ISHIDAが考える時計専門店の意義
広田:それと、今って各社がどんどんブティック化を進めているじゃないですか。多くのブランドがブティックを持って直営として運営していく中で、さまざまなブランドを取り扱う“メガ専門店”の意味もしくは意義をどうお考えですか?
石田:その人のライフスタイルを考えて時計を提供できることが専門店の良さだと思っています。ブティックではブランドの世界観を伝えられる点は非常に良いのですが、ただそれが自分に合った時計なのかが分からなかったり、ブランドの名前に引っ張られたりしてしまうこともあります。対して何が本当に自身にあった時計なのか、我々はその選択肢を提案し、時計選びの楽しさを提供できればいいなと思っています。そして提案した時計を好きになってもらって「感動」を与えることこそが、専門店として最も大事なことですね。
広田:ISHIDAの強みのひとつとして、スタッフの定着率が高いことが挙げられると思うのですが?
石田:少なくとも僕が現職に就任してからのスタッフの定着率は高く、特別な事情がない限り退職する人が少ないと体感しています。社内はアットホームな雰囲気がありますし、大事なのは経営の透明性であったり、目標や求められていることを経営者としてきちんと共有することだと思います。
僕が進めているのは現行品とヴィンテージ品の融合です。ヴィンテージ品には長い歴史がありますし、現行品には新しい技術が詰まっている。ここをつないでいくのがブランドの良さを伝えていくひとつの流れであれば、その両方を回していくというのが、我々のあるべき姿だと考えます。そのためにスタッフの人事異動もしましたし、より専門性のあるものを作っていくという方向性をきちんと示しました。
広田:その方向性が、リニューアルしたISHIDA新宿にも表れているわけですね。それで、この新宿店を新しくするにあたって気を付けたポイントを3つ教えてください。
石田:ひとつ目は、フロア内に壁を作らないっていうポリシーをきっちり貫くこと。それからふたつ目はお客様の感動や笑い、夢のために、新たにコンシェルジュ制度を導入したことですね。
あと3つ目は、ヴィンテージ品に息を吹き込むステージ作りを行ったことかな。つまりそれは何かって言うと、ミュージアムみたいな雰囲気にすることで、よりヴィンテージ品の魅力を際立てていくっていう変革です。我々は「チェンジ&チャレンジ」っていう標語を使うんですが、まさにそれがヴィンテージ品にとってのチェンジ&チャレンジであったわけですね。
広田:ふたつ目のコンシェルジュ制度についてなのですが、基本的に専門店で店頭に立たれている方って、ブランドやフロアごとの担当制があるじゃないですか。ですが、コンシェルジュになると一気に求められる知識量も増えるし、スタッフの方の勉強量も必然的に増えると思うのですが、あえてそうしたんですか?
石田:あえてそうしました。今僕はセクショナリズムやヒエラルキーを打破しようと考えていまして、担当がそのフロアやブランドの利益しか考えていないという状況をなくすためにコンシェルジュ制度を導入したのです。専門店、とくにISHIDA新宿の強みは、例えば1階と5階にそれぞれ置いてあるブランドを並べて比較できる点にあると思うんです。なのにブランドの担当制があると、自分のブランドしか勧めなくなってしまうし、フロア制だと「なんで自分が他の階の売り上げに貢献しなきゃいけないんだ」っていう気持ちがどうしても出てくるじゃないですか。そうならないために、あえて視野を広げることを進めています。
それはなぜか、と言ったらすべてはお客様のためです。お客様に本当にいいものを選んでもらうには、セクショナリズムを全部打破して、担当の壁も壊して、全員でそこにのめり込んでいける環境作りを、トップ自らが指示してやっていく。そうすることで、専門店としての力が増していくんじゃないかな。
広田:凄いと思いましたよ、コンシェルジュ制度って。海外、特にヨーロッパの一部の店舗では取り組んだりしていますが、日本では他にない取り組みだと思いますので、今後ますます面白くなっていくことを期待していますね。
3代にわたって続くISHIDAのDNAとは?
広田:最後に、お父様、お兄様から受け継いだ石田社長の考える「ISHIDAのDNA」って何だと思われますか?
石田:ISHIDAのDNAって、お客様と一緒に育ってゆく、ってことなんだと思います。兄の時もそうですけど「時計好きな人全員集まれ」みたいなかたちで、高級時計に限らずスウォッチやG-SHOCKなどもやってきました。カジュアルなものからいつか必ず高級なものに移っていく。それがお客様と一緒に育ってゆこう、という兄の方針でした。
一方で父はヴィンテージにも力を入れていました。きちんと修理やメンテナンスを行って、適正価格でお客様にお渡ししていこうという姿勢があったから、要はそれが遺伝子なんでしょう。だからいずれにしても「お客様の視点で物事を考える」という遺伝子は、今でも変わっていませんね。
広田:要はそれが、先ほどおっしゃった「感動」であったりとか、入り口から出口まで一貫したやり方なんですね。
石田:ISHIDAの3代目の自分としては、それを推めていきたい。僕は時計って人生のマイルストーンだと思っているんですよ。例えば成人の記念でもらった時計、初めて自分の給料で買った時計、役職が昇格した記念で買った時計、結婚した時もかな。そういった人生の節目で、自分の気に入ったものでマイルストーンを刻んでいくとき、常に隣にいるようなお店になりたい。その気に入った時計を買うときに、来ていただけるようなお店作り、会社作りをしていきたいと思います。
広田:こういう言い方すると語弊がありますけど、石田社長ってすごく“コモンセンスな人”だなって思うんですよね。一般的には時計ビジネスって単価を上げていくことになりますけど、それではどうしてもリピーターに依存するかたちになるじゃないですか。その方が楽だし、実際ブティックがそれをやろうとしていますけど、先々長くは続かないだろうなと思っていまして。
先ほどおっしゃったような、時計をマイルストーンとして買う人にとって、いつでも門戸が開かれているような場所であって欲しいな、と僕は思いますね。今日はありがとうございました。
対談者プロフィール
石田充孝
広田雅将
Contact info: ISHIDA新宿 Tel.03-5360-6800
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