ヴァシュロン・コンスタンタンの「パトリモニー」と「トラディショナル」は、それぞれ似て非なるコレクションだ。歴史や特徴を知れば、両者の違いはもちろんのこと、パトリモニーの魅力を理解できるだろう。パトリモニーがたどってきた歴史やその魅力、注目モデルを紹介していく。
パトリモニーの歴史と変遷
ヴァシュロン・コンスタンタンの「パトリモニー」について理解を深めるために、まずはコレクションの歴史に触れておこう。現在は別のコレクションである「トラディショナル」との違いも、押さえておきたいポイントだ。
2004年 パトリモニーの始まり
パトリモニーは、ヴァシュロン・コンスタンタンが2004年に発表した、比較的新しいコレクションで、クラシカルかつシンプルな意匠が特徴だ。
パトリモニーのデザインは、1950年代にヴァシュロン・コンスタンタンが製造していた作品を現代的に解釈し直したものだ。
分針やインデックスなどのディティールが、ブランドのアイデンティティとして受け継がれている一方で、絞ったラグに細身のストラップを合わせるなど、随所に取り入れられた現代的な要素も特徴である。
クラシックとモダンが共存するデザインは、パトリモニーにおける魅力のひとつといえるだろう。
2007年 トラディショナルの誕生
ヴァシュロン・コンスタンタンの正統派クラシックラインであるパトリモニーは、多くのシリーズを誕生させている。そのひとつが、2007年にパトリモニーの派生モデルとして登場したトラディショナルだ。
トラディショナルは1930~50年代のモデルにオマージュを捧げた時計である。パトリモニーに比べて伝統的な要素をより多く取り込んでいる点を特徴としている。
夜光塗料を使用しないドーフィン針や、かつての懐中時計に採用されていたレールウェイサークルは、まさに古典の再現ともいうべきディテールである。
2014年 それぞれが独立したコレクションに
トラディショナルは2007年の誕生以降、「パトリモニー・トラディショナル」としてパトリモニーのカテゴリー内に位置付けられていたが、2014年に独立したコレクションとなった。
両者ともにブランドを代表するドレスウォッチではあるが、古典を再解釈しつつ現代的な要素も取り入れたコレクションがパトリモニー、クラシカルな要素を強めたコレクションがトラディショナルという違いを明確に示した形である。
トラディショナルは現在、単独のコレクションとして多彩なモデルを生み出している。特に、複雑機構を搭載したモデルが有名だ。
パトリモニーが愛好家に支持される理由
時計愛好家はパトリモニーのどのような点に魅力を感じているのだろうか。パトリモニーが支持される理由に迫る。
エレガンスとミニマリズムを究めたデザイン
パトリモニーが支持される理由のひとつに、エレガンスとミニマリズムを追求したデザインが挙げられる。正統派ドレスウォッチらしい、上品かつシンプルなたたずまいが魅力だ。
整えられたラインと緩やかなカーブのバランスは見事で、パトリモニーの気品高い美しさを表現している。スリムなケースは1950年代のモデルから着想を得たデザインである。
一切の無駄を省略したミニマリズムは、2針や3針のクラシカルなスタイルや、シンプルな文字盤、インデックスに見てとれる。伝統とモダンが調和した、名門らしいコレクションだ。
メゾンの象徴「マルタ十字」の強調
ヴァシュロン・コンスタンタンの時計には、シンボルマークであるマルタ十字のロゴが使われている。かつての時計に取り付けられていたムーブメント部品と形が似ていることから採用されたモチーフだ。
4つのくさび形を四方に向けて組み合わせたマルタ十字は、ダイアルの12時位置に配されるのが基本である。モデルによってはラグやリュウズにも用いられている。
マルタ十字をより強調している点も、パトリモニーの大きな特徴だ。12、3、6、9時位置のインデックスがくさび形になっており、文字盤全体でロゴへのオマージュが体現されている。