隕石は地球外から大気圏を通過して地球に落ちてきた天体であり、主に石質隕石と鉄隕石とに分けられる。時計の文字盤に一般的に使われるのは鉄隕石であるが、鉄隕石は全隕石のわずか4%しかない。鉄隕石は40億年前の小惑星の核で生まれ、宇宙空間を飛行しながら数百万年かけてゆっくりと冷却され、隕石の内部にニッケル鉄の結晶の形であるウィドマンシュテッテン模様やトムソン構造という独特の模様を作り出した。このような結晶構造は隕石にのみ見られ、地球上には存在しない。隕石から文字盤を作るには、まず石を薄く切り出し、研磨し、最後にその独特な模様がはっきりするよう酸化処理が行われる。今回は隕石を文字盤に採用した腕時計5本を紹介する。
Text by Jens Koch
2021年12月21日掲載記事
オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ 321 プラチナ」
オメガは「スピードマスター グレーサイド オブ ザ ムーン "メテオライト"」でセラミックスウォッチの文字盤に鉄隕石を採用した。そして再び「スピードマスター ムーンウォッチ 321 プラチナ」のクロノグラフダイアルにおいて、月から地球へ落下してきた隕石を使用している。大きな小惑星が月面に衝突すると、月面の岩石が宇宙に弾き出され、地球の方へ飛来することがある。その大きさが大気圏突入でも燃え尽きない大きさだった場合に、地上に落下することになる。この隕石については、アポロ計画で地球へ持ち帰られた岩石のサンプルと比較することによって月由来であることが証明されており、キャリバー321を搭載したムーンウォッチの素材としては完璧だ。それはかつて月へ行ったスピードマスターに搭載されていた歴史的手巻きムーブメントを再構築したものだからである。そのムーブメントはまず1957年にスピードマスターに採用され、のちにアメリカ人として初めて宇宙遊泳を行ったエド・ホワイトや、月面着陸を達成したバズ・オルドリンなど多くの宇宙飛行士と共にあった。ケースはゴールドを含有する特別なプラチナ合金で作られ、エナメル製目盛りを備えたブラックセラミックスベゼルが合わせられている。ベースとなる文字盤はオニキスだ。キャリバー321はサファイアクリスタルケースバックから鑑賞が可能である。
エルメス「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」
「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」には、マザー・オブ・パール製のふたつの月を、非常に希少な火星のメテオライト製の文字盤に組み合わせたモデルがある。この隕石は月の隕石と同じような状況で形成される。まず小惑星が火星に衝突し、その過程で火星表面の岩石が火星の重力圏を越えて宇宙空間へと放出され、その破片の一部が地球に到達するという訳だ。またこれは地球に存在する唯一の他の惑星の物質である。この時計では、時間と日付を示すふたつの文字盤が可動式の中央軸を中心に回転しながらも、垂直方向を保っている。この文字盤はふたつの月を備え、南半球と北半球から見える現在の月齢を反映するようになっている。しかしエルメスは現実世界を逆さまにし、文字盤の12時側に南半球のムーンフェイズを配している。
ピアジェ「アルティプラノ」
ピアジェの「アルティプラノ」から紹介するのは、18Kピンクゴールドのケースとピンクゴールドのプレーティングを施したメテオライトの文字盤を組み合わせたモデルだ。文字盤は鉄隕石をスライスし、ポリッシュ仕上げと、エッチングを施すことによりウィドマンシュテッテン模様をはっきりと浮かび上がらせ、さらにガルバニック処理によって仕上げられている。サファイアクリスタルケースバックからは自社製ムーブメントの鑑賞が可能だ。搭載されるキャリバー1203Pは厚みがわずか3mmと薄いため、時計全体は6.36mmという超薄型を実現している。
ドゥ・ベトゥーン「DB28XP メテオライト」
ドゥ・ベトゥーンの隕石文字盤は、一歩先に進んでいる。ここで採用されている鉄隕石・ムオニオナルスタは、最も古い隕石として知られているうちのひとつであり、100万年以上前にスカンジナビアに落下したものだ。この隕石に酸化処理を施した後、加熱することにより夜空のようなブルーが現われる。そこにユーザーは好みの位置へホワイトゴールド製の星を配置することができるのだ。6時位置にはチタン製のテンプとホワイトゴールドの調整用ウェイトが配されている。自社製手巻きムーブメントのパワーリザーブは約6日間を保持する。熱処理により黒く仕上げられ、一部にシースルー加工が施したユニークな形状のケースは重金属のジルコニウム製である。
ロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」
圧倒的な支持を集めるロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」に、2021年はダイアルにメテオライトを採用した3種類のモデルが追加された。ブラックのセラクロムべセルとホワイトゴールドケースの組み合わせ、そしてイエローゴールドで統一したモデルと、エバーローズゴールドで統一したモデルだ。サブダイアルは視認性向上のため、いずれもブラックのままとなっている。搭載されるムーブメントは自社製自動巻きキャリバー4130だ。全ての個体はロレックス独自のクロノメーター規格に従って製作されており、平均の日差は-2〜+2秒以内に調整されている。
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