ヨーロッパで活躍する『Quill & Pad』編集長エリザベス・ドーアが認めた、たちどころに気分が高まる2021年発表時計ベスト5

日本だけでなく、世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2021年発表時計からベスト5を選んでもらうこの企画。
ヨーロッパを中心に、時計を含むラグジュアリーの分野で幅広く活躍する『Quill & Pad』編集長のエリザベス・ドーア。欧米の時計業界に顔が利く彼女が認めた時計は、本格的なグランドコンプリケーションから、定番モデルの斬新なバリエーションやヒストリカルピースのレギュラー化モデル、そして、手が届きやすい価格帯ながら、エクスクルーシブな上に、ひとたび手にすれば、たちどころに気分が高まる時計だ。

ジャガー・ルクルト「レベルソ・ハイブリス・メカニカ・キャリバー185」

　ブランド内で最も有名なモデル「レベルソ」の誕生90周年記念に向けて全力を尽くすことを恐れないジャガー・ルクルトは、創造的時計技術を4面に搭載した傑作を市場に送り込んできた。搭載した技術の中には、これまで一度も腕時計に組み込まれたことがないものもある。さらに、グランドコンプリケーションウォッチでありながら、ここまでコンパクトなパッケージに収めることができたのは、4面を持つ時計自体がひとつの複雑時計としてまとまっているためである。「レベルソ・ハイブリス・メカニカ・キャリバー185」のケース厚は15mmをわずかに上回る程度に抑えられており、グランドコンプリケーションとしては極薄と言える仕上がりとなっているのだ。

A.ランゲ&ゾーネ「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」

　時計業界の宝物のひとつに数えられる「ランゲ1」は、希望と再興の双方を象徴する時計であり、発表された1994年当時、そのデザインは衝撃的に受け止められた。その派生モデル「リトル・ランゲ1」の2021年新作はゴールドストーンダイアルを備え、この地球人の想像の枠を超えたアンサンブルを形容する言葉は「天才」をおいて他にはない。最良の視界条件下にあって雲ひとつない夜空に、その技術力が惜しげもなく披露されている印象を与える。

エルメス「H08」

　スポーティーウォッチ製造に関するエルメスの完全な独自解釈と言えるモデル。具体的には、十分なバランス、絶妙なデザイン、機械的健全性を備えているだけでなく、とりわけ価格が適正であり、毎日着用するスポーティーかつカジュアルなタイムピースに仕上がっている。エルメスにとって、素材と感触の面でまったく新しい作品となっており、ついに時計メーカーになったことが証明されたモデルだ。

ゼニス「クロノマスター オリジナル」

　2021年にまず注目されたことは、1969年にゼニスが発表したオリジナルのリファレンスA386がステンレススティールケースのコレクションに仲間入りを果たしたことだ。象徴的だった前作品と同様に、今の次代にマッチし、現代の時計愛好家のテイストにフィットしている様は、現時点で他のメーカーには真似ができない芸当であり、称賛を送りたい。さらに、この直径38mmのタイムピースのラグ上には放射状に広がるサンレイ仕上げが施され、お気に入りの逸品だ。

ルイ・エラール「スマイル デイデイト」

　この表現豊かな腕時計は、極めて限定的なモデルということに加え、圧倒的なまでに魅力的な価格と象徴的なデザイナーのアラン・シルベスタインとのコラボレーションという特徴が加わった結果、まさに今持つべき腕時計へと変身している。3種類あるコラボレーションウォッチのうち、このモデルは、曜日が表示されず、その代わりに陽気なスマイルマークで曜日をシンボル化した「スマイルデイ」機能を持つアラン・シルベスタインの作品（同氏が考案したディティールデザインの中でもベストと言えるひとつ）を参考にしている。このダイアルを見れば、たちどころに気分が高まる。

エリザベス・ドーアのコメント

　実質的に新型コロナウイルス感染拡大2年目となった2021年だが、消費者の腕時計購入行動に急速な変化が生じ、時計業界にも大きな影響を与えている。例えば、2021年において独立系のメーカーやブランドが事業・売り上げの面だけでなく、認知・理解の面でも予想外の成長を果たした。確かに想定外の状況であり、一部の独立系業者はすでに受注済みの1年間分の仕事に対応できるよう、注文の受け付けを止めている。

　また、同様に慎重な姿勢で営業を続け、部品を自社製造していないクリエイティブな中規模メーカーの一部がトップに躍り出る事態となった。これは、多くのブランドを所有している既存のグループには苛立たしい状況であっただろう。さらに限定版が、ブランドや価格帯を問わず、大ブレークを果たした。

　スタイルについては、カラーは流行の基本色で、ヴィテージスタイルが正統派、数年間の推移を経て、ケースサイズは最終的に再び妥当な水準に戻ってきている。

エリザベス・ドーアのプロフィール

Photograph by Guy Lucas

時計とそれに関連したラグジュアリーなテーマを扱うオンラインマガジン『Quill & Pad』の編集長。1991年より時計専門誌の出版に携わりはじめ、『Wristwatch Annual』のシニアエディターを12年間務める。FHH（高級時計財団）の文化委員会に2012〜18年まで参加。また、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの19年の審査員でもある。主な著書に『12 Faces of Time』『Bridging Art and Mechanics: The Unabridged Story of the Corum Golden Bridge』。また『Forbes.com』や『CNN Style』のコントリビューターである。