今年初めての驚きが、スピードマスターの65周年記念モデルだった。約1000万円という価格はさておき、あのキャリバー321を搭載していたのである。オメガ副社長のジャン=クロード・モナションは、キャリバー321の発表に先駆けて、年に150〜200本しか作れないだろう、と筆者に漏らした。しかし、昨年はSSモデルを発表し、今回は派生モデルも加えた。生産性は改善されたのだろうか?
[クロノス日本版 2022年3月号掲載記事]
オメガの成熟を感じさせるスピードマスター65周年記念モデル
1957年、スイス生まれ。97年にオメガ入社以降、商品開発兼カスタマーサービス担当副社長として、Cal.8500系以降のコーアクシャル脱進機搭載ムーブメント開発などを指揮するほか、外装を含むプロジェクト全般を統括する。また、カスタマーサービスの改善にも携わる。時計業界における最も優秀なプロダクトマネージャーのひとり。現在は「マスター クロノメーター」プロジェクトに注力している。
「キャリバー321は非常に特別なムーブメントだ。専用の工房で手作業によって組み立てられている。大量生産ではなく、ムーブメントの歴史やクラフツマンシップを尊重するのが、より重要な目的だ。キャリバー321搭載モデルをより多く作るようになったため、生産性は自然と高まるだろうが、最も優先すべきは高い品質基準を常に保ち続けることだ」。控えめな表現ながらも生産本数は微増しているのだろう。キャリバー321の再生産に際し、彼はブレゲの工場(旧レマニア)があるロリエントから金型をすべて持ってきたと語った。それをいまだに使っているのだろうか?
「キャリバー321のオリジナル金型は使っていない。実のところ、正確な仕様になるようにすべての小さなパーツを再現するまでに約2年を要した。これには研究者、開発者、歴史家、熟練の職人などによる専門家チームが関与して、まさにゼロから始めた」。キャリバー321の組み立ては良い意味で「合理化」されていないようだ。
「現在、ムーブメントと時計の組み立てはキャリバー321の専用工房で行っている。それぞれの時計におけるすべての作業を同一のウォッチメーカーが手掛け、完成までに丸2日をかけて作り上げている」
当初の組み立てはトゥールビヨン工房。だが、需要の増加に応じて専用工房を設けたわけだ。しかし、なぜスピードマスター65周年モデルにカノープスという変わった18Kゴールド素材を採用したのだろうか?
「非常に特別な、唯一の素材を使いたかったためだ。カノープスゴールド™は最適な選択だったと思う。なぜならこれはオメガ特有の素材で、輝度や耐久性において確かな品質を提供できるからだ。ややグレーがかったメタリックな見かけは、1957年のステンレススティールモデルへのトリビュートだが、カノープスゴールド™のおかげで、より白い独特なスタイルとなった」
少なくとも、オメガは近年、かなりきちんとしたブレスレットを作れるようになった。カノープスゴールド ™ 製のブレスレットは、それを反映したものだろう。
一見地味ながらも、オメガの進化を強く感じさせるスピードマスター65周年記念モデル。さて、2022年は、どんなモデルがこれに続くのだろうか?
初代CK2915-1を思わせるスピードマスター65周年記念モデル。傑作ムーブメントCal.321Bを搭載。外装には退色しにくいホワイトゴールドの一種であるカノープスゴールド™を採用。裏蓋のサファイアクリスタルにはリキッドメタルの技術を応用して、シーホースの目にブルーサファイアがあしらわれる。手巻き(Cal.321B)。17石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kカノープスゴールド™(直径38.6mm、厚さ13.92mm)。60m防水。1031万8000円(税込み)。
https://www.webchronos.net/news/74945/
https://www.webchronos.net/features/76205/
https://www.webchronos.net/features/66767/