カシオ「オシアナス マンタ」の新挑戦。蓄積された技術がもたらした"輝き"

FEATUREその他
2021.12.17
PR:CASIO

「オシアナス マンタ」は、素材や仕上げはもちろん、デザインにおいてもひときわ高い水準を具現化した、オシアナスのフラッグシップに位置付けられるコレクションだ。2007年に初作が登場して以降、先進的な性能と流麗なフォルムを融合させたモデルを展開し続けているが、とりわけ独創的なのが、ブランドカラーの“オシアナスブルー”を生かしながら、ダイアルやベゼルで繰り広げられるデザインワークである。2021年はベゼルのクリエイションにおける新たな挑戦をクリアし、最新作「OCW-S6000」はオシアナス マンタの優美なプロポーションをさらに昇華させた。

オシアナス マンタ

三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
竹石祐三:取材・文 Text by Yuzo Takeishi


透き通るブルーを極めたサファイアクリスタルベゼル

「OCW-S6000」は、江戸切子や阿波藍、蒔絵といった伝統工芸を取り入れたモデルを含め、これまでに発表されたどの「オシアナス マンタ」とも異なる表情を見せている。とりわけ印象的なのがベゼルである。まるで深海に吸い込まれていくかのような、透明感を持たせつつも深みのあるブルーを表現し、さらにはサファイアクリスタルベゼルの存在感をより強調したデザインになっているのだ。

ファセットカットを施したサファイアクリスタルベゼルは、斜めのカット面と外周面の稜線を揃えたことでジュエリーのようなデザインに。天面にはレーザーで都市コードを刻印しているが、透明なサファイアクリスタルに刻印するために特殊な技術が用いられている。表記の視認性も確保した。

 これを実現するために重視されたのが、近年のG-SHOCKでも積極的に取り入れられている「CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)」デザインである。商品企画を担当する佐藤貴康氏は「オシアナスはこれまで、IPや蒸着といった着色技術であったり、サファイアクリスタルやセラミックスなどのマテリアルを駆使したりして、ブルーの表現を際立たせるための試行錯誤を重ねてきたが、そのなかでも、サファイアクリスタルと蒸着の組み合わせがオシアナスの世界観を色濃く表現できると判断した」と説明する。いわば“サファイアCMF”とも呼べる独自のアプローチを追求して完成したのが、「OCW-S6000」に備えられた、まったく新しいサファイアクリスタルベゼルだ。

佐藤貴康

「オシアナス」の商品企画を担当する佐藤貴康氏。「OCW-S6000」の企画を進めていくなかで求めたのは、着けやすさだったという。「サファイアクリスタルはジュエリーのような雰囲気がありますが、オシアナスブルーを意識したブルーからブラックへのグラデーションに仕上げて、スポーティーに着けこなしていただくことを意識しました」。

 従来のオシアナス マンタではベゼル素材をチタンでカバーするパネル使いをしていたが、「OCW-S6000」のそれは無垢使い。つまり、サファイアクリスタルが金属などでカバーされていない、剥き出しの状態でセットされている。形状も特徴的で、過去のモデルに見られる多角形ベゼルを踏襲して外周に12面のカットを施すのみならず、外周から天面に向かってさらに12面のテーパードを加えた、合計24面のファセットカットで構成される。つまり、腕時計を正面から見た場合はもちろん、側面から捉えても、サファイアクリスタルが内側から輝いているような表情が楽しめるようになっている。

 もっとも、ベゼルのカッティングは単純なものではない。広く知られているように、サファイアクリスタルは透明感があり上品な輝きを放つ一方で、優れた耐傷性を持つ。にもかかわらず、強い衝撃を与えると割れてしまうという、実に加工難易度の高いマテリアルである。そのためカシオでは「OCW-S6000」の設計にあたってベゼルの試作を重ね、テーパード面の傾斜角を最も割れにくい50°に設定。しかも、外周面とテーパード面それぞれの稜線を厳密に交差させるデザインにしているため、ただでさえ磨くことが困難なサファイアクリスタルに、さらに厄介な研磨工程を加えないと完成し得ない形状になっているのだ。

藤原陽

蒔絵モデルをはじめ、オシアナスのターニングポイントとなるモデルを手掛けてきたチーフデザイナーの藤原陽氏。「OCW-S6000」のデザインにおいては「サファイアクリスタルを使うと、どうしても女性らしいジュエリーの雰囲気が強くなってしまうので、どうやって工業デザイン的なルックスに落とし込むかが課題だった」と振り返る。

 この斬新なデザインを担当したのは藤原陽氏。蒔絵技法を取り入れた「OCW-S5000ME」をはじめ、オシアナスのターニングポイントとなるモデルを数多く手掛けてきたカシオのチーフデザイナーだ。「カッティングを施した無垢のサファイアクリスタルをベゼルに使うと、入射角や反射角でサファイアクリスタルが独特な色彩を放ち、オシアナスにまったく新しい雰囲気が出せるのではないか?」。そう考えた藤原氏はアイデアを実現させるべく、まずはデザインの原案イラストを作成。ただし、サファイアクリスタルを象徴的に使うだけではジュエリーウォッチのような女性的なニュアンスが強くなってしまうと考え、初期段階ではベゼルのファセットカットに合わせて、ケースやブレスレットもフラットな面とエッジを組み合わせたインダストリアルなデザインを目指した。

藤原氏が最初に起こした直筆のデザインイラストと、それを基に試作した最初のプロトタイプ。ベゼルのファセットカットに合わせて、ケースやブレスレットもソリッドなデザインを組み合わせていた。

 だが当初は、いかに詳細なイラストを起こしても、新しい試みのデザインに共感が得られなかったため、藤原氏はメーカーに腕時計の試作を依頼。ファセットカットを施したサファイアクリスタルベゼルをケースと組み合わせたサンプルモデルを提示したことで、その表情の違いは誰の目にも明らかになり、いよいよ製品化に向けて動き出すことになる。

(左)サファイアクリスタルベゼルは、カット面はもちろん、狙いとするブルーからブラックへのグラデーションカラーを具現化するために試行錯誤が繰り返された。
(右)外周と斜面に施された合計24面のファセットカット。すべての稜線がズレると見栄えが悪くなるため、その研磨は厳しいオーダーであるとは認識しながらも、譲れないポイントであったという。

 とはいえ、実際の製品で見られるような深みのあるブルーの色出しは、一筋縄ではいかなかった。透明なサファイアクリスタルに着色する際は、蒸着処理を行うのが一般的だ。しかし、従来モデルで用いられていた蒸着方法では、ベゼルを正面から見たときにはブルーを表現できているものの、側面から見ると無色透明に映ってしまう。開発チームが目指したのは、ブルーからブラックのグラデーション──つまり“紺碧の海”のような表現が、どの角度から見ても感じられるベゼルだ。これを実現すべく、外装開発のチームも巻き込んで新たな蒸着工程を開発。結果、これまでにない複雑な蒸着処理と、さらにベゼルの内周を研磨する厄介な工程を施すことで、ブルーの塊のようなサファイアクリスタルベゼルを作り上げることに成功したのだ。

左(オシアナス カシャロ OCW-P2000)のように、これまではサファイアクリスタルをチタンでカバーするパネル使いだったが、「OCW-S6000」のサファイアクリスタルベゼル(右)は、剥き出しのままセットする新しい表現を採用。24面ものファセットカットを施すことに加え、万が一腕時計が落下しても破損することがないよう、サファイアクリスタル風防には3.1mmもの厚さを与え、厳格な品質基準をクリアしている。また、ここまで厚みを持たせることより、時計を横から見るとサファイアクリスタルが浮いているかのように感じられる効果も狙ったという。


まるで宝石のようなセッティングをかなえたケースデザインとその構造

 ソリッドなフォルムと複雑な輝きを放つサファイアクリスタルベゼルは、数多くのトライ&エラーを繰り返すことでようやく量産化への道筋が見えたものの、これを単純にケースと組み合わせるだけでは、理想とするプロポーションには到達しない。ベゼルの存在感をより引き立たせるためには、当然のことながら、ケースのデザインにも改良を施す必要がある。

ジュエリーセッティングをイメージし、ラグをわずかに迫り上げた立体的なケースデザインを採用。4つのラグがサファイアクリスタルをかしめているようにも見えるが、実際には独自の技術を用いて頑強に固定されているという。一方で、女性的なデザインにならないよう、ベゼルのファセットカットに合わせてケースには直線的なデザインを取り入れ、エッジの効いたプロポーションに仕上げた。

 藤原氏がイメージしたのは、ジュエリーが石座でかしめられている、まさにストーンリングのような構造。そのため、ケースそのものは薄く設計しながらも、ラグ部分のみが迫り上がっている立体的なフォルムとした。とはいえ、実際には4つのラグでサファイアクリスタルをかしめているわけではなく、立体的なラグはあくまでもジュエリーセッティングに着想を得た“デザイン”である。サファイアクリスタルベゼルはカシオ独自の技術によって強固に固定され、厳格な品質基準をもクリアした。

 また、これまでのオシアナス マンタは随所に曲線を取り入れた流麗なフォルムを特徴としていたが、前述のように、「OCW-S6000」はファセットカットのベゼルを生かした直線的なルックスを理想として開発が進められたモデルだ。流麗なケースにエッジの効いたサファイアクリスタルベゼルを組み合わせてもチグハグな印象になってしまうと考えた藤原氏は当初、ブレスレットもソリッドな雰囲気に刷新する大胆なデザインチェンジを試みる。しかしながら社内では「ブレスレットまで変えてしまうと、オシアナス マンタらしさが損なわれる」という意見が出たため、ケースの12時側と6時側は、企画立案当初の直線的デザインをブラッシュアップさせつつ、ブレスレットは従来モデルで使われていた5連デザインを継承。アイコニックな意匠はしっかりと残しつつ、ジュエリーセッティングのイメージを加えた、新しいオシアナス マンタが誕生したのである。