“時刻を聞く”ことに焦点を当てたユリス・ナルダンは、ストライキング機構を進化させた「ブラスト アワーストライカー」を発表。オーディオブランドであるデビアレ社との2度目のコラボレーションにより、音質・音量ともに歴代最高レベルのパフォーマンスを実現した。
デビアレ社とのコラボレーション再び
ユリス・ナルダンは2021年ウォッチズ&ワンダーズ(W&W)の新作として、音作りに本気で向き合ったストライキングウォッチ「ブラスト アワーストライカー」を発表した。
1980年代以降、ユリス・ナルダンが得意としてきたストライキングウォッチのノウハウを基にゼロベースで開発された新型ムーブメントCal.UN-621を搭載。毎正時と30分ごとに自動的にゴングを打ち鳴らすアワーストライキング機構に加え、10時位置のボタンを押すことで、オンデマンドで作動させることもできる。自動巻き(Cal.UN-621)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径45mm)。30m防水。1262万8000円(税込み)。
時刻を読むのではなく“聞く”ということに焦点を当てた本作は、鐘の音が時刻を知らせていた中世のヨーロッパに由来するものだ。大きな時計台からデスククロック、そして腕時計へと進化した過程において、時間そのものが常に音と共にあった。その歴史からインスパイアされ、ユリス・ナルダンは再び「音」と向き合ったのである。
1980年代からストライキング機構の開発を復活させた同社は、2019年に「アワーストライカー ファントム」を発表して新天地を迎えた。高級スピーカーやイヤホンを手掛けるフランスのオーディオブランド、デビアレ社とのコラボレーションを果たし、まったく新しいストライキング機構の開発に成功した。前作で培った技術を改良し、さらなる音響パフォーマンスを実現したのである。
ダイアル側から見える複雑機構
「ブラスト アワーストライカー」を開発するにあたって、同社のエンジニアチームは「ダイアル側にチャイム機構を配置する」「音質と音量をさらに向上させる」というふたつの課題を設けた。その目標は見事に達成され、自社製キャリバー「UN-621」が誕生。通常はケースバック側に配置する330もの部品を、ダイアル側で機能させることは容易ではない。加えて6時位置に配置されたフライング トゥールビヨンは近年のユリス・ナルダンを象徴する「X」型であり、シリコン製の脱進機を備えている。
正時と30分で自動的に音を奏でる本作のアワーストライキング機構。10時位置のボタンを押すことで、開口部から見えるハンマーが、トゥールビヨンのゲージを旋回するように設計されたゴングを打ち鳴らす。ゴングを支えるゴングサポートにはデビアレ社の音量増幅機構が組み込まれているため、音量・音質ともに期待できるだろう。また8時位置のボタンを押すことで、機能のオン/オフが可能だ。
(右)ブラスト アワーストライカーの外装を分解した様子。文字盤側にゴングとハンマーをはじめとするアワーストライキング機構が搭載されているのが見て取れる。裏蓋に設けられたX型の開口部からは、ゴングの振動を増幅するためのサウンド強化システムの要である、厚さわずか0.3mmのチタン製メンブレン(膜)を見ることができる。
ユリス・ナルダン チーフプロダクトオフィサーのジャン=クリストフ・サバティエは言う。「以前の鳴り物の技術では、文字盤をオープンワークにする余裕がなかった。今回、鳴り物をゼロベースで開発し、文字盤側からゴングをはじめとする鳴り物機構を見えるようにした。フライングトゥールビヨンに鳴り物を加えるのは特に困難な挑戦ではなかった。しかし、既存のキャリバーをベースに、約50%もこの時計のために新たに部品を作ったのだが、既存と新規のパーツを統合する初期段階の設計が難しかった」
音量に関しては、デビアレ社のスピーカーをヒントに、ゴングの振動を厚さ0.3mmのチタン製の薄膜(メンブレン)に伝達することで増幅しているのだが、空気振動ではなく、ゴングサポートからトランスミッションアームを経て、防水パッキンの外側にあるメンブレンに振動を伝達しているため、30m防水を確保することができた。
特筆すべきは、裏蓋を開けることなく、裏蓋に設けられたメンブレン音響調整ネジを出し入れすることで、メンブレンの振動を変え、音質の調整を可能にした新システムの導入だ。
「一番強調したいのは、耳で鑑賞する音に関する探求だけでなく、目で見て楽しむ新しいデザインの審美性に加え、装着した時の心地よさ。これらを実現しつつも、従来のトゥールビヨンと同じ価格帯を維持していること」
こうした要素すべてが、この新作の着想の源泉だとサバティエは説明する。