2021年11月のDr.クロットオークションに出品されたモリッツ・グロスマン銘のクロノスコープ。現存する懐中時計の中でも、極めて珍しい個体だ。日本に上陸した実機から、詳細を探ってみたい。
1880年代に製造されたモリッツ・グロスマン銘の懐中クロノグラフ。ベースはサボネットスタイルのスモールセコンド輪列を持ち、ワンプッシュ式の積算機構を介してセンターの秒積算針を駆動する。手巻き。22石。1万8000振動/ 時。18KYG(直径50mm)。参考商品。
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年3月号掲載記事]
希少なグロスマン銘の懐中クロノスコープ
現存するカール・モリッツ・グロスマン銘の懐中時計は決して多くない。グラスヒュッテのミュージアムにはミニッツリピーターなどの複雑時計も収蔵されているが、残されている多くは通常の3針時計や大型脱進機模型、精密な測定機器などが主だろう。そうした中で、グロスマン銘の懐中クロノスコープ(=クロノグラフ)は極めて希少な存在だ。
今回日本に持ち込まれたクロノスコープ No.3928は、オークション資料によれば1880年代の製造とされており、グロスマンがライプチヒ遊説中の85年に急逝する直前の作品ということになる。
グロスマン銘の懐中時計としては珍しく12時位置にリュウズを持つが、ベースムーブメント自体は当時のグラスヒュッテで広く設計が共有されていたサボネット式のスモールセコンド輪列を持っており、すなわちこの時計は3時位置に4番車を備えている。そこからダイアル下に追加された積算輪列を介して、センターの秒積算針を駆動する仕組みだ。プッシャーは9時位置。プル作動式のコラムホイールを介してスタート/ストップ/リセットを制御する、古い様式のワンプッシュ仕様だが、しっかりとしたブレーキレバーが備えられているため針の動作も心地よい。
面白いのは3針の重なり方で、追加された秒積算針は分針と時針に挟まれる格好で配置されている。細身のローマンインデックスを持つエナメルダイアルは当時の標準的な仕様だが、このクロノスコープではセンター部分を分割したサンクダイアルとなっている。
実を言えば、このNo.3928を落札したのはモリッツ・グロスマンの日本法人であり、このダイアルをモチーフとしたジャパンリミテッドの企画も準備されているらしい。実機は東京・播磨坂のブティックに展示されるので、興味のある方は足を運んでみてはいかがだろうか。
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