有名グランメゾンで研鑽を積んだ根本憲一氏が独立。釣り人である強みを存分に活かした生命力漲みなぎる魚料理が、食べ手の感動を生む。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2022年1月号掲載]
筋肉質な対馬産の穴子に、ザク切りにしたマカダミアナッツを纏わせて揚げた食感豊かな魚料理。サラダ仕立てにしたネセロリの上に盛り付け、仕上げにローストしたマカダミアナッツを削りかけると、熱々の穴子からナッツの芳ばしい香りが立ち上る。12月下旬まで提供予定。シンプルながら存在感ある器は、陶芸家の林沙也加氏に依頼したオリジナル。
敬愛溢れる魚に命を吹き込む
南青山の住宅街に佇むフランス料理店「NéMo(ネモ)」。ホワイトオークの扉から続く店内もテーブルの木目を生かしたナチュラルな雰囲気が漂う。オーナーシェフの根本憲一氏の修業先が、日本を代表するグランメゾン「NARISAWA」や「カンテサンス」と知っていたなら、いい意味で予想と異なる穏やかで優しい空気に包まれている。
1984年、東京都生まれ。専門学校卒業後、「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ(現NARISAWA)」を皮切りに「エメ・ヴィベール」「ルカンケ」を経て渡仏。帰国後、「カンテサンス」で5年半にわたり研鑽を積む。2021年6月、南青山に「NéMo」を独立開業。
「堅苦しいのは苦手。家庭の延長線上にあるような気軽さで食事の時間を楽しんでいただきたい」と話す。東京・世田谷で生まれ育った根本氏だが、祖父の影響で幼い頃から釣りに夢中になり、一級船舶の免許を持つほど。根本氏が生み出す料理には、大自然と家族によって育まれた記憶が根底にある。
日々、馴染みの漁師から届くLINEは、船の上で獲れたばかりの魚の写真と「これいる?」のメッセージ。漁師以外の手に触れられていない状態で「NéMo」に直送される。そんなやり取りによって食材が集まるレストランは稀有だろう。取材中にも下田から艶やかな12㎏の天然のカンパチが届いた。根本氏によって調理されるこの魚を口にできるゲストはなんて幸福なことだろうと嫉妬さえ覚えてしまう。
10皿で構成されるおまかせのディナーコースは、肉料理やデザートなどの4皿以外すべてに魚を使用する。根本氏曰く「本物の姿を知っているから、魚に申し訳ないことはしたくありません」。釣りを通じて海で泳ぐ魚の様子や本来の風味を熟知しているからこそ、魚の生命力や魅力を最大限引き出した料理が完成する。潔く、大胆かつ緻密だ。出来立ての最適な温度で食べ手に届けることをモットーとしており、そのための動線を徹底している。個室は厨房と扉一枚隔てているだけの距離だ。
店名「NéMo」は、根本氏の名を冠していることに加え、フランス語で「生まれる」「生み出す」といった意味を持つ「Né」に由来。根本氏の腕に掛かり、まるで新たな命を吹き込まれたような料理の数々は、これから先、多くの人々を魅了するに違いない。
NéMo
東京都港区南青山6-15-4 B1 Tel.03-5962-6085
月曜定休(祝日の場合は翌火曜休み)
12:00~15:30( LO13:00)、
18:00~23:00( LO20:00)
おまかせコース 昼7150円、
夜1万6500円(サービス料10%別)
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