単なる復刻版にあらず、チューダー「ブラックベイ クロノ」をレビューする

FEATUREWatchTime
2022.02.28

チューダーは、半世紀以上における自社のクロノグラフの歴史を誇り、伝統的な美意識と現代的な時計作りを絶妙に融合させた「ブラックベイ クロノ」を発表した。スリムなケースやコントラストのあるサブダイアルを備えた文字盤、そして現代的なムーブメントを搭載したこのモデルは、単なる復刻版とは一線を画している。モータースポーツと密接な関係を持つこのタイムピースを、私たちはテストしてその詳細にまで迫った。

チューダー「ブラックベイ クロノ」。自動巻き(cal.MT5813)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。C.O.S.C.認定クロノメーター。SS(直径41mm、)。200m防水。ファブリックストラップ。56万8700円(税込み)。
Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter
2022年2月28日掲載記事

1970年代のヴィンテージモデルから着想を得たデザイン

 チューダーは、1970年に同社初のクロノグラフ「オイスターデイト」を発表して以来、モータースポーツの世界と密接な関係を持つ時計を作り続けている。2021年に発表された新型の「ブラックベイ クロノ」は1970年代のレーシングカーからの着想を映しつつ、現代的な腕時計の機能を備えている。搭載される自動巻きキャリバーMT5813は、約70時間のパワーリザーブを備え、シリコン製ヒゲゼンマイを採用することで安定した歩度を実現し、耐磁性も向上させたものだ。ストップウォッチ機構は歴史的なインスピレーションを受けながらも、現代的なコラムホイールと垂直クラッチを備えている。

 スポーティーなブラックベイ クロノに組み合わされるファブリックストラップは、19世紀から続くジャカード織を継承するフランス・サンテティエンヌのジュリアン・フォール社で織り上げられたものだ。150年にわたる歴史を持つ家族経営の同社がチューダーとパートナーシップを結んでから、2020年で10年となる。

 ブラックベイ クロノにはファブリックストラップの他に、ブント付きエイジドレザーストラップも用意されている。これは生成りのステッチを施しフォールディングクラスプを備えたもので、70年代から受け継がれるモータースポーツとのつながりを表したものだ。またステンレススティール製ブレスレットの選択肢もある。こちらは1950年代、60年代のリベットをあしらったモデルに着想を得たもので、リベットは階段構造のリンクを止めるためにブレスレットの側面に施されたパーツである。ブレスレットの先端には、チューダーの盾のアイコンがあしらわれた安全バーを備える片開きのフォールディングクラスプが備えられている。

 ステンレススティール製ケースの直径は41mmある。厚さは14.5mmで、これは2017年に発表された旧型よりも1mm薄い仕様だ。ステンレススティール製の固定ベゼルの表面には黒色のアルマイト処理が施され、タキメーターの目盛りが付けられており、ブラックベイの個性がしっかりと継承されている。

ブラックベイ クロノには、チューダーのヴィンテージモデルから着想を得たデザインが随所に施されている。


現代的な設計による簡潔で心地よい操作性

 ブラックベイ クロノにはチューダーのクロノグラフの第1世代にインスパイアされた、頑丈なステンレススティール製のクロノグラフプッシャーが搭載されている。クロノグラフを駆動させるためにまずセキュリティポジションからプッシャーを開放する必要があるが、これは容易ではない。ストップウォッチ機構を動かすにはねじ込みを完全に解く必要があり、またクロノグラフをスタートさせるにはプッシャーの抵抗が非常に強いため、それなりの労力が必要だからだ。ただストップ・リスタートの動作はスムーズで、リセットは非常に正確である。

 大きなリュウズは長いチューブ内に配され、ねじ込みをセキュリティポジションからほどき開放すると、反時計回りにジャンプする。手巻きにおけるノイズはほとんどない。またクイックデイト調整と時刻調整を行うポジションに引き出しやすい。ねじ込むのもシンプルで、ゼンマイの抵抗も適切だ。リュウズヘッドにはチューダーのバラ模様があしらわれている。

「ブライトリング 01」をベースに改良を加えられた自動巻きムーブメントMT5813。ケースバックを開けるには専用の工具が必要だ。

 ケースには20気圧の防水性が担保されている。刻みのついたクローズドバックがケースを密封し、これは専用ツールによってのみ開けることができる。文字盤は美しく磨き上げられたドーム型のサファイアクリスタル製風防で覆われ、時計のレトロな魅力を引き立てている。マットブラックまたはオパーリンカラーの文字盤にはカラーコントラストを成しつつ配されたバイコンパックスのくぼんだカウンターを見ることができる。

 スモールセコンドのサブダイアルは9時位置で作動し続ける。一風変わったクロノグラフの45分カウンターは3時位置に配されている。ほとんどのクロノグラフの積算計は30分、また新しいものでは60分となっているが、この特別なカウンターには歴史的由来がある。チューダー最初のクロノグラフの積算計は45分だったのだ。6時位置の日付表示もまた、チューダーのクロノグラフ第1世代からの系譜である。

 サブダイアルは少々小さめに見えるが、日付は大きく表示され、視認性は高い。午前0時の直前には、迅速な日付表示変更が行われる。日付表示の調整は何時でも行える設計だ。はっきりとした円と三角形のマーカー、そして「スノーフレイク」針が文字盤の個性を確定している。たっぷりと塗布されたスーパールミノバは、1969年のチューダーのダイバーズウォッチからの特徴であり、新しい自社製クロノグラフムーブメントが投入された2017年のヘリテージ ブラックベイにおいても見られる。

 クロノグラフのベースムーブメントは、ブライトリングのマニュファクチュール キャリバーである「ブライトリング 01」をベースにチューダーの技術が組み合わされたものだ。シリコン製ヒゲゼンマイを備えたベースムーブメントに、チューダーは独自のローターを組み合わせた上でキャリバーMT5813として完成させ、C.O.S.C.認定を取得している。一方ブライトリングはチューダーの3針キャリバーMT5612を自社のベースムーブメントとして採用している。両者のコラボレーションは2017年から開始している。

ブラックベイ クロノのステンレスブレスレットモデル(左、税込み60万5000円)と、カーフレザーストラップモデル(右、税込み56万8700円)。

 スケルトン加工が施されたローターはタングステンから作られ、ビーズブラスト加工とサンドブラスト仕上げが施されている。ブリッジと地板にも同じ仕上げが施され、さまざまなレーザーエングレービングを引き立てている。テンプは4つのネジによって微調整が可能だ。C.O.S.C.のクロノメーター基準を担保するべく、時計の日差は-4秒、+6秒以内に収まっている必要がある。それを到達すると同時にチューダーでは最大姿勢差を日差-2から+4秒とし、C.O.S.C.とは対照的に完全に組み上げた時計に対して確認を行っている。今回のテストでは、ブラックベイ クロノは完璧にこの数値に収まっていた。平均値はプラス2.5から3.5秒であったが安定しており、姿勢差による偏差はわずかであった。振り角はクロノグラフ駆動時に数度落ちたが、その他の数値同様にどのような状況下でも姿勢差によってわずかに変化が見られただけであった。シンプルではあるが、非常に良い結果といえる。

 1970年に発表された手巻きのヴァルジュー7734搭載モデルに見られたクロノグラフの分積算計を再現するためには、ブライトリングのオリジナルムーブメントに、別の技術が必要とされた。この経過分の視認は難しいと言わざるを得ない。くぼんだカウンターは極めて小さく、大きな四角を伴うスノーフレイク針の先端は時にカウンターを覆い隠してしまうのである。

 もう片側のスモールセコンドサブダイアルも、時により幅広の時針の先端に隠れてしまうことがある。しかし運針し続ける秒表示によって時計が動いているかどうかの確認を行いたい場合は、クロノグラフを動かすという方法がある。先端が赤い矢の形状をしたセンター秒針は、正確にストップウォッチのセコンドトラックを指し示す。垂直クラッチは、クロノグラフのスタート時の針飛びを防いでくれる。

 オパーリン文字盤の視認性は特に高く、それは暗所における黒文字盤でも顕著だ。ただストップウォッチ機構には蓄光塗料は施されていない。秒の目盛りの間の3本の線はムーブメントの振動数4ヘルツを反映している。

採光条件が良くない場合でも、しっかりとした幾何学的形状のマーカーやスノーフレイク針は明るいグリーンに浮かび上がる。

 夜の帳が降りると、文字盤上にあるマーカーと針の幾何学的形状が明るいグリーンに輝き始める。チューダーがクロノグラフを作り始めて50年以上が経つ。モダンレトロなブラックベイ クロノと共に、チューダーはクルージングを続行する。


精度安定試験

(秒単位日差、完全巻き上げ時/24時間後)
着用時: +2.5
文字盤上: +3.1/+3.7
文字盤下: +3.7/+4.6
3時上: +1.2/+2.3
3時下: +2.5/+2.5
3時左: +4.1/+4.6
最大姿勢差: 2.9/2.3
平均日差: +2.9/+3.5
平均振り角
水平姿勢: 288°/280°
垂直姿勢: 279°/256°


スコア

ストラップ&クラスプ(最大10Pt): 他にはない特徴を持ったハイクオリティなブレスレットとストラップ。9Pt
ケース(10): 正統派のリュウズ・プッシャー・風防を備えた新しく、シンプルなケース。8Pt
文字盤と針(10): 印象強いマーカーとあり。トレンディなバイコンパックスのレイアウト、トレードマークな外観。9Pt
デザイン(15): 多くのレスペクトを含んだチューダーのクロノグラフの再解釈に成功。14Pt
視認性(5): 昼夜問わず時間の視認性は高い。大きなデイト表示。 カウンターは比較的小さく、時に針によって隠れてしまう。4Pt
操作性(5): 大きなリュウズは操作しやすい。クロノグラフのプッシャーは使用前にねじ込みを解く必要あり。4Pt
着用感(5): 着用性の良いケースサイズ。ブレスレット、ストラップともに着け心地は良い。4Pt
ムーブメント(20): 現代的な専用キャリバー。ブランドを代表する仕上げ。長いパワーリザーブ。クロノメーター。軽快なクロノグラフ動作。18Pt
精度(10): バランスの取れた数値。姿勢差僅か。振り角変動は低い。クロノメーター基準に準拠。9Pt
総合評価(10): 現代的キャリバー、正統派のレトロデザイン。 チューダーブランドの認知上昇に連動した適切な価格。8Pt
合計: 87Pt

※本記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。


Contact info:日本ロレックス / チューダー Tel.03-3216-5671


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