウォッチ グループが再びバーゼルワールドに出展することだった。だがおそらく、その可能性もなくなったのだろう。それがこの「2022年は開催中止」という重大発表に至った理由に違いない。
このコラムの過去の記事でも再三再四述べてきたが、バーゼルワールド崩壊・消滅の最大の原因は、バーゼルワールド事務局、つまりMCHグループの「救いようのない傲慢さ」にある。
それなのに、同事務局は2022年のバーゼルワールドの開催日を、わざわざ、まるで喧嘩を売るように「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」の開催期間中に重ねた。まだ自分たちは「歴史と実績を誇る世界最大の時計宝飾フェアであり、集客力は消えていないのだ」という「救いようのない傲慢さ」を、わざわざアピールしてしまったのだ。
この挑戦的な日程が、2018年の5月末からフェアの改革、立て直しに奔走し、今回退任が発表されたマネージングディレクター、ミシェル・ロリス-メリコフ氏が主導で決めたものなのか、それともMCHグループの役員会が決定したものなのか、どちらなのかは分からない。
迷走するバーゼルワールド
しかしいずれにせよ、バーゼルワールドは今後、さらに迷走するだろう。2019年のバーゼルワールド最終日、異例のクロージング・プレスカンファレンスでメリコフ氏が発表した「バーゼルワールド再生プラン」は、変革を期待させるものだった。
だが2年近くも続く新型コロナウイルス危機と、地元バーゼル・シュタット州から役員を迎えている半官半民の企業体MCHグループの「救いようのない傲慢さ」は、この再生プランを押し流してしまった。
メリコフ氏の後任者が、プロデュース力に加えて、バーゼル・シュタット州や経済界にも顔が利く強い政治力の持ち主でなければ、バーゼルワールドの復活は絶対に不可能だろう。
MCHグループには、時計ブランドや時計関係者が喜んで参加できる新しいバーゼルワールドを企画立案できる人物、何よりも時計ブランドの信頼を取り戻せる人物を、ぜひメリコフ氏の後任に据えてほしい。これは「世界最大だった新作時計祭り」に愛着がある筆者はもちろん、時計業界の関係者の切なる願いだろう。
果たしてMCHグループは、「2023年以降の復活」というミッションを達成できる適任者を見つけられるのか? バーゼルワールドのサバイバルは、間違いなくこの非常に難しい人材探しに懸かっている。
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