時計情報サイト「Deployant」共同創業者兼編集主幹のピーター・チョンが、目覚ましい新作から選出した2021年発表時計ベスト5

日本をはじめ、世界の時計業界で活躍する著名なジャーナリストたちに、2021年発表時計からベスト5を選んでもらうこの企画。

　シンガポールを拠点として活動する、時計情報サイト「Deployant」共同創業者兼編集主幹のピーター・チョンが、時計業界にとってはエキサイティングで目覚ましい年となった2021年に発表された時計から選出したベスト5を紹介する。

ブライトリング「プルミエ B25 ダトラ 42」

　ブライトリングの「プレミエ」ファミリーに加わった素敵な新顔は、新しいクロノグラフのシリーズである。その中から筆者が選ぶのは「プルミエ B25 ダトラ 42」で、日付・曜日・月表示というトリプルカレンダーに加え、クラシックなムーンフェイズ表示も装備するクロノグラフだ。カッパーのダイアルを合わせた素晴らしい時計は、コラムホイール式の自動巻きクロノグラフムーブメントCal.B25を搭載する。

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ１・パーペチュアルカレンダー」

　2012年にA.ランゲ&ゾーネが革新的なパーペチュアルカレンダーを「ランゲ1」ファミリーに新たに加えた際は、トゥールビヨン機構を搭載していた。2021年版ではトゥールビヨン機構を外したことで、デイマティックのベースムーブメントがトランスパレントバックから、その輝きを放っている。ダイアルのレイアウトはすっきりとクリアで、非常に読みやすくなっている。欠くことのできない月表示は、ダイアル外周のリング上に配し、6時位置の小窓が月を示すと同時に、うるう年を表示する。搭載されるムーブメントCal.L021.3の仕上げは素晴らしいのひと言。とはいえ、これはA.ランゲ&ゾーネの標準である。筆者が選ぶのは、ホワイトゴールドのケースにローズゴールド無垢のダイアルを合わせた限定エディションだ。

ショパール「L.U.C クアトロ スピリット 25」

　ショパール初のジャンピングアワー機構を搭載。四重香箱を備えたクアトロムーブメントをベースに、瞬時に時間が切り替わるジャンピングアワーを実現。ダイアルは自社製の純白のグランフー（高温焼成）エナメル。ジャンピングアワーの小窓を6時の位置に置き、ダイアルの大部分を余白にしたクラシックなデザインが特に好みである。ジュネーブ・シールの認定を取得し、ムーブメントの仕上げも見事。完璧に近い直径40mmの18Kエシカルローズゴールド製のケースに収められている。

シチズン「ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200」

　シチズンの新たな標準モデル。1995年にデビューし、同ブランドで最もハイエンドな「ザ・シチズン」のメカニカルモデルであり、時計の本質を追い求めるシチズンの最高表現の理想形を表すモデルである。ザ・シチズンはデビュー以来、高精度のクォーツムーブメントを主に使用してきたが、2021年は新たな機械式ムーブメントを発表。同社が機械式ムーブメントを採用するのは2010年以来のことで、スイスにある子会社ラ・ジュー・ペレとのコラボレーションにより実現した。

　極めて均整の取れたルックスであり、ヴィンテージ感に加え、コレクターの注目を捉えて離さないディテールを備えている。質感とニュアンスにあふれた華麗なダイアル。優美な仕上げ。シチズンは、この時計をもって「オートオルロジュリー」（高級時計）の世界へ参入する意向を発表しており、グランドセイコーやスイスのメゾンと同じ市場を追いかけることになる。

ヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・スプリットセコンド・クロノグラフ・エクストラフラット コレクション・エクセレンス・プラチナ」

　ヴァシュロン・コンスタンタンの「トラディショナル・スプリットセコンド・クロノグラフ・エクストラフラット コレクション・エクセレンス・プラチナ」にはすべてが揃っている。エレガントで豪勢、高級、そしてもちろん創意工夫にあふれたこの時計は、ラグジュアリーと高級ウォッチメイキングの典型である。実に「ハーモニー・クロノグラフ・グランド・コンプリケーション・エクストラフラット」で2015年に初めてお披露目された卓越したCal.3500が、別のモデルの形で生まれ変わったのを見てほっとする思いだ。無期限でお蔵入りにされていたとしたら非常に遺憾なことであるから。

ピーター・チョンのコメント

　2021年は、世界規模のコロナ禍による旅行制限に悩まされ、勢いのない年であったにもかかわらず、時計製造業界にとってはむしろ目覚ましい年となった。この2年間、実際の会場で開催された国際展示会はなく、「ウォッチズ&ワンダーズ」は2020年、2021年ともにオンラインイベントに縮小された。さらに「バーゼルワールド」は中止が発表され、「ウォッチズ&ワンダーズ」にはロレックスやパテック フィリップ、ショパールといった大手が加わり、再出発することになった。また、セイコーやシチズン、カシオといった日本企業もバーゼルワールドを撤退し、日本で国内向けのみの展示会を開催した。2022年については大規模展示会の見通しは明るく、「ウォッチズ&ワンダーズ」はリアルでのイベントを予定しており、3月末には日本のグランドセイコーも含めた大手企業が軒並み集結する予定だ。

　伝統的なブランド、たとえばパテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ロレックスなどは、その地位を強固なものにしており、順番待ちリストはこれまで以上に長くなっている。市場の地合いが非常に強いため、従来はロレックスの廉価な代替品とみられていたチューダーのような中級ブランドも売り上げを大きく伸ばしており、順番待ちリストができているほどだ。需要はグランメゾンにも波及しており、例えばヴァシュロン・コンスタンタンなどは、そのステータスを正当に認められるようになってきた。「オーヴァーシーズ」コレクションなどのモデルは現在、順番待ちリストに登録しないと購入できない状態だ。

　独立系のブランドでは、Akriva/Rexhep Rexhepi、カリ・ヴティライネン、グロネフェルド、ピーターマン・ベダ、F.P.ジュルヌなども注文が増えており、出荷が2022～2023年にまで延びている状況だ。さらに、日本のKurono by Hajime Asaokaや、ルイ・エラールとアラン・シルベスタインとの革新的なパートナシップ、そしてヴィアネイ・ハルター、Guilloche Main、アトリエ・オイといった価値重視型の製造者に対する支持も高まっている。これらの中級ブランドによる2021年の新発表製品に対する関心は非常に高く、限定エディションなどは発表から数日後にはコレクションが完売するほどだ。二次流通オークション市場さえも取引が急増しており、年間を通して売上記録の樹立が続いたのも記憶に新しい。

ピーター・チョンのプロフィール

時計情報サイト「Deployant」の共同創業者兼編集主幹。A.ランゲ&ゾーネの世界的なコレクターとしても名を馳せる。主著に『The Pour le Mérite Collection』など。