チャリティーの後は、投機ゲーム必至!? 7億円超えのパテック フィリップ×ティファニーのダブルネームウォッチについて考える

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

時計関係者なら誰もが「とんでもない高値が付く!」と噂していたパテック フィリップとティファニーのダブルネームの新作時計「ノーチラス」のオークション。その結果は、予想をはるかに超えるものであった。この事態をあなたはどう受け止めるだろうか?

渋谷ヤスヒト:文 Text by Yasuhito Shibuya
(2021年12月18日掲載記事)

2021年12月11日に開催されたフィリップスのニューヨークウォッチオークションに出品されたパテック フィリップとティファニーがパートナーシップ締結170年を記念して製作した「ノーチラス Ref.5711/1A-018」。その詳細と落札結果を伝えるフィリップスのオフィシャルサイト。
https://www.phillips.com/detail/patek-philippe/NY080121/1T


新作で“掟破り”のハンマープライス!

 2021年12月11日(土)にアメリカ・ニューヨークの96階建ての「432パークアベニュー」で開催されたオークションハウス、フィリップス主催のウォッチオークション「The 2021 New York Watch Auction」。

 世界で最も高価と言われるこのビル最上階のペントハウス(推定約187億円)のように、ウワサのあの時計が、予想をはるかに超える驚きの高値で落札された。パテック フィリップがティファニーとのパートナーシップ契約締結170周年を記念して、世界限定170本で製造した「ノーチラス Ref.5711/1A-018」だ。

 その落札価格は、落札予想価格5万ドルの何と約130倍の650万3500ドル(約7億3489万5500円、1ドル=113.4円、2021年12月11日現在)!

 パテック フィリップとティファニーのダブルネームで、しかも今やどの時計よりも投機の対象になっているスポーティーモデル「ノーチラス」。そのうえ文字盤がティファニーの「ティファニーブルー」。さらに今後モデルチェンジが予想される“末期モデル”だとのウワサもあるRef.5711ベース。ケースとブレスレットはもちろん、人気沸騰中のステンレススティール製だ。

 

ダブルネームという物語

 それにしても、正直なところこの落札価格には「モヤモヤした気持ち」にさせられる。正確に申し上げれば、このオークション落札モデルに対してモヤモヤしているのではない。これからアメリカのティファニーブティックで普通に販売される169本の行方について、モヤモヤしているのだ。

 パテック フィリップとティファニー。その“ダブルネーム”のアンティークウォッチが超高価なのは、その稀少性やストーリー性を考えると当然だ。そもそもアンティークウォッチには、ケースやブレスレット、文字盤にキズや凹み、退色など、それぞれの箇所に物語がある。

 アンティーク市場で高額で取引されるダブルネームモデルは、販売された店舗が特定されているうえに、現在まで170年という両社の関係が反映されている分、通常のモデルにはない物語を背景に持っている。その“歴史と物語の奥深さ”に、私たちは特別な魅力を感じるものだ。

 落札されたこのモデルにも、特別な魅力、物語がある。正真正銘のシリアルNo.1のモデルであり、そのうえ今回の収益は全額、ティファニー財団が支援を続ける環境保護団体のネイチャー・コンサーバンシー(TNC)に寄付されるチャリティーモデル。だから、落札価格が高価であればあるほど、それは喜ばしいことだ。

 落札予想価格の約130倍もの落札価格になったということは、落札者が環境保護にそれだけ巨額の寄付を行ってくれたということ。だから、今回の落札価格が高額になったことは素晴らしいし、落札者には心から称賛を贈りたい。