日本をはじめ、世界の時計業界で活躍する著名なジャーナリストたちに、2021年発表時計からベスト5を選んでもらうこの企画。
シンガポールを拠点とし、アジアだけでなく欧米でもその名を知られ、独自の視点からの時計評でネットの世界でも影響力を持つ時計ジャーナリスト、SJX(スー・ジャーシャン)が、すべての価格帯で粒ぞろいの2021年発表時計の中から、彼一流の審美眼で選び抜いたベスト5を紹介しよう。
チューダー「ペラゴス FXD」
フランス海軍のエリートコンバットダイバーユニットと共同で開発されたFXDは、当然のことながら、飾り気のない極めて機能的な腕時計だ。それは、軍事的な起源を持ちながら、チューダーが得意とするすべての本質、つまりシンプルさ、ハイスペックなムーブメント、そして頑丈さを兼ね備えている。実際に存在している軍用タイムピースで恐らく唯一の機械式時計である。
自動巻き(Cal.MT5602)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.75mm)。200m防水。44万3300円(税込み)。(問)日本ロレックス/チューダー Tel.0120-929-570
パテック フィリップ「カラトラバ 6119R」
それ自体は注目に値する腕時計には見えないかもしれないが、カラトラバ Ref.6119はシンプルでありながら洗練された構造を持つ、大きくて薄いムーブメントCal.30-255 PSを搭載した最初の腕時計である。ダブルバレルを持ちながらも薄型化をかなえたムーブメントに施された仕上げは、より完成度を高めた。パテック フィリップは、かつてはエントリークラスの手巻き腕時計の競争において不利であったが、このRef.6119により再びリードすることができた。
手巻き(Cal.30-255 PS)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ8.1mm)。30m防水。339万9000円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
クドケ「クドケ2 ゾディアック」
「クドケ2 ゾディアック」は、筆者がクドケとともに開発したプロジェクトだったので、先入観があるとは思うが、この価格帯での独立系ウォッチメイキングの最良の例のひとつであると心から信じている。文字盤とムーブメントのいずれにも手作業で象徴的に彫金されているゾディアック(黄道十二宮図)は、典型的なクドケの腕時計とはまったく異なり、12時位置の昼夜表示と「インフィニティ」針と併せて、特徴的な独特の外観を表現しつつも、ブランドの本質はきちんと押さえている。
自動巻き(Cal.KALIBER 1)。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。18KRG×Tiケース(直径39mm、厚さ10.7mm)。50m防水。世界限定21本。1万9500USドル。完売。(問)シェルマン銀座店 Tel.03-5568-1234
F.P.ジュルヌ「FFC ブルー」
間違いなく今年の最も独創的な腕時計のひとつである「FFC ブルー」は、非常にシンプルな方法で時間を伝える。わずか5本の指だが、スリムなケースに収めながら、この指で時間を示すオートマトンを実現するには非常に複雑なメカニズムを必要とする。それはブランド創始者のフランソワ-ポール・ジュルヌが、私たちの時代の偉大なウォッチメーカーのひとりである理由をまさに説明している。2021年開催の「オンリーウォッチ」オークションに出品されたこのユニークピースは手が届かないモデルだが、最終的にレギュラーモデルとして発売される福音を待ちたい。
自動巻き(Cal.FFC 1300.3)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約120時間。タンタルケース(直径42mm、厚さ10.7mm)。30m防水。ユニークピース。(問)F.P.ジュルヌ東京ブティック Tel.03-5468-0931
シチズン「ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200」
シチズンは、ハイエンドの機械式ウォッチメイキングに関して、日本のライバルほどの成果をこれまで上げてこなかったが、キャリバー0200により“光の速さ”で肩を並べた。この時計は、内側も外側も印象的なレベルの仕上げを誇り、ケースとブレスレットも優れており、その価格を考えると特に注目に値する。このモデルが、シチズンが機械式ムーブメントで何ができるかを示しているのであれば、確かにシチズンは注目すべきブランドである。
自動巻き(Cal.0200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.9mm)。50m防水。60万5000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
SJXのコメント
恐らく、各時計メーカーやブランドが、高級時計の著しい需要の伸びを予想しなかったので、2021年に発表された新作時計に特に目立ったものはなかった。これらの時計は、我々が今経験している前例のないブームというよりも、厳しい時代に対応した時計のように思われる。
新しい時計の開発には数年かかる――ほとんどの時計で通常2~4年かかる。そのため、2023年には、時計業界の好調を反映する新作時計がさらに増えるだろう。
2021年の注目すべき時計の数は少なかったものの、ほぼすべての価格帯で優れた時計が発売された。だが今回、筆者がセレクトした注目に値する5モデルに挙げられていない優れた時計も存在する。その価格帯の一番下にあるのはティソの「ティソ PRX オートマティック」だ。これは、見た目が良く、低価格で安定した品質を備えている。そしてその対極には、ムーブメントとはまったく異なる平面で動作する独創的な新しい時刻表示メカニズムを誇る時計、ウルヴェルクの「UR-112 Aggregat」がある。
SJXのプロフィール
SJXことスー・ジャーシャンは、watchesbysjx.comの創設者。1985年生まれ。12歳で時計に興味を持ち、ウェブサイトなどに寄稿。現在最も影響力のある時計ジャーナリストのひとりである。
https://www.webchronos.net/news/68588/
https://www.webchronos.net/news/63687/
https://www.webchronos.net/news/60944/