近代ダイバーズウォッチの祖「フィフティ ファゾムス」をはじめ、長い歴史の中でエポックメイキングなモデルを作り続けてきたブランパン。その時計界に影響を与えるような新しい開発を続けていく姿勢は、「革新こそ伝統」という理念の下、今も変わらずに生き続けている。
2021年10月に発表された最新の「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」もこの考え方に基づき、意欲的な素材使いに取り組む。
ブランドとして初めて医療用チタンであるグレード23をケースに採用したモデル。写真のNATOストラップのほかに、ブレスレットモデルとセイルキャンバスストラップモデルがラインナップされる。自動巻き(Cal.1315)。35 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。(Ti 直径43mm、厚さ13.45mm)。300m防水。125万4000円。
細田雄人(本誌):取材・文 Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年11月号掲載記事]
革新こそ伝統「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」
「革新こそ伝統」をブランドの理念に掲げるブランパン。これは1953年に発表された「フィフティ ファゾムス」が、回転ベゼルの誤作動防止機構や軟鉄製のインナーケースによる高耐磁性、そして約100mもの防水性能というスペックによってモダンダイバーズの祖となったように、また56年に世界最小のラウンドウォッチ「レディバード」を生み出したように、歴史の中で革新的プロダクトを生み出し続けていくことが、自分たちにとっての正しい在り方だという気概にほかならない。そして、その理念を受け継ぐのが、2021年10月に発表された「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」の新バリエーションだ。
同作はグレード23という医療用チタンをケースに使用する。聞き慣れないグレードだが、6%のアルミニウムと4%のバナジウムを含むTi6Al4V合金であり、基本的な組成は一般的に用いられるグレード5と同じだ。では何が異なるのかというと、ベースとなるチタンそのものの純度が高いため、グレード5よりも耐食性が高く、さらにアレルギーも発生しづらい。1956年のオリジナル同様、ダイバーズウォッチとしての本格的な性能を持ちながら、小径かつ厚みを抑えたフィフティ ファゾムス バチスカーフのキャラクターを考えれば、日常使いでの長時間着用や、スポーツで汗ばむようなシーンでの使用も多くなるだろうから、より肌に優しいグレード23の採用は理にかなっていると言える。
そんなグレード23だが、グレード5と比較して強度が若干劣るという弱点を持つ。腕時計にとって理想的な特性を持つ同素材を、多くの時計メーカーが採用してこなかった最大の要因だろう。ではなぜ、ブランパンはグレード23をケースに使用することができたのか。それは同社が熱間鍛造のノウハウを持っているからだ。熱間鍛造は型打ちの後に焼き入れをはさみ、再度鍛造を行うことで金属の強度と靭性を高めることができる工法である。しかしその半面、切削以上に設備が大掛かりになるため、導入している時計メーカーはごく一部だ。ブランパンではこの熱間鍛造をグレード23チタンにも用いることで、軽量かつアレルギーフリー、さらに経年変化が少ないという理想的なケースを手に入れたのだ。
その長いブランドの歴史や機械式時計のみを手掛け続けるという方針から、ややもすると保守的なイメージを持たれかねないブランパン。しかし機械式時計という限られた範囲の中で、革新とは何かを常に追求し続ける姿勢が健在であることは、グレード23 チタンを用いた最新のバチスカーフを見れば明白だ。
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