なぜ「一気に延びた」のか? 腕時計の品質保証期間、大延長の理由

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

なぜかあまり注目されていないが、ここ数年の時計業界のトピックで、筆者がいちばん注目していること。それが「品質保証期間の延長」だ。なぜ時計メーカーや時計ブランドは「品質保証期間の延長」に取り組んでいるのだろうか? 代表的な時計ブランドからの回答を踏まえて解説する。

渋谷ヤスヒト:文 Text by Yasuhito Shibuya
(2022年2月12日掲載記事)


2年、5年、8年、そして10年!

「なぜもっとアピールしないのか? 誰にとっても良いニュースなのに」と、この数年間、ずっとそう思っていることがある。それが今から約3年前、2018年11月から始まった、2年間から5年間、さらに8年間、そして10年間という、腕時計の品質保証期間の大幅な延長だ。

 25年以上も時計について取材してきた中で、消費者にとってこれほど良いニュースはないと思う。実現した時計メーカーや時計ブランドを心から称賛したい。

 このトレンドの先頭を切ったのはオメガである。2018年11月、その4カ月前の7月以降に発売した製品から、従来2年間だった品質保証期間を一気に2.5倍の5年間に延長した。同じスウォッチ グループのロンジンも、2021年1月以降に購入したモデルから、品質保証期間を2年から5年に延長している。

 国産時計の最高峰グランドセイコーも2021年10月、1月にさかのぼって品質保証期間をやはり従来の3年間から5年間に延長すると発表。同時にこれまで国の基準に沿って「発売後10年間」と限定していた「修理対応期間の限定」をなくした。

 また、これに先駆けて2019年春にジャガー・ルクルト、秋にIWCも、2年間の保証期間がまだ残っているオーナーも含めて、ウェブでユーザー登録した購入者にトータルで8年間の品質保証とサービスプログラムを提供すると発表した。

 そして2021年春、オンライン開催された「WATCHES & WONDERS 2021」で、チューダーが「5年保証」に加えて「オーバーホールは10年後でOK」というメッセージを発信。さらにオリスがウェブからのユーザー登録を条件に、パワーリザーブ約120時間(約5日間)の自社製ムーブメント「キャリバー400」シリーズの10年間保証を宣言した。

オリスが自社開発した日付表示付き中3針の自社製ムーブメント「キャリバー400」。その後、日付表示を省いてスモールセコンドに変更したキャリバー401、さらにこの日付表示なしスモールセコンドムーブメントにポインターデイトを追加したキャリバー403も登場している。

 25年以上、時計について取材をしてきたが、まさかここまで保証期間が延びるとは思わなかった。これは画期的なことだと思う。


品質保証を「延ばせた理由」は技術革新

 ところで、なぜこの「品質保証期間の大幅な延長」が可能だったのか?

 その要因は、ここ数年、続々と新作腕時計に導入されている「新世代ムーブメント」に象徴される、機械式ムーブメントとその製造・検査技術の急速な技術革新にある。

 今回、筆者はオメガ、グランドセイコー、ジャガー・ルクルト、オリスに対して「品質保証期間を延長した理由」について質問した。

 予想していたことだが、上記4ブランドの回答は基本的にすべて同じだった。その理由は「ムーブメント自体、さらに品質管理やサービス体制の技術革新」である。

 ではムーブメントの「技術革新」とは何か? それは具体的には、従来の部品より桁違いに寸法精度や品質が安定したシリコン製のヒゲゼンマイや脱進機(アンクルとガンギ車)、腕時計修理の最大の原因であるパーツの帯磁が起きない非磁性パーツの採用だ。

 2018年7月発売モデルから5年間品質保証を実現し、この「技術革新」の先頭を走ってきたのがオメガである。その象徴が、今や手巻きの「スピードマスター ムーンウォッチ」までほぼすべての製品に搭載されている高精度、高耐久性、高耐磁性を備えた「マスター コーアクシャル」ムーブメントだ。

オメガの「マスター コーアクシャル」ムーブメント。スイス公式クロノメーター検定機関COSC認定クロノメーターと1万5000ガウスの磁気にさらすテストを含むMETAS(スイス連邦計量・認定局)の試験をクリアした「マスター クロノメーター」規格を備える。

 これまでのスイスレバー式脱進機とはまったく構造が異なる独自の「コーアクシャル脱進機」を採用。さらにシリコン素材のヒゲゼンマイや、帯磁しない合金「ニヴァガウス」などをバーツに採用することで、従来の約2倍と言われる耐久性や、COSC認定クロノメーターを超える精度、1万5000ガウスという異次元の耐磁性能を実現している。