オメガは2021年の幕開けとともに「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」を発表し、伝説的なムーンウォッチをマスタークロノメーターへ引き上げるという強力なアプローチを取った。この時計は新しいムーブメントを搭載しているが、今回のテストによって、その外観はカルト的モデルのデザインに忠実であることが詳細に確認された。
Text by Martina Richter
2022年2月22日掲載記事
コーアクシャル エスケープメントやシリコン製ヒゲゼンマイを採用した手巻きキャリバー3861を搭載
1万5000ガウスという超耐磁性能と高い等時性を持つマスタークロノメーター規格。オメガがこれを発表したのは2015年のことであった。以降、オメガは新しいモデルを順次マスタークロノメーターに置き換えていった。そしていよいよ2021年1月には、「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」の発表をもってスピードマスターの定番モデルにもマスタークロノメーターが採用されることとなったのである。幅広いラインナップとともに発表された「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」。ステンレススティールまたはオメガ独自のセドナゴールドとカノープスゴールドを用いたケース、歴史にインスピレーションを得たヘサライトまたは現代的なサファイアクリスタル風防、クローズドもしくはトランスパレントバック仕様の裏蓋に加えて、ストラップもレザーやナイロン、またはメタルブレスレットという選択肢が取り揃えられた。
今回はヘサライトガラス、クローズドケースバック、ステンレススティールブレスレット仕様のモデルをテスト機に選んだ。こちらの価格は税込み81万4000円。これに対し、最も高価なモデルは税込み576万4000円の18Kカノープスゴールドモデルである。オメガの社長兼CEOであるレイナルド・アッシェリマンはこう語る。「スピードマスター ムーンウォッチのようなカルトウォッチをリデザインする場合、すべてのディテールが時計のオリジナルスピリットに忠実でなければなりません。このクロノグラフは世界中で知られているため、私たちはそのデザインに大きな敬意を払いながら取り組み、同時にムーブメントを時計製造の次のレベルへと引き上げました」。
オメガは、2023年にすべての新作時計をマスタークロノメーターとする予定である。現在オメガは年間60万から70万個の時計を生産しており、そしてオメガの時計の99.99%はすでにこの認定を受けている。
オメガの過去に対して敬意を払う姿勢は顕著である。 「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」は、1969年にアポロ11号の宇宙飛行士が月へ飛んだ際に着用したムーンウォッチの第4世代(Ref. ST 105.012)にインスパイアされている。このふたつはいずれもリュウズガードが備わっているため、非対称なケースとなっている。 スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーターはまた、歴史に忠実なハット型プッシャーとリュウズの間にガードを備える。衝撃や不意の操作から保護するため、リュウズはかなり重く、リュウズガードにより掴みやすくはない。またキャリバー3861の約50時間のパワーリザーブに到達するには、かなりの回数を手巻きで巻き上げなければならならず、やや骨が折れる。
ただ手巻きという行為は時計愛好家にとっては愛すべき儀式であり、それは現在の市場において手巻き時計が数を増やしていることからも明らかである。この時計を2日間続けて巻き忘れた場合は時刻調整の必要があるが、このタスクはリュウズ下に爪を滑りこませ、引き出すだけで簡単に対応できる。ムーンウォッチにはデイト表示がないため、リュウズにミドルポジションはない。その代わりキャリバー3861にはストップセコンドが搭載され、正確な時刻合わせが容易だ。マスタークロノメーターであるこの時計は、完全に巻き上げられた状態でも、クロノグラフが作動していてもいなくても、また着用でも非着用でも、あらゆる状況において日差1秒という誤差しか生じない。また個々の姿勢差で弾き出される数値に大きな変動はなく、パワーリザーブが落ちてきた時も安定した振り角を保っていることも特筆すべき点だ。
キャリバー3861は、歴史的なキャリバー861から転用されたものだ。クロノグラフをスタートさせると、先端が矢印型のクロノグラフ秒針も動き出す。正確に1秒を6分割し、ムーブメントの毎時2万1600回の振動数に呼応している。オメガはまたこのクロノグラフ秒目盛りを3ヘルツに対して2本入れている。整然としたストロークは、トリコンパックスの段付きのインダイアルにも施されている。
風防にサファイアクリスタルではなくヘサライトを合わせることは、ムーンウォッチから引き継がれたものの中でも最も正統性の高い部分といえる。しかしヘサライトは傷が付きやすく、今回の着用テスト中もそれは顕著であった。傷が気になる人は、サファイアクリスタル風防を選んでも良いだろう。
スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーターには、開発に4年以上の月日をかけ、2019年春に発表されたキャリバー3861が搭載されている。その開発の出発点となったのは、レマニアのキャリバー1873をベースに1968年から作られていたキャリバー861だ。この振動数は毎時2万1600回で、30分および12時間の積算計、カムスイッチ、水平カップリングなどを搭載していた。これらすべての特徴に加え、キャリバー3861はキャリバー861の直径27mm、厚さ6.87mmというサイズもそのまま受け継いでいる。
キャリバー3861にはストップセコンド機構が搭載されている。さらに最新の製造技術により、歯車はより深く噛み合い、より滑らかに動くよう新たな形状に変更もされた。もちろん、この新キャリバーには1999年に導入されたオメガ独自のコーアクシャル・エスケープメントが搭載されていることは言うまでもない。またマスタークロノメーターの認定を受けるための重要な条件として、この脱進機にはシリコン製ヒゲゼンマイが採用されており、特に認定に必要な1万5000ガウスという強度の磁場に対する保護が保証されているのである。パワーリザーブは約38時間から約50時間へと延長されたことも書き加える。
ステンレススティールブレスレットにはコネクターが固定されており、現在主流のケースとの一体型構造となっている。5列のブレスレットはネジで固定され、クラスプに向かうにつれて幅が狭くなっている。
ポリッシュ仕上げのオメガのロゴが配された片開きのデプロワイヤントクラスプはサテン仕上げで、初期のムーンウォッチモデルを思わせる。微細な点であるが愛好家やコレクターにとって非常に重要なのが、既存モデルでは文字盤側にあった90に付随したドットが、本モデルでは陽極酸化処理を施したアルミニウム製ベゼルリングに配された90の数字の上に配された「ドットオーバー90」となったことだろう。同様に70に付随したドットは70の下位置に「ドット・ダイアゴナル・トゥ 70」として配されている。このようにモデルに特有なディテールは、搭載するムーブメントが現代的なものとなっても確実に伝説的ムーンウォッチと共に歴史を綴り続けるのだ。
精度安定試験
着用時: | +1.1 |
文字盤上: | +1.8/+3.2 |
文字盤下: | +0.5/+1.3 |
3時上: | +1.3/+1.8 |
3時下: | 0.0/−0.2 |
3時左: | +2.6/+2.0 |
最大姿勢差: | 2.6/3.4 |
平均日差: | +1.2/+1.6 |
平均振り角 | |
水平姿勢: | 311°/294° |
垂直姿勢: | 305°/297° |
スコア
ストラップ&クラスプ(最大10Pt): | 歴史にインスパイアされた新しいステンレススティール製ブレスレットと機能的なフォールディングクラスプ、クラスプに付随するネジ留めされたパーツ。8Pt |
ケース(10): | 非対称の歴史にインスパイアされたケース。ヘサライト風防は傷が付きやすいが、サファイアクリスタルの選択肢も有る。クローズドケースバック。8Pt |
文字盤と針(10): | やはり歴史にインスパイアされたデザイン。すっきりとした正確なスケール、適切な針。8Pt |
デザイン(15): | ムーンウォッチはスタイルアイコンである。最新の注意を払って変更がなされている。歴史的ディテールに裏打ちされたベゼル。認知度の高い価値。12Pt |
視認性(5): | 昼夜問わず時間の視認はしやすい。針は適切な長さを保ち、正確な経過秒の目盛りを配する。デイト表示はなし。4Pt |
操作性(5): | リュウズは若干操作しにくい。プッシャーの押し感は適切である。4Pt |
着用感(5): | 着用感のよいケースとストラップ構造という、好ましいプロポーション。4Pt |
ムーブメント(20): | 手巻き、コラムホイール、振動数ともに歴史的ディテールにならった現代的ムーブメント。C.O.S.C.認定取得。METAS認定のマスター クロノメーター。19Pt |
精度(10): | あらゆる状況において非常に良いスコア。いくつかの姿勢において数値、振り角にわずかな差が見られる。10Pt |
総合評価(10): | ムーンウォッチは同じような時計に比べて、費用対効果も高く、成功裡に現代化された伝説である。9Pt |
合計: | 89Pt |
※本記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
https://www.webchronos.net/features/35364/
https://www.webchronos.net/features/70717/
https://www.webchronos.net/features/63178/