著名オークショニアの興味を引いた、3つのプライベートコレクションを紹介

2021.12.29

世界で行われる時計オークションの情報をお届けするwebChronosの連載記事「グローバルウォッチマーケットからの最新ニュース」。
今回は、老舗オークションハウス「ボナムズ香港」の時計部門国際ディレクターを務めるティム・ボーン氏の興味を引いた、素晴らしいプライベートコレクションの3例を紹介する。

ティム・ボーン(ボナムズ香港):文
Text by Tim Bourne(Bonhams Hong Kong)
2021年12月29日掲載記事

ティム・ボーン

ティム・ボーン[ボナムズ香港 時計部門国際ディレクター]
20年以上の経歴を持つ高級時計の専門家であり、ボナムズ香港を拠点に活動する時計の国際ディレクター。世界最古のオークションハウス「サザビーズ」が拠点を置くロンドンと香港における時計部門の国際責任者と、クリスティーズ時計部門の国際共同責任者として活躍した後、ボナムズに加わった。


オーナーの個性を表す魅惑のコレクション

 時計の魅力とその引き付ける力は、香港で開催されたボナムズオークションで見事なまでに明らかになった。現在、世界中で開催されている時計オークションのほとんどは、セールスカタログに著名ブランドの人気モデルを掲載しているものの、その内容は非常に似通っていることがあり、むしろ二次元的であると言えるかもしれない。しかしその一方で、時計の魅力や歴史、そして時計コレクターの好みの傾向は、それぞれの地域や文化によって異なるということが見落とされているのではないだろうか。

 今回紹介するのは、コレクターの気質と個性を象徴するような、3つのプライベートコレクションだ。

 

ニトン ジュネーブ

 ひとつ目は、日本の情熱的なウォッチメーカーによって形成され、進化し、丹念にまとめ上げられた驚くべきもの。18本の時計で構成されるこのコレクションは、「ジャンプアワー」に特化したもので、そのほとんどが1930年代のアール・デコの時代に作られたヴィンテージモデルだ。

二トン ジュネーブ

「ニトン ジュネーブ」:Ref.10521、ジャンピングアワー搭載。純度が高く、レアな18Kホワイトゴールド製のデジタルジャンプアワー腕時計、1930年頃に製造。販売価格:8万9250香港ドル

 どのモデルも針がなく、文字盤に空けられた開口部から時刻を示すようになっている。この独創的な機能は、1883年にヨゼフ・パルウェーバーによって初めて開発され、時を告げる技術の発展と歴史において重要な役割を担っている。現在の所有者は数十年にわたって作品を収集し、これらの腕時計に要求される複雑な機構に対し、情熱を明確に示すコレクションを形成してきた。それぞれの時計は製作したウォッチメーカーの愛情だけでなく、これらの時計製作法において希少な“宝物”を探し当てるコレクターの感情を示しており、その魅力と計り知れない個性、そして何にもまして並外れた人格がにじみ出ている。

 

ウブロ「クラシックフュージョン トゥールビヨン "Haute Joaillerie"」

 さて、ふたつめのコレクションは先ほどとはまったく異なる印象だが、それでも最も興味深いものだ。短い期間で形成されたコレクションだが、18個の時計は熟考に熟考を重ねたオーナーの並外れた華やかさを表している。このコレクションにはヴァン デル ボーヴェデや、ジェイコブ、ウブロなど、世界の時計オークションに出品されることが少ないブランドが多く含まれており、ムーブメントの技術的特性ではなく、ケースや文字盤の芸術性とデザイン的要素をアピールするものである。

ダイヤモンド コレクション

(左)ウブロ「クラシックフュージョン トゥールビヨン "Haute Joaillerie"」:Ref.505.Wx.9000.Lr。非常にレアな限定版18Kホワイトゴールドとバゲットカットダイヤモンドをセットしたスケルトンのトゥールビヨン搭載モデル。2015年に製造。販売価格:112万7500香港ドル
(右)ジェイコブ「ブリリアントミステリー」:Ref.210.556.3。非常に希少なモデルで、印象的な18Kホワイトゴールドとパヴェダイヤモンドをセットしたミステリー表示の腕時計。2010年頃に製造。販売価格:35万2500香港ドル。

 すべての時計は、ダイヤモンドや宝石がセッティングされた、派手でカラフルな文字盤を備えている。社交的で目立つのが大好きなパーティー好きの人らしい個性をよく表している。このコレクションの主役は、ウブロの驚異的なバゲットカットダイヤモンドのスケルトントゥールビヨン搭載モデルで、世界で8本しか作られていないうちの1本だ。

 

パテック・フィリップ「アニュアルカレンダークロノグラフ」

 時計の来歴を語る際、「ロイヤルコレクション」よりほどふさわしいものはないだろう。

 3つ目のコレクションはその典型で、購入されて新しい宮殿のような邸宅に持ち込まれてから完璧なまでに手入れされており、32本にも及ぶ素晴らしい時計で構成されている。主にパテック・フィリップとロレックスといった高級時計が中心で、ほとんどの時計には、購入時の包装がなされた状態である。誰も触れておらず、誰にも着用されていないこれらの時計は、オークションに出品されると非常に大きな需要があるだろう。

ロイヤル コレクション

(左)パテック・フィリップ「アニュアルカレンダークロノグラフ」:Ref.5961p 001。純度の高いプラチナケースとバゲットダイヤモンドをセットした、ブルー文字盤のアニュアルカレンダー搭載クロノグラフモデル。2010年頃に製造。販売価格:94万香港ドル
(右)ショパール「サファイアインペリアーレ」:Ref.4239。ダイヤモンドを散りばめた18Kホワイトゴールドケース、マザーオブパールの文字盤、グラデーションカラーのサファイアをベゼルにセットしたモデル。2015年頃に製造。販売価格:29万6250香港ドル

 コレクターは、常に完璧な個人所有の証明書が付属する時計を探していて、それはコレクターが自分の時計を可能な限り最高の状態で維持するために、細心の注意を払っていることを表しているからだ。また、すべての時計がオリジナルの箱と証明書付きであることは、将来の入札者と所有者のための特別な要素になる。このコレクションで特筆すべきは、ハイジュエラーでありウォッチメーカーでもあるショパールの素晴らしい作品の数々だ。これらの特別なモデルは、優れた自動巻きムーブメントの機械的要素と、最高品質のダイヤモンドやサファイアをケースにあしらった「ハテ・ジョアリ」の魅力が融合していることを表している。

 時計オークションを開催する際に重要なことは、必ずしも金銭的な報酬ではなく、魅惑的でアートのようなウォッチメイキングに情熱を持つ世界中のコレクターにアプローチすることである。懐の大きさに関係なく、“オロロジー”と”ウォッチメイキング”というひとつの共通言語で会話することで文化的な言葉の壁を取り払い、コミュニケーションをとることができるのは素晴らしいことだ。


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