昨秋、3つ星日本料理店とのアライアンスによって老舗ホテルに開業した「帝国ホテル 寅黒」。臨場感溢れる端正な空間で、鷹見将志氏が腕を振るう。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2022年3月号掲載]
長崎産の鮮度の良い養殖のすっぽんを、ばらした後に低温調理することでしっとりと柔らかな口当たりに。濃度が高く旨味のある室戸海洋深層水で炊き上げた天然塩「室戸の塩」を使用。強めの炭火で一気に仕上げ、馥郁たる香りをまとって食べ手のもとに運ばれる。凛とした染め付けの器は、京都の陶芸家、廣野俊彦氏による魯山人写しの成化年製草花四方皿。
食べ手の心を打つ慥かな職人技
1991年、栃木県生まれ。地元の調理科のある高校卒業後、さらに学びたいと専門学校へ1年間通う。卒業後、ミシュラン3つ星に輝き続ける日本料理「神楽坂 石かわ」「虎白」にて11年間じっくりと研鑽を積む。2021年11月、「帝国ホテル 寅黒」調理長に就任。
歴史ある帝国ホテルに、新たな日本料理店「帝国ホテル 寅黒」が誕生した。ミシュラン3つ星の「神楽坂 石かわ」「虎白」をはじめ、ひとつ星の「蓮三四七」「波濤」など7軒を手掛ける石かわグループとの提携によるもので、これまでフランス料理のイメージが強かった同ホテルに新風を吹き込む。
率いるのは、「虎白」にて11年間研鑽を積んだ鷹見将志氏。「実家は、栃木県鹿沼市にある2代続く日本料理店で、料理人である父を見て育った影響も大きく、物心ついた頃から将来の夢は“板前さん”でした。父に帝国ホテルの店に立つことを話すと、以前この場所にあった京料理店で働いたことがあると聞かされ、不思議な縁を感じています」。幼い頃からの夢を叶え、30歳という若さながら、堂々たる存在感を放つ。
「寅黒」は、鷹見氏が研鑽を積んだ「虎白」と表裏一体の意味を持つ店名だ。トラの漢字を換え、白を黒に換え、という遊び心も微笑ましく、かつ覚えやすい。その当時から“一日一試作”として、毎日新たなメニューを考案し、試作を繰り返してきた。
「塩すっぽん」もそこから生まれた、鷹見氏らしさを物語る一皿だ。たれで味付けられることの多いすっぽんの焼き物を、潔く塩で味わう。一見シンプルながら、口に運べば、丁寧な職人技や火入れの妙に感銘を受けるだろう。
「美味しいものは、美しい場所でしか生み出せない」とは「虎白」の店主である小泉瑚佑慈氏の言葉。その考えを胸に刻み、仕事に向き合う。さらに、挨拶や礼儀、思いやりといった最も大切な基本も修業時代に学んだと振り返る。カウンターに立つ流麗な所作やゲストの心を掴む穏和なもてなしは、丁寧に積み重ねたその基本に由来するのかもしれない。
鷹見氏は、真っ直ぐな眼差しでこう語る。「今日お越しくださるお客様に喜んでいただくため。すべては、そこに向かっていくことだけを考えています」。その篤実な想いは食べ手に伝わり、自ずとまた食べたい、また訪れたいと思わせる。
帝国ホテル 寅黒
東京都千代田区内幸町1-1-1 タワー館B1F
Tel.03-3539-8224
日曜・月曜・祝日定休
17:00~22:00(L.O.20:30)
おまかせ3万3000円~(サービス料10%別)
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