IWCの「ポルトギーゼ」はムーブメントに注目するのもおすすめだ。ムーブメントの性能の違いを知れば、納得できる1本を選べるだろう。搭載されるムーブメントの種類やおすすめモデルを紹介する。
ポルトギーゼにおけるムーブメントの変遷
IWCの時計の中で最も長い歴史を持つ「ポルトギーゼ」は、現在もブランドを支えるフラッグシップとして愛好家からの人気を集めている。ポルトギーゼのムーブメントがどのような変遷をたどってきたのかを見ていこう。
以前はETAベースのムーブメントを使用
1939年に誕生したポルトギーゼは、1998年発表のクロノグラフモデルで 一躍、世界から注目を集めることになる。当時はムーブメントにCal.79240またはCal.79350が搭載されていた。
Cal.79350は、ETA(エタ)社のムーブメントETA7750にIWCオリジナルのカスタマイズを加えたものだ。
ETA社製のムーブメントは汎用ムーブメントのひとつであり、スイスの高級時計メーカーの多くが自社の時計へ汎用ムーブメントを組み込んできた。
ムーブメント専用メーカーが作る汎用ムーブメントは、 確かな性能やコストの低さが魅力である。IWCはポルトギーゼだけでなく、「アクアタイマー」や「ポートフィノ」にもCal.79350を採用していた。
自社製ムーブメント搭載モデルへの変更
2002年、ETAはスウォッチグループ以外のメーカーへのムーブメント供給を、2020年以降に停止すると発表した。IWCも供給の対象外となるため、自社製ムーブメントへの切り替えを余儀なくされる。
2019年末に発表されたIWCのクロノグラフには、初の量産型自社製ムーブメントCal.69355が搭載された。IWCの完全なる自社製クロノグラフモデルが誕生したことになる。
メーカーが独自で開発する自社製ムーブメントは、手間やコストがかかる一方で、こだわりを反映させられるメリットがある。全てのラインナップに自社製ムーブメントを搭載しているブランドはごくわずかだ。
ポルトギーゼの自社製ムーブメント3選
IWCはこれまでに5系統の自社製ムーブメントを開発している。特に注目すべき3つのムーブメントを押さえておこう。
高い精度を誇る「Cal.89361」
IWC初の自社製クロノグラフムーブメントは、2007年に発表された89000系統初のムーブメント、Cal.89360である。89000系統は他にもいくつかの種類が展開され、さまざまなモデルに搭載されている。
中でもパフォーマンスの高さで知られるのがCal.89361だ。クロノグラフ機構のスペースを広めに設けており、フライバックを多用しても不具合が生じにくい特徴を持つ。
約68時間ものパワーリザーブや、日差の幅が極めて狭い精度の高さが強みといえるだろう。クロノグラフ作動時も誤差を最小限に抑えられる。
ポルトギーゼの新定番「Cal.69355」
IWCの89000系統は優れたクロノグラフムーブメントだが、製造コストが高いため時計も割高になってしまう点がデメリットであった。
この点を考慮し、より戦略的な価格での提供に成功したのが、Cal.69355に代表される69000系統である。
パワーリザーブを短くしたりフライバックをなくしたりと、89000系統をスペックダウンさせることで価格を抑えている。基本性能のみを残して量産性を高めたのだ。
新たにCal.69355を搭載した「ポルトギーゼ・クロノグラフ」の記念モデルには、従来型にはないトランスパレントバックが採用されている。機械好きにはたまらない仕様に変更されたといえるだろう。
複雑機構を動かすパワー「Cal.52850」
「ポルトギーゼ・アニュアル・カレンダー」に搭載されているムーブメントがCal.52850だ。複雑機構を約7日間動作させられる、優れたパワーを特徴としている。
従来のシングルバレルからツインバレルへの変更や、セラミックパーツを採用して部品の摩耗を抑えることで安定したロングパワーリザーブを実現している。
Cal.52850以外の52000系統ムーブメントも、複数のモデルで複雑機構を動かしている。デザインにも配慮したムーブメントの姿を裏蓋から確認できる点もこの系統の魅力だ。