LEDによるデジタル表示で、自身のコンセプトを発信し続けるのが、現代美術家の宮島達男だ。「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」という3つのコンセプトで創作を続ける彼は、今回、その題材にブルガリの「オクト フィニッシモ」を選んだ。しかし、なぜデジタル表現で知られるアーティストが、アナログウォッチに向かい合ったのだろうか? ブルガリ「オクト フィニッシモ 宮島達男 日本限定モデル」を通じて、宮島達男が伝えたかったことを語る。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
1957年、東京生まれ。現代美術家。1986年に東京藝術大学大学院修了後、88年のヴェネツィア・ビエンナーレの若手作家部門「アペルト88」で展示した「Sea of Time」で注目を集める。1から9までの数字が変化するLEDのデジタルカウンターで知られる彼は、あえて「0(ゼロ)」は表示させずにLEDを暗転させることで、生と死の繰り返しを表現している。代表作に「30万年の時計」(1987年)、「メガ・デス」(1999年)などがある。近年は、東日本大震災犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、社会的な参加型プロジェクトにも力を入れている。
「命の永遠性」をアナログウォッチの文字盤に表現
広田雅将(以下H):そもそもブルガリとのコラボレーションは、どういうきっかけで始まったんでしょうか?
宮島達男(以下M):今回の話はブルカリからいただきました。ブルガリは、私も親しいアニッシュ・カプーアといったアーティストとコラボレーションを組むなど、アートに造詣の深いブランドですね。だから私が考えているコンセプトを理解してくれるのではないか、と思ったのです。じゃあやってみようと。
H:宮島さんは1987年の「30万年の時計」以来、デジタルで表現をしてこられました。しかし、今回はアナログ時計であるブルガリ「オクト フィニッシモ」を題材に用いました。宮島さんの経歴を思うと、ありえないですよね?
M:3.11の東日本大震災以降、僕は不確実性の世界、コントロールできない世界があるということを身につまされたんですね。以前から作品に不確実性を取り入れてきたけれど、最近は前面に打ち出すようになりました。先日、銀座で行ったイベントもアナログですね。人間の手でデジタル表示を変えていく。これは完全にアナログなんですね。
H:デジタル数字を人の手で変えていく展示「Keep Changing」ですね?
M:そう。人の手で変えていくというのは究極のアナログでしょう? そういう中でブルガリからの話があったんですね。僕は時計というよりも、大きな意味での「命の時間」を考えてきたんです。ウォッチではなく、もっともっと大きな、人間の命のような、過去から未来につながる枠組みでの時間を考えていたんですね。でも、ウォッチというのは、人間の日々の生活に寄り添った存在でしょう。その時計で1分1分、自分の生を刻み付けていく。アナログな時計は、僕が思ってきた「命の永遠性」とつながりを持てると思ったのです。それで今回のアナログウォッチとのコラボレーションをやってみようと。
文字盤の中心に7セグメントのデジタル表示を置いたコンセプチュアルなモデル。数字は見る角度によって、「1」にも「2」にも見える。自動巻き(Cal.BVL138)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径40mm、厚さ5.00mm)。30m防水。日本限定120本。202万4000円(税込み)。
「オクト」と「8」の多様な解釈
H:宮島さんとのコラボレーションと聞いて、僕はインデックスにデジタル数字をはめ込んだものを想像していたのです。しかし、この時計は、文字盤の真ん中に「8」の数字を入れたものになっていた。
M:「オクト」とは八角形を意味していますよね。僕が作品で使うデジタル数字もすべて「8」がベースなんです。「8」という数字は、すべてをそこに含めているんです。オクトのコンセプトと僕が使っている「8」はコンセプトとしてパチッと合うと思ったんです。そこで「8」の字を文字盤にぶつけた。
H:確かにオクトと「8」の数字は合いますね。
M:自動巻きのモデルは、見る角度によって数字の読み取り方が変わるんですね。見る人によって、また光の反射によって、そこから「1」を読み取る、あるいは「2」を読み取る人もいるでしょう。時計が時を刻む姿を通して、時間のいろんな無限性や命の無限に思いを馳せてほしいなと。他方のミニッツリピーターは直接ムーブメントが見えるようになっています。「8」の字を通して、つまり時間というものを通して、ウォッチそのものを見るという二重構造になっているんです。時計を通して、自分の中に無限を感じてほしい、宇宙を感じてほしいんです。
H:文字盤の真ん中にデジタルの数字を持ってきて、解釈を人に委ねるという着想にはいつ至ったんですか?
M:ブルガリには3種類か4種類、アイデアを出したんですよ。ただコラボレーションを組む場合、相手には用途や役割がちゃんとあるんですね。それを発揮したうえでのデザインになる。先に提出した3つは、時計としての役割を十全に発揮できない、ということで却下になった。しかし、今回のデザインは、なんとかいけるということで、僕とブルガリの合致点になった。時計って、微細な世界を手で作っていくものですよね。だから、ちょっとしたデザインの違いがムーブメントに影響する。時計として動かなきゃいけないし、リピーターは音も出さなきゃいけない。いろんな要素が絡み合うわけです。そこで、デザインを担当したファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニと進めました。彼は任せろといいましたね。じゃあ僕は、コンセプトを打ち出して、彼にお任せすると。