腕時計と聞いて我々の多くがまず想像するのは「丸形の、ステンレススティールケースでできた、時分秒を表示する3針ウォッチ」というところではなかろうか。近年、これらの考えをはるかに超越するモデルが生み出されている。今回は2021年に発表された中から最も「クレイジー」だった素晴らしき6本を選んで紹介しよう。
Text by Alexander Krupp
2022年2月9日掲載記事
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー ”フライング トゥールビヨン」
2021年、オーデマ ピゲのフランソワ-アンリ・ベナミアス社長は、自社とマーベル・コミックのコラボレーションを発表した。このパートナーシップから生まれた最初の時計が、「ロイヤル オーク コンセプト “ブラックパンサー ”フライング トゥールビヨン」である。このモデルは従来の時計ファンに訴求するものではないかもしれないが、その達成したものは否定しがたい。チャドウィック・ボーズマンが晩年に演じたアニメのスーパーヒーロー、ブラックパンサーを忠実に写しているのだ。ハイテクスーツに身を包み、爪のある手袋を装着したブラックパンサーの姿はホワイトゴールドに手仕上げで彩色され、今まさに飛びかからんばかりの迫力だ。その下肢は6時位置のトゥールビヨンケージを取り巻き、右腕の背景にはシースルー加工を施した香箱が配されている。搭載されるのは手巻きキャリバー2965だ。直径42mmのケースはチタン製で、ベゼルとリュウズはセラミックス製である。本モデルは250本が生産されたが、すでに完売済みである。
ロジェ・デュブイ「エクスカリバー グロー ミー アップ!」
トゥールビヨンやダブルトゥールビヨンで知らるロジェ・デュブイは、ジェムセッティングの新しい手法の実現も好む。昼はジュエリーウォッチ、夜はアバンギャルドに変身する「エクスカリバー グロー ミー アップ!」がその好例だ。輝くダイヤモンドはさながら浮かび上がって見えるような仕上がりである。外観は目を引くものだが、技術的背景はそれほど複雑ではない。ベゼルに配された60個のバゲットダイヤモンドには異なるカラーのスーパールミノバ処理が施されることによって、暗所で多彩に浮かび上がるのである。蓄光素材は星型のムーブメントのブリッジ、トゥールビヨンの縁、ほとんど実体のない文字盤の外周部分にも施されている。これにより、夜になると独特な光の饗宴が見られる。太陽が昇ると、この時計は技術的に洗練された、従来のジュエリーウォッチに戻る。直径42mmの18Kピンクゴールド製ケースには自社製手巻きキャリバーRD512SQが搭載されている。
ウブロ「MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシス 5 デイズ パワーリザーブ 3Dカーボン」
ウブロ「MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシス 5 デイズ パワーリザーブ 3Dカーボン」は、特筆すべき要素を数多く備えている。ベゼルとサファイアクリスタル風防は6時位置で従来の円形から抜け出し、下向きに傾斜してケースバックへとつながっている。搭載される手巻きキャリバーHUB9009.H1.RAの6時位置に配されているのは、第1の軸で毎分1回転し、第2の軸で30秒ごとに1/2回転する2軸のトゥールビヨンだ。これは時計が完全に巻き上げられた後、約5日間回転し続ける。またそのパワーリザーブは7時位置に表示される。シースルー加工の施された立体的な文字盤は、ふたつの円弧状の日付表示で囲まれている。直径49mm、厚さ18mmのケースに用いられる素材は「3Dカーボン」だ。これはウブロが得意とする複雑な形に成形できる複合材料である。本モデルはイエロー、グリーン、ブルー、レッドの4色展開で、各8本の限定品である。
ハミルトン「ベンチュラ Elvis80 スケルトン」
三角形のケースが特徴のベンチュラ。現在の展開は自動巻き式とクォーツ式だが、ハミルトンが1957年にこのモデルを世に送り出した時には、世界初の電池式腕時計であった。エルヴィス・プレスリーはベンチュラの最も有名なファンであったろう。彼はオリジナルモデルをプライベートだけでなく1961年の映画「ブルーハワイ」の撮影時にも着用していた。「ベンチュラ Elvis80 スケルトン」は、ベンチュラの初期のスタイルと同様にジグザグの電圧線が描かれている。そのケース形状は現代的にアレンジされており、エレガントなローズゴールドプレーティング加工が施されている。文字盤にはシースルー加工が施され、スポーティーなラバーストラップが組み合わされた。搭載されるのはETAの自動巻きムーブメントをベースとしたキャリバーH-10-Sだ。価格は今回紹介するクレイジーウォッチ6選の中でも手を出しやすいものである。
ウルベルク「UR-220 SL"アシモフ"」
長年にわたりサテライトディスプレイでその名を馳せてきたウルベルク。「UR-220 SL"アシモフ"」は、時間を表示する可動式回転ブロックにスーパールミノバ®グレードX1 BLによる蓄光素材が採用され、暗所で輝くものである。時間表示だけでなく、弧を描く分目盛りやパワーリザーブ表示、ブランド名に至るまで蓄光塗料が塗布されデザインのアクセントとなっている。特筆すべきは時刻表示の構造だ。これはウルベルクが特許を取得した針を使わない「ワンダリングアワー」方式がベースとなっており、時間は3本の回転するアームによってレトログラード式に表示される。各アームには分針の役割を果たす大きなポインターが重ねられ、1時間で120度の分目盛りを移動するようになっている。1時間が経過すると、ポインターは瞬間的にゼロ位置へ戻り、次のアームと共に再び1時間を刻むのだ。手巻きキャリバーUR-7.20は完全巻き上げ状態で約48時間のパワーリザーブを保持し、すべての機能を司る。縦53.6×横43.8mmのケースは樹脂で圧縮された81層のCTPカーボンからなる超軽量のカーボンケースであり、ウルベルクは特殊な製法を用いて、ケースに同心円を描くような質感を与えている。
MB&F「オロロジカル・マシンN°9 "サファイアビジョン"」
2018年に発表された「オロロジカル・マシンN°9」シリーズは1940年代と1950年代の自動車や航空機の卓越したデザインへのオマージュとして生まれた。空気力学に基づく流れるような流線型のケースに、機械に精通した人の目にも耐えるムーブメントを搭載して世に送り出されている。「サファイアビジョン」では複数のカーブとドームを持つ極めて複雑なサファイアクリスタルケースが採用された。ふたつのテンプを備えた手巻きムーブメントにより左右対称な構造が生み出されている。この2箇所からの情報は中央に配された差動装置で平均化され、最適な計時を可能にしている。時分表示は手首に対して垂直に位置する文字盤で行われる。ケース素材は18Kレッドゴールドもしくはホワイトゴールドで、異なるカラーのムーブメントブリッジをあつらえ、全4モデルを展開する。それぞれの限定数はわずか5本である。
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