ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
2021年11月4日、日本の時計好き、そして世界のグランドセイコー好きにとって、最大級の朗報が届いた。グランドセイコーがジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)において、「メンズウォッチ」部門賞を受賞したのだ。「部門賞」と聞いて、決して侮るなかれ!
この受賞が、実はどれほどすごいのか? 長年にわたってセイコー、そしてグランドセイコーを取材してきたジャーナリスト、渋谷ヤスヒト氏がその“想い”とともに熱く解説する。
(2021年11月21日掲載記事)
「グランドセイコー」が2度目の受賞!
2021年11月4日、スイス時計発祥の地・ジュネーブ州とジュネーブ市が運営する公益財団が主催する「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG―グランプリ・ド・オルロジュリー・ド・ジュネーブ)」の2021年の授賞式がジュネーブのテアトル・デュ・レマンで行われた。そして、グランドセイコーの「ヘリテージコレクション」SLGH005が「メンズウォッチ」部門賞(Men’s Watch Prize)を受賞した。
グランドセイコーの受賞は、2014年に「メカニカルハイビート36000GMT限定モデル」が「小さな針」(“La Petite Aiguille”=プチ・エギュイユ)部門賞(8000スイスフラン以下の時計を対象とした部門)を受賞して以来、2回目になる。
まずはこの賞がどんなものか、基本だけおさらいしておこう。最近は「時計界のアカデミー賞」とも言われるこの賞は2001年にスタート。毎年発売される新作時計の世界的な認知とプロモーションを目的にしていて、日本で言えば「時計界のグッドデザイン賞」のようなものに近い。
ただ、この賞はデザインだけが審査対象ではなく、時計全体の魅力を審査する。世界中から選ばれた「GPHGアカデミー」と呼ばれる約500人の世界の時計業界関係者や独立時計師、時計ジャーナリストたちの二度に及ぶ投票、そして20人の選考委員の会議によって受賞作が決まる。「今年のベストウォッチ賞」と考えてもいいだろう。ちなみに日本からも何人かこのメンバーに選ばれている。その方々はこの投票に参加しているはずだ。
時計ブランドは、エントリー料を払ってこの新作時計コンテストにエントリーする。アカデミーのメンバーが推薦することもできるが、その場合でもエントリー料が必要だ。そのため、ロレックスやパテック フィリップ、F.P.ジュルヌのように参加しないブランドもある。
だが、こうしたブランドが参加していないからといって、この賞に価値がないかといえば、それは違う。これだけ多くの時計のプロフェッショナルたちが直接関わって選ぶ、しかも販売される新作時計、つまり商品として流通する時計の権威あるアワードは世界で唯一、この賞だけだからだ。
2021年9月に行われた一度目の投票では、エントリーした数百本のモデルから、14のカテゴリーに分けられた84のモデルが選考を通過した。そして11月の二度目の投票と、時計業界では誰もが知っているイギリスの時計ジャーナリスト、ニック・フォークス氏を審査委員長とする20人の審査委員会が、最終的に19の賞とその受賞モデルを選定し、11月4日に授賞式が開催されたのだ。
最高賞はブルガリの「オクト フィニッシモ」最新作
このジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの最高賞にあたる「エギュイユ・ドール(金の針)賞」を獲得したのは、超薄型腕時計の限界にチャレンジし続けるブルガリの「オクト フィニッシモ」コレクションの最新作「オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー」である。複雑な永久カレンダーを搭載しながらも、マイクロローター式巻き上げ機構を備えた厚さわずか2.75mmの新開発自動巻きムーブメント「BVL305」を採用することで、ケース厚わずか5.8mmという、自動巻き永久カレンダーとして世界最薄記録を樹立したモデルだ。
右は、ブルガリ グループ CEO のジャン-クリストフ・ババン氏(右)と、ブルガリ ウォッチ デザイン センターシニア・ディレクターのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏(左)。
ブルガリは2014年以降、この「オクト フィニッシモ」コレクションにおいて、世界最薄記録を達成した6つのモデルをすでに世に送り出してきた。この永久カレンダー搭載自動巻きモデルはそれに続く第7作目である。したがって、今回の最高賞受賞は当然のことだとも言える。以前の6作にも最高賞にふさわしいものが多くあった。むしろ、この受賞は「遅すぎた」と言ってもいい順当なものだ。