腕時計の機能の中でも最も一般的かつ人気のあるのがデイト表示である。しかし愛好家の中には文字盤に調和と対称性を求めてデイト表示のない時計を選ぶ人も増えてきている。それに合わせてデイト表示を省略するように舵を切ったモデルも生まれてきた。近年の例を挙げて、注目すべき6モデルを紹介する。
Text by Mark Bernardo
2021年12月15日掲載記事
IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」
IWCはビッグ・パイロット・ウォッチのケース径を46mmから43mmに小型化し、着用性の向上を図った。しかし、最も重要な変更点は文字盤にある。IWCはデイト表示と円形のパワーリザーブ表示の両方を省くことにより、よりミニマルで均整の取れたものとするだけでなく、1940年のオリジナルモデルに近いデザインとした。そして価格も数十万円程度と大きく引き下げたのだ。
この価格差は、購入者にとってパワーリザーブが以前の約7日間から許容範囲である約60時間へと短くなった点を補完して余りあるだろう。自社製キャリバー82100の自動巻きシステムが動力を供給し、IWCの高い技術水準を担保する。旧来の大きいサイズのモデルはソリッドケースバックなのに対し、新型のムーブメントはサファイアクリスタル製ケースバックを通して鑑賞が可能だ。
オメガ「デ・ヴィル トレゾア パワーリザーブ」
他の機能を削減する代わりに、オメガはこのモデルの文字盤から単純にデイトウィンドウを取り除いた。デイトウィンドウの存在は、垂直配置によるふたつのサブダイアルの完璧な対称性を損なうものとなっていたかもしれない。
12時側のサブダイアルはパワーリザーブ表示で、6時位置のサブダイアルはスモールセコンドとなっている。これらの表示に動力を供給するのは手巻きキャリバー8935で、自動巻きではないもののマスタークロノメーターのムーブメントにある基本的な特徴は残している。このムーブメントはクロノメーターにふさわしい精度で時を刻み、シリコン製ヒゲゼンマイなどの耐磁性部品を採用しているため、1万5000ガウスの磁場にも耐えることができる。
ハミルトン「イントラマティック クロノグラフ H」
ハミルトンは一般的な付加的特徴を省き、まとまりのあるレトロウォッチを作り上げた。「イントラマティック クロノグラフ H」には、日付表示だけでなく自動巻き機構も搭載されていない。ムーブメントを製造するETAは、バルジューの自動巻きキャリバー7753から手巻きキャリバーH-51を派生させることで、この機能削減を実現した。このようにして、ハミルトンは1968年に発売された「クロノグラフA」と「クロノグラフB」に限りなく近いものを復刻することができた。
「A」バージョンは文字盤の明るい背景に暗い色のカウンターを配し、「B」バージョンではその逆の配色を採用している(画像は後者)。
イントラマティック クロノグラフ Hの"H"は手巻きを意味している。1960年代後半のスポーティーエレガンスを湛えたモノクロームのレザーストラップ、もしくはステンレススティール製のミラネーゼブレスレットいずれかの組み合わせを選択できる。
ラドー「キャプテン クック ハイテクセラミック」
2021年、ラドーは人気の「キャプテン クック」コレクションにハイテクセラミックスケースを導入しただけでなく、デイト表示なしのトレンドに沿った新キャリバーを導入し、魅力的なシンメトリーを実現した。
自動巻きキャリバーR734はETAキャリバーC07をベースとしており、シースルー加工や装飾的な仕上げを施し、より精巧な調整を行い、磁気に強いチタン合金を採用したニヴァクロン製ヒゲゼンマイを備えている。ムーブメントはサファイアクリスタル製ケースバックからだけでなく、着色されたサファイアクリスタル製文字盤からも鑑賞できるため、デザインに欠かせない重要なデザイン要素となっている。ここではデイト表示を排したことがプラスに貢献している。なぜなら、デイトウィンドウや日付リングがあると、シースルーになったムーブメントの視界が妨げられてしまうからだ。
ラドーは伝統を重んじ、文字盤の12時位置に小さなアンカーのモチーフを配し、この時計に自動巻きムーブメントが搭載されていることを示している。このモチーフの背後では、ふたつの錘によりテンプが優雅に振動する。また約80時間のパワーリザーブと300mの防水性能が、この時計の実用性を高めている。その実用性をさらに高めているのが、傷に強くアレルギー耐性を持つセラミックスの採用だ。この素材はラドーが先駆者として1980年代に時計業界で初めて採用したものだ。ベゼルとリュウズはローズゴールドのPVDコーティングが施されたステンレススティール製で、ブラックセラミックスと相まってスポーティでエレガントなツートーンの外観を創出している。
ロンジン「ロンジン ヘリテージ クラシック」
ロンジンは時計業界の中でも、レトロなトレンドの先駆者である。1980年代には、1920年代や30年代のパイロットウォッチを復活させて大成功を収めた。そして今日、ロンジンはヘリテージコレクションを味わい深い技術性で維持し続けている。同社のデザイナーたちは昔から時計が売れるために必要とされていたデイト表示をなかなか取り除けずにいた。
しかし、最近のロンジンは時計にデイト表示がなかった1930年代のロンジンのモデルにインスパイアされたいくつかのモデルに見られるように、レトロなデザインに一貫性を持たせている。結果としてこの「ロンジン ヘリテージ クラシック」のように、もし3時位置や6時位置のスモールセコンドにデイトウィンドウが設けられていたら、これほどまでに文字盤は端正なものとならなかったであろう。1930年代にタイムスリップしたかのようなスタイリッシュなデザインとなっている。直径38.5mmのステンレススティール製ケースには、ETAがロンジンに専用として供給するキャリバーA31.501をベースとした自動巻きムーブメントが搭載されてる。これはシリコン製ヒゲゼンマイと約3日間のパワーリザーブを備えたものだ。
ロレックス「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」
「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」はこれまでデイト表示がなく、そのためにロレックスのサイクロプス拡大レンズも備えてはいなかった。しかしクラシックモデルには2021年に変化があり、、数年前まで一般的だった直径39mmのケースを36mmに小型化し、自社製ムーブメントの最新版を搭載した。自動巻きキャリバー3230のパワーリザーブは従来の約48時間から約70時間へと長くなっている。
クロナジーエスケープメントは最適化されたブルー パラクロム・ヘアスプリングを備え、耐磁性を高めている。「EXPLORER」の文字は、文字盤の6時位置から12時位置へと変更されている。ケースサイズは1953年のエドモンド・ヒラリー卿とテンジン・ノルゲイによるエベレスト登頂成功の年に発表された、1953年の初代エクスプローラーのサイズに対応している。ロレックスはこの歴史的探検に参加した登山家たちが着用するための時計を提供したのだった。
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