直接に触れることができないインナーベゼルの操作方法と優位点
フィフティ ファゾムスやT1、GMTマスターⅡは、密閉されたケースの外側に備えた回転するベゼルを直接に操作する方式であった。これに対してSBDC091はケース内部に回転するインナーベゼルを備える。
この場合、可動部分に直接触ることができないため、SBDC091のようにインナーベゼルを操作するために用意されたリュウズを別途備えるモデルが存在する。この操作系を持つダイバーズウォッチの代表がロンジン「ロンジン レジェンドダイバー」である。
過去のアイコニックなモデルの雰囲気を取り組むのが上手いロンジン。特徴的なコンプレッサーケースの形状とインナーベゼル、ふたつのリュウズ、針形状などをオリジナルモデルから引き継ぎながら、30気圧の高い防水性能や、シリコン製ヒゲゼンマイの採用など、実用性の高いモデルに仕上がっている。自動巻き(Cal.L888.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径42mm、厚さ12.7mm)。300m防水。31万4600円(税込み)。
現在のレジェンドダイバーの元となったモデルが、同社の60年代のダイバーズウォッチのRef.7494である。その特徴は、インナーベゼルを備え、2時位置にインナーベゼル操作用リュウズ、4時位置に時刻修正用リュウズを備えるケースである。「スーパーコンプレッサーケース」と呼ばれるこのケースは、ケースメーカーであるエルヴィン・ピケレが特許を取得したものであった。
インナーベゼルは、針とインナーベゼル上のインデックスが近い点が優位である。ケース外側に置かれたベゼルは、針とベゼル上のインデックスが遠く、特に高さ方向に差があるため、斜めから見た際の視認性に劣る。一方インナーベゼルは、ダイアル上のインデックスとほぼ同じ位置関係であるため、どの角度から見ても安定した視認性が確保できる。
欠点としては、インナーベゼルを操作するためには防水性確保のために重要な部品となるリュウズを操作しなければならない点であり、レジェンドダイバーではねじ込み式リュウズを採用して意図しない操作を防止しているが、水中でネジ込みを解放して操作することは推奨されないだろう。また、クリック感のないリュウズでの操作は、大きなベゼルをクリック感と共に直接に操作するのと比べれば操作性に劣る。
アウターベゼルでインナーベゼルを操作するアクアタイマー
60年代、防水ケースの技術が未熟であった各社は、ピケレのスーパーコンプレッサーケースを採用することで実用的な防水時計をリリースすることができるようになった。その採用事例は、ジャガー・ルクルトやハミルトンなどの名門の名が並び、その中にはIWCも含まれていた。
IWCは、このケースを用いて同社初の本格的なダイバーズウォッチとして「アクアタイマーRef.812AD/1812」を発表する。この系譜を引き継ぐのが「アクアタイマー・オートマティック IW329001」である。
オリジナルモデルと全く異なるデザインだがインナーベゼルは引き継がれている。複雑なクラッチ構造を採用してまでインナーベゼルを踏襲するのは、視認性を優先するからだろう。2014年から採用を続けていることを考慮すれば、IWCの技術力の高さと入念なテストと併せて、信頼性にも期待が持てる。自動巻き(Cal.30120)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。300m防水。75万3500円(税込み)。
アクアタイマー・オートマティックは、インナーベゼルを採用しながら、インナーベゼル操作用のリュウズを備えていない。本作は可動するアウターベゼルを備え、9時位置の内部に収められたクラッチ機構を介してインナーベゼルを回転させる構造である。アウターベゼルを回転させた時、左回りではクラッチ部で連結されたインナーベゼルは回転するが、右回りでは連結がカットされて逆回転防止となる。この特徴的なクラッチ機構部分の防水性を確保することで、本作は30気圧の防水性能を実現している。
一般的なアウターベゼルと同等に扱える操作感の高さと、インナーベゼルが時分針と近いことによる視認性の高さを両立する構造である。複雑な構造であるが、信頼性が重要視されるダイバーズウォッチでこれを実現するIWCの技術力の高さが光るモデルである。
ベゼルの活用や意味付けはユーザー次第
今回紹介したものの他にも、カウントダウン表記や12時間表記の回転ベゼルなど、用途によってさまざまな表示方法が存在する。ベゼルは、針の動きにどのような意味付けをするかを決める目盛りとのつながりが深く、用途に合わせた提案がなされてきた。目盛りを工夫して針の動きに新たな意味を与える観点ならば、クロノグラフのタキメーターやテレメーターも忘れてはならないだろう。
それらを活用するためには、技術の背景や仕組みを理解するところから始まる。そしてそれを自分なりにアレンジするのも良いだろう。いずれも、想定された使用方法は存在するが絶対的な正解はないのだ。そこに操作できる要素があるならばぜひ活用して欲しい。愛用する時計がツールとして活用度が高まれば、さらに愛着が増するはずだ。
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