タイプ20規格の流れをくむ、正真のツールウォッチ ジン「103」

2021.12.26

1960年代後半にリリースされたとされるジン「103」は、フランス軍のタイプ20規格をベースにしながらも、ピケレによる防水ケースを与えられた、新世代のパイロットクロノグラフだった。今なお生産される103。その代表作は、ベーシックな103.B.AUTOと、限定版の103.KLASSIK12である。

ジン「103」

(左)103.B
1980年代に製造された第3世代の103.B。末尾「A」がホワイトインダイアル。末尾「B」がオールブラックダイアル。オールドジン研究家であるミケーレ・トリピ曰く、「ケースはオールドストックのジラール・ペルゴ」。カタログには10気圧防水とあるが、裏蓋には4気圧防水と記されている。過渡期ならではのユニークな個体だ。手巻き(Cal.ETA7760)。2万8800振動/時。17石。SS(直径41mm、厚さ13mm)。参考商品。
(右)103.B
おそらく左のモデルより後年に製造された第3世代の103.B。ムーブメントは同じETA7760を搭載。後の103とは異なり、ケースにはリュウズガードがなく、ラグも細身だ。現行モデルに比べて作りは甘いが、それ故にツール感に満ちている。これが日本で正式発売された初の103である。後に大ヒット作となった。手巻き(Cal.ETA7760)。2万8800振動/時。17石。SS(直径38.5mm、厚さ15.5mm)。参考商品。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]


ベーシックな「103.B.AUTO」と創業60周年記念モデル「103.KLASSIK12」

 フランス軍が作り上げた「タイプ20」規格(1952年12月)と、そこに回転ベゼルを加えた「タイプ21」規格(1956年4月)は以降、パイロットクロノグラフに決定的な影響を与えた。

 そのひとつがジンの「103」である。1961年創業の同社は、スイスの時計メーカーがタイプ20に従って製造したクロノグラフを自社銘で販売して成功を収めた。以降もジンはムーブメントを替えながら103を製造し続けている。現在、タイプ20をルーツに持つクロノグラフは多いが、その原型に最も近い、最もツールウォッチに近いクロノグラフが103と言える。それを象徴するのがベーシックな103・Bである。インダイアルの配置は異なるし、ケースサイズも拡大されたが、アルミベゼルと強化アクリル製風防、そしてインダイアルの書体などは往年のタイプ20に最も近いものだ。

ジン「103」

(左)103.KLASSIK12
ジン創立60周年記念モデル。クラシカルな横3つ目のレイアウトに加えて、セラミックス製のインサートを持つ回転ベゼル、ケース内の湿気を吸収するArドライテクノロジーなど独自のジン・テクノロジーを搭載する。いわば洗練されたツールウォッチ。自動巻き(Cal.SW510)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径41mm、厚さ17mm)。20気圧防水。世界限定600本。58万3000円(税込み)。
(右)103.B.AUTO
第3世代の造形を忠実に継承するのが103.B.AUTOだ。ドイツ軍に要求された強化アクリル製の風防に、アルミニウム製のベゼルを持つ。ケースはジンも出資するドイツ・グラスヒュッテのSUG製。ラグを太くしたその造形は、1960年代後半の防水ケース付きに酷似する。自動巻き(Cal.Concepto C99001)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径41mm、厚さ15.5mm)。20気圧防水。35万2000円(税込み)。

 103の構成も昔のパイロットウォッチそのままである。ムーブメントも文字盤も、針もケースも外部のサプライヤー製。そんなジンがパイロットウォッチの世界で名声を得てきた理由は、組み立てと品質管理に優れていたためだ。創業者のヘルムート・ジンが去った後も後継者のローター・シュミットは、IWCで培ったノウハウを投じることで、「組み立て屋」であるジンを、プロに信頼される「ジン特殊時計株式会社」に育て上げた。

 そのジンが2021年に創業60周年を迎えた。記念してリリースされたのが、古典的なトリコンパックスレイアウトを持つ「103.KLASSIK12」だ。

 タイプ20規格に沿ったパイロットクロノグラフが入手できなくなった1970年代後半以降、ジンはレマニア5100を搭載した新しいパイロットクロノグラフを製造するようになった。しかし80年代初頭になると、ETAが自動巻きクロノグラフの7750を再販。新しい汎用ムーブメントを得ることで名機103は復活を遂げたが、文字盤のレイアウトは、かつてとは違うものになった。

ジン「103」

シースルーバック仕様の裏蓋の縁には限定番号のほか「1961-2021」と、60周年を意味する「60 JAHRE」と刻印される。右の写真が示す通り、SUG製のSSケースは、かつての103とは比較にならないほど良質だ。また本作には、アリゲーター風の型押しカウレザーストラップと、60周年記念の布製パッチが付属する。

 対して103.KLASSIK12は、3時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドを持つ、いわゆる横3つ目のトリコンパックスレイアウトとなった。これは60年代から70年代の103にまったく同じだ。ブラック文字盤にアイボリーのサブダイアルという組み合わせも、かつての「103コンパックス」を思わせる。

 とはいえ、これはレトロな復刻版ではない。回転ベゼルのインサートは、アルミではなく傷のつきにくいセラミックス製となり、文字盤の仕上げもマットから磨いたブラックラッカー仕上げに変更された。インデックスや針もペイントではなく、ロジウムメッキ仕上げだ。ツールウォッチの103に、あえてフラッグシップの「フランクフルト・ファイナンシャル・ウォッチ」と同じ仕上げを施したのは前者を高級版とするため。その証拠に、ロゴ下には後者に同じく「FRANKFURTAM MAIN」の文字が加えられた。

 ベーシックな103.Bと装いを新たにした103.KLASSIK12。個性はまったく違うが、共通するのは今もって変わらないツール感だ。厚みのあるケースに信頼性の高い自動巻きクロノグラフムーブメント、20気圧という防水性能に際立った視認性。今でこそ、取っ付きやすくなったが、ジン特殊時計株式会社が作る103とは、そもそもタイプ20の直系、つまりは最もツールウォッチに近いパイロットクロノグラフなのである。



Contact info: ホッタ Tel.03-5148-2174


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